「高気密・高断熱」のお家とは? 女性一級建築士がメリットとデメリットを解説

新築一戸建て注文住宅の購入を検討する際は、立地や間取り、お値段などを気にされる方が多いと思います。しかし、一級建築士のしかまのりこさんによると、これからの住宅選びは「高気密・高断熱」の住宅性能を意識することが重要になるそうです。では、高気密・高断熱のお家にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

しかまのりこ プロフィール
しかまのりこ プロフィール

COLLINO(コリーノ)一級建築士事務所代表
「~地球にやさしい 家族にやさしい~」をコンセプトに、延べ5,000件以上の住戸の設計・検査・審査に携わる。また、これまで300軒以上のリビング・寝室・子ども部屋の模様替えをおこなった実績から、模様替えのスペシャリストとして、日本テレビ「ZIP!」、テレビ朝日「グッド!モーニング」、扶桑社「住まいの設計」、小学館「週刊 女性セブン」などのテレビ・雑誌でも活躍中。
 書籍「狭くても快適に暮らす、家具配置のルール」(2021年2月彩図社より発売予定)
 https://collino-home.com

一級建築士のしかまのりこです。2021年4月に「建築物省エネ法」という法律が「改正建築物省エネ法」へ生まれ変わりました。その改正によって重要視されるようになるのが、高気密と高断熱。では、具体的になにが変わるのか、それぞれ解説していきます。

「改正建築物省エネ法」とは

2021年4月から「改正建築物省エネ法」が施行
2021年4月から「改正建築物省エネ法」が施行

「改正建築物省エネ法」施行で何が変わる?

「改正建築物省エネ法」とは、住宅や建築物の省エネ対策強化を図る取り組みとして2015年に施行された「建築物省エネ法」の一部を改正して定められた法律です。建築物省エネ法の枠組みを抑えつつ、よりエネルギー消費を抑えられるように改正されたのですが、住宅購入を検討されている方に注目してもらいたい項目が加わりました。

それは「小規模住宅(300㎡未満)」を着工する前に、建築士から依頼者に「省エネ基準に適合しているか否か」を説明する義務が発生するという項目です。この改正による依頼者のメリットは、これまであまり把握する機会がなかったマイホームの省エネ性能について、考える機会が増えることです。 仮に不適合と判断された場合でも、たとえば「窓の断熱性能を高めれば、基準を満たせる」といった具体的なアドバイスが、担当建築士からもらえるので、マイホームを省エネ基準に適合させたいと考える方が増えると見られています。

これからのお家づくりは「高気密・高断熱」がポイントに

省エネ基準を満たすには「高気密・高断熱」を意識したお家づくりをする必要があります。高気密・高断熱のお家は、精度の高い建築材や断熱材、気密テープなどを使い断熱性能を高め、できるだけ隙間がないようにつくられるのが特徴で、一般的な住宅と比べて建築費が高めです。しかし、コストがかかる分、部屋の中の温度差が無いなど生活をするうえでのメリットもたくさんあるのです。

高気密・高断熱住宅のメリット

高気密・高断熱住宅のメリット
高気密・高断熱住宅のメリット

高気密・高断熱住宅のメリット①光熱費を削減できる

高気密・高断熱のお家は、室内の空気が外へ逃げにくく、冬の寒さや夏の暑さの影響を受けることも少なくなります。エアコンや暖房器具などを使用しても最低限の稼働で済むので、光熱費を削減できるわけです。

高気密・高断熱住宅のメリット②快適に暮らせてヒートショックの予防にもなる

さらにお家全体の温度差が少なくなるので、ホテルのような快適空間を実現させることができます。冬場に廊下や洗面所、トイレなどが寒いと感じることも少なくなるでしょう。急激な室温差が原因となって発症するヒートショックのリスクも軽減されます。

高気密・高断熱住宅のメリット③掃除の負担を減らせる

お家全体の温度差が少なくなることで生まれる副産物もありまして、実は掃除の負担を減らすことができるのです。室内の壁表面温度が均一だと、空気の対流による静電気が発生しなくなり、壁にホコリが付きにくくなります。 天井近くの壁などはホコリを取るのも一苦労で、放っておくと黒ずみになってしまうことも。それらを取り除く頻度を大幅に減らせるのは、メリットと言って差し支えないでしょう。

高気密・高断熱住宅のデメリット

高気密・高断熱住宅のデメリット①壁内結露のリスクが高まる

一方で、高気密・高断熱のお家にはデメリットや注意点もあり、そのうちのひとつは壁内結露のリスクが高まること。壁内結露は、壁に断熱材を入れる際、柱と断熱材の間に小さな隙間ができることで発生しやすくなります。 この作業は手作業でおこなう必要があり、どうしても施工ミスが起きやすいので、リスクを最小限に抑えるためにも、高気密・高断熱のお家づくりに慣れているハウスメーカーに施工を依頼しましょう。

高気密・高断熱住宅のデメリット②ハウスダストへの対策が必要

外気の影響を受けにくいということは、裏を返せば室内に空気がこもりやすいということです。デメリットとして、発生したハウスダストが室内に長時間留まる可能性があります。とは言え、2003年以降に建てられた住宅には24時間換気システムの設置が義務付けられるようになりましたので、意図的にこの換気システムを停止させなければ問題ありません。

「ZEH」と「HEMS」とは?

「ZEH」と「HEMS」とは?
「ZEH」と「HEMS」とは?

お家を高気密・高断熱にして、さらに省エネ性能を最高レベルにまで高めたいと考えている方は「ZEH(ゼッチ)」や「HEMS(ヘムス)」という言葉を意識してお家選びをするのも良いでしょう。

ZEHとは「ネット・ゼロ・エネルギーハウス」の略称です。高気密・高断熱の省エネ性能を確保することに加えて、太陽光発電やエコキュートなどを使用し、家庭の消費エネルギーを使うのではなく、自ら創出することを目指した住宅のことをいいます。ZEH住宅では、自家発電した電力を使用することになるので、月々の光熱費を大幅に抑えることが可能です。

HEMSとは、「ホーム・エネルギー・マネジメント・システム」の略称です。エアコンや照明器具などの電力消費量を“見える化”したり、自動制御できたりする電力管理システムのことで、搭載すれば負担を感じることなく節電することができます。また、電気を貯めるシステムでもあり、太陽光発電で生み出したエネルギーを蓄電池に貯め、効率良く活用することができます。

また、ZEHとHEMSの導入は国や自治体が推奨していることなので、申請すれば補助金がもらえます。一般的な高気密・高断熱のお家よりもさらに高額なので、補助金制度はぜひ活用しましょう。 「住宅の補助金・減税・優遇オールガイド」というサイトは毎年新しい情報が更新されるので、参考にしてみてください。

高気密・高断熱住宅を建てる際のポイント

高気密・高断熱住宅を建てる際のポイント
高気密・高断熱住宅を建てる際のポイント

ポイント①主な断熱工法は「外断熱」と「内断熱」の2種類

内壁や床、天井に断熱材を敷く「内断熱」は「外断熱」よりも安価な施工が可能
内壁や床、天井に断熱材を敷く「内断熱」は「外断熱」よりも安価な施工が可能

一般的に良く使われている断熱工法は、お家の外側を断熱材で覆う「外断熱」と、お家の内壁や床、天井などに断熱材を敷く「内断熱」の2種類です。この両方の断熱材を使って施工するハウスメーカーは少ないので、それぞれの施工を得意とするメーカーに依頼するのが良いでしょう。

安価に施工できるのは「内断熱」ですが、断熱効果が高いのは「外断熱」です。ただ「外断熱」の工事は手間がかかることから施工コストが高くなりますし、工事監理の不十分な施工をされると施工ミスが生じやすく結露やカビが発生する原因になるので注意が必要です。お家を「外断熱」にしたい場合は、信頼と実績のあるハウスメーカーに依頼することをオススメします。

ポイント②窓を高気密・高断熱仕様にする

窓を高気密・高断熱仕様にして、外から入る空気を極力減らす
窓を高気密・高断熱仕様にして、外から入る空気を極力減らす

気密性と断熱性を高めるためには、窓も重要なポイントです。断熱性能が高いサッシを付けるなどして、窓の外から入る空気を極力減らしましょう。最近では「Low-Eガラス」というガラスを使った断熱効果の高い窓が、住宅の施工に多く使われるようになりました。ですが、この窓は寒冷地仕様と温暖地仕様で窓の性能が異なり、それを間違えると、夏場に日射光を取り込みすぎて部屋が暑くなるなどのトラブルが起きやすくなります。 そのようなミスは、高気密・高断熱のお家づくりに慣れていないハウスメーカーほど起きやすいので、繰り返しになりますが、施工は信頼と実績のあるハウスメーカーに依頼しましょう。

ポイント③凸凹の多い間取りは避ける

凸凹が多い間取りは空気がたまりやすく冷暖房の風が届きにくい
凸凹が多い間取りは空気がたまりやすく冷暖房の風が届きにくい

冷暖房の効率を良くするため、凸凹の多い間取りは避けた方が良いでしょう。複雑な間取りの部屋は、空気のたまりができやすく、冷暖房の風がすみずみまで届きにくいので、せっかくの高気密・高断熱の効果を発揮しづらくなってしまいます。

ポイント④庇や軒を作る

庇や軒があると、夏場の日射光が室内に入るのを防げる
庇や軒があると、夏場の日射光が室内に入るのを防げる

お家に庇(ひさし)や軒(のき)があると、夏場の強力な日射光が室内に入るのを防げるので、室温の上昇を防いでくれます。最近ではデザイン性を考慮して、軒部分が25センチ以下の軒ゼロ住宅が流行っていますが、快適な暮らしを求めるのであれば、庇や軒はしっかりあった方が良いでしょう。

今のお家を高気密・高断熱にするには? 簡単にできるリフォーム事例

今のお家を高気密・高断熱にするには? 簡単にできるリフォーム事例
今のお家を高気密・高断熱にするには? 簡単にできるリフォーム事例

最後に、今のお家を高気密・高断熱にグレードアップできる簡単なリフォーム事例をご紹介します。リフォームするだけでも、意外と快適に暮らせるようになったり、光熱費を削減できたりするのでオススメです。さまざまな補助金制度もあり、たとえば「省エネ改修」という制度では、最大200万円の補助金がもらえます。 制度ごとにもらえる金額や条件が異なるので、先ほどご紹介した「住宅の補助金・減税・優遇オールガイド」で、ご自身にあったものを選びましょう。

性能の高い窓にリフォーム

手っ取り早く高気密・高断熱なお家にしたいなら、窓のリフォームからはじめるのがオススメです。窓からの熱損失は40%から50%程度と言われているので、性能の高いものに変えるだけで効果を実感できるでしょう。施工は簡単なものであれば1日程度でできますし、費用も1箇所10万円からとリーズナブルです。

床と天井に断熱材を敷き込む

床下と天井に断熱材を敷き込むのも手軽にできるリフォームのひとつ。壁や天井に設置された点検口から内部に入って作業をするため、外壁に手を加えるなどの大掛かりな工事をしなくても、お家を高気密・高断熱仕様にできます。 施工期間はお家の広さや職人の数により変わりますが、早ければ1日から2日程度でおわり、また予算も1㎡につき、1万円からとリーズナブルです。

内壁に断熱ボードを貼る

内壁に、石膏ボードに断熱材がプラスされた断熱ボードを貼るリフォームです。壁を剥がす必要はなく、ペタペタと断熱ボードを貼るだけなので、1日から2日程度で施工できます。家の広さにより施工費用は変わりますが、一般的な30坪程度の戸建て住宅で、外気に面する部分すべてをリフォームする場合は、40万円から50万円ほど掛かります。

【おまけ】断熱カーテンを導入する

ホームセンターなどで販売されている断熱カーテンを使えば、すぐにお家の断熱性を高めることができます。リフォームではないので補助金は出ませんが、熱や冷気を遮断し、外気が室内に入るのを防いでくれるので、模様替え感覚で導入するのもオススメです。 値段は高いものから安いものまでさまざまですが、カーテンに裏地をプラスすれば、さらなる効果を実感できると思います。

高気密・高断熱のお家とは? まとめ

「改正建築物省エネ法」が施行され、ますます高気密・高断熱という言葉が浸透していくことでしょう。快適な暮らしをするためにも欠かせない要素なので、新築でマイホーム購入を検討する際は意識して取り入れるようにしてくださいね。
注文住宅は建売住宅のように完成後の建物を購入するわけではないため、完成イメージをもつことが難しいものです。昨今はVRで完成イメージを確認できるサービスが出ていますので、事前にVR住宅内覧により完成後のイメージを確認することができますよ。

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