2022年は、新型コロナウイルスの感染拡大や世界情勢の混乱により、世界的に燃料が高騰しインフレが加速しました。身の回りでも食料品や日用品、光熱費など生活必需品の物価上昇が続いています。また、土地が値上がりし、住宅資材も高騰していることから、住宅の値段も上がってしまいました。それでも、結婚や出産、お子様の成長などをきっかけに家族が落ち着いて過ごせるお家を買いたいとマイホームを検討されている方もいらっしゃるでしょう。そこで、“住まいのお金専門家”であるファイナンシャル・プランナーの有田美津子さんに、2023年の住宅購入について、アドバイスを伺いました。マイホーム購入のためにやっておくべきことや注意点、資金計画、収入から考える住宅ローン借入金の目安や住宅ローン金利の選び方などもお聞きします。
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)/CFP®/住宅ローンアドバイザー(住宅金融普及協会)/相続診断士(相続診断協会)/WAFP関東(女性FPの会)副会長
2011年 企業に属さず第三者的な立場でコンサルティングを行うFPとして事業を開始。現在は家計や保険見直し、ライフプラン相談はもちろん介護が必要になっても最後まで自分らしく住み続けるためのリフォームや、安心・安全に暮らせる住まいへの住み替え支援に力を入れている。
公式HP:http://www.fparita.com/
ファイナンシャル・プランナーの有田美津子です。住宅購入に関して多くの方から「頭金が少ないけれど、マイホームを買っても大丈夫?」「いくらのお家までなら買っても良い?」と相談を受けます。とくに近年のような厳しい状況のなかでは、迷いや悩みが多くなるものですよね。今回は私がこれまで培ってきた実務経験や実生活での経験をもとに、売り手ではない第三者のフラットな立場から、マイホーム購入のタイミングや注意点などをお話しいたします。
目次
1.マイホーム購入のタイミングを考えるうえでの注意点
2.2023年はどっちの住宅ローンを選ぶ? 固定金利と変動金利
3.不景気、インフレ、住宅支援事業……2023年の住宅購入を考える
4.2023年は買い時? FPが教える住宅購入のタイミング&住宅ローン金利 まとめ
マイホーム購入のタイミングを考えるうえでの注意点
2022年の住宅事情としては、円安やウクライナ侵攻、ウッドショック、アイアンショックなどにより建築資材の高騰が続いたため、戸建て住宅価格に大きな影響が出ました。しかし、コロナ禍でテレワークが浸透したことから、ワークスペース付きのマンションや一戸建て住宅の需要が高まった年でもあったようです。価格が上がっても住宅の需要はあったとも言えるでしょう。なので、世界情勢や日本経済の観点から2023年が買い時か否かを考えるよりも、それぞれのご家庭を中心軸に置いて検討することが重要だと思います。
私のもとへ相談に来られる方の多くは結婚や出産、子どもの小学校入学や私立学校への入学が決まったなどのタイミングで、マイホーム購入を検討されています。しかし、人生設計やライフイベントがいつ起こるかはそれぞれ異なるため、このタイミングやこの年齢でといった、誰にでも当てはまるような買い時というものはないんですね。
ただ、買いたいと思ったときにすぐ行動に移せるよう、事前の準備は大切です。資金計画の面から見ると、住宅ローンは年齢が上がるほど働いている間の返済期間が短くなり、返しにくくなりますので、早めに資金の準備を始めることが重要でしょう。
マイホームを購入する際、「頭金はいくら必要か?」といった話題もよく目にしますが、収入や住宅ローン返済の計画、買いたい物件の価格によって異なるため、一概に金額は決められないと考えています。しかし、住宅購入にかかる手数料などの諸費用は、住宅ローンに組み込むことはできても、ローンの金利優遇など条件が悪くなることもあるので、最低でも諸費用分は現金で支払えるようにしましょう。
また、「頭金ゼロ」や「賃貸住宅の家賃以下」と謳う一戸建て物件もありますが、購入後は固定資産税や火災・地震保険、修繕費などの維持費がかかるので、住宅ローン以外にも住宅に関する支出があることを忘れてはいけません。
個人差はありますが、住宅ローンを組む際は、ローン返済額や維持費などを含めて、住居費が毎月の手取り額の25%に収まるくらいがひとつの目安です。収入は勤務年数を重ねるごとに上がっていく傾向ですが、支出もお子様の成長などにあわせて変わっていくので、月々の返済額はライフステージの変化を見越して設定してみてください。
未来のマイホーム購入のためにやっておくべきこと
最近では「今すぐじゃないけれど、2〜3年後にお家を購入したい」という相談も増えています。将来的にマイホームを持ちたい方は、まずご自身の“お金に関する情報”を整理しましょう。当たり前のことと思われるかもしれませんが、ご自身の資産状況について把握されていない方は意外と多いんですね。
家計の収支、貯蓄額、保険料、車などのローン、お金に関わるものをすべて洗い出します。なかでも見落としがちなのが年金。毎年、誕生日近くになると「ねんきん定期便」が送られてきますよね。とても大切な資料なので、捨てずに取っておくか、年金ネットに登録しておきましょう。さらに退職金の有無と、ある場合はいくらくらいもらえるのかも把握しておいてください。
FPのアドバイスで将来家計を見える化
ご自身のお金に関する情報を整理するときに必要なのは、以下の3つです。
①現状の家計を把握
②キャッシュフロー分析をおこなう
③資産を管理
2つ目のキャッシュフロー分析には、現在の収支状況と希望するライフプランをもとに、今後のお金の流れを年単位で見える化した「キャッシュフロー表」が必要になります。キャッシュフロー表はさまざまな資料からデータを抜き出して試算しながら作成するため、知識がないとかなりの手間がかかってしまうんですね。独学で作成される方もいらっしゃいますが、時間や労力をかけずに正確な情報を得られるメリットを考えると、ファイナンシャル・プランナーに依頼するのもアリだと思います。キャッシュフロー表のつくり方のアドバイスだけでなく、家計の改善策も提案してくれるので、相談費用はかかりますが有意義なものとなるはずですよ。
そして、マイホームを建てるときは相談の順番がポイント。ファイナンシャル・プランナーへの相談は、住宅展示場の見学やハウスメーカーへ行く前にしましょう。先にモデルハウスなどを見てしまうと購買意欲が高まり、無理な資金計画を立ててしまうケースが多いんですね。まずは第三者にアドバイスをもらって、冷静に現状と将来の家計を見つめ、“これからどんな暮らしをしていきたいか”を考える。それこそが、無理のないマイホーム計画を立てるうえでとても大切なことになります。
2023年はどっちの住宅ローンを選ぶ? 固定金利と変動金利
昨年末の日銀の大規模金融緩和策修正により、年明けから大手銀行が長期金利に連動する住宅ローン固定金利を一斉に引き上げました。これにより「変動型のほうが良いのでは?」という声も聞こえていますが、2023年はどちらの金利タイプを選ぶと良いのでしょうか? 固定金利はその名の通り、期間中は金利が変わりません。10年固定金利なら、10年間金利が変わらないということです。一方で、変動金利は原則半年ごとに金利が見直され、現状では金利が低いのが特徴です。
2023年1月現在では、固定金利は少しずつ上昇傾向にありますが、変動金利は変わらず低金利が続いています。どちらが良いかと聞かれれば、それぞれの家計や資産状況によるので断言するのは難しいですね。子どもの養育費などを想定しても余裕があり、金利が上昇しても返済できるご家庭であれば変動金利を選んでも良いでしょう。定期的な昇給が見込めず家計収支に不安がある場合は、固定金利を選択するのが無難だと思います。
また、「固定金利か? はたまた変動金利か?」と二者択一にする以外の選択肢があることも覚えておくと良いですね。たとえば子育て中で支出が多い時期には10〜20年の固定金利を選んで、子どもが独立するころに状況次第で変動金利にする、といった選択肢も考えられます。ただし、子どもが小さいときに当初10年固定金利を選ぶと、子どもに教育費がかかり始める10年後に返済額が上がってしまいます。お金がかかる時期を見据えて固定金利期間を選びましょう。
今後、変動金利が低いうえに賃上げされない状況が続けば、銀行間の競争もあり、金利は上げにくい状況と予想します。しかし、今のところ維持されている大規模緩和策も、来年度の日銀の総裁交代によってはどうなるかわかりません。いつ潮目が変わるのかを見極めるため、引き続き動向をチェックしてみてください。
金利の状況は公的な情報をチェック
自分に合った金利を選ぶためには、ライフプランをしっかり立てることはもちろん、金利の動きに敏感になることも必要です。金利について調べるなら、公的な情報をチェックしましょう。民間のわかりやすく説明してくれるWEBサイトは、情報元の意図によるフィルターがかかっている可能性があり、誘導的なものも見かけます。公的なもの以外は、複数サイトの比較や大元の情報を確認するのが良いですね。金利は国の金融政策で動いていますので、いろいろな情報に振り回されずに正しい情報のみを入手するよう心がけましょう。私もチェックしている比較的わかりやすいサイトを2つご紹介します。
●教えて! にちぎん
金融政策について知るには、日本銀行の「教えて! にちぎん」がオススメです。国の金融政策や金利に関する最新情報が公表資料とあわせて掲載されているので、公式の詳細情報を得ることができます。また、「日本銀行の目的は?」「お札はどこでつくられるの?」といった基本的なこともわかりやすく解説されていますよ。
●知るぽると
金融広報中央委員会が運営する「知るぽると」は、世の中のお金に関する情報を中立・公正な立場から解説しているサイトです。「住まい」のページでは、住宅ローンのシミュレーションやマイホーム購入に関する知識・考え方も掲載されているので、いろいろな面で参考になると思います。
ちょっとした金利差で将来の返済額が大きく変わってしまうので、金利の動きをチェックするのはとても大切なことですよ。
不景気、インフレ、住宅支援事業……2023年の住宅購入を考える
建築資材の高騰や円安など、さまざまな要因から物件価格は値上がりしています。しかし、固定金利は上昇し始めているものの、まだ低金利の状態。さらに住宅ローン減税をはじめZEHなどを対象とした補助金など、政府からの手厚い支援があるので、2023年は買い控えたほうが良いというわけでもなさそうです。
マイホーム購入のタイミングを考える際、私は「外的要因」と「内的要因」のバランスが大切だと考えています。「外的要因」とは住宅価格や支援制度、金利など、私たち購買側がコントロールできないもの。そして「内的要因」はお家を買いたい理由や使える予算などコントロールできるものだと思ってください。このふたつのバランスを考慮し、「いつ、どこで、誰と、どのように暮らしたいか」について考え、ご家族の希望と合致するときこそが、マイホームの買い時だと言えるでしょう。
最近のマイホーム購入事情
最近は、今後の収入を不安視する相談も増えました。これまでは共働きで収入が多いご家庭だと「夫婦でペアローンを組んでバリバリ働きます!」というケースが多かったのですが、最近はパートナーが働けなくなったことを想定して予算を立てたり、ローンを組んだりする方が増えていますね。共働きの場合はペアローンを組んで、ひとりは固定金利、もう一方は変動金利にすることができるほか、期間もそれぞれ設定することができます。共働きであればお互いの働き方の希望や今後のライフスタイルの変化について、夫婦でよく話し合い、自分たちに適した住宅ローンや返済の仕方を柔軟に模索しましょう。
2023年は買い時? FPが教える住宅購入のタイミング&住宅ローン金利 まとめ
世界情勢や景気、物価などの外的要因を考慮することはもちろん必要です。ただ、マイホームを購入した後にご家族と幸せに暮らすためには、ライフイベントや予算などの内的要因も重要だと思います。このふたつのバランスを見て、ご家族で「買いたい」と思ったときが買い時だと言えるでしょう。そのときに備え、できるだけ早いうちから資金計画を立てておくのが良いですね。まずはご自身のお金に関する情報を整理することから始めてみてはいかがでしょうか。
住宅購入のタイミングを考える
令和4年は買い時か?社会情勢と人生設計から考える住宅購入のタイミングをFPが解説
住宅ローン控除についてもあわせてチェック
住宅を購入したら確定申告で住宅ローン控除を受けよう! はじめての確定申告に必要な書類と手続き方法は?
「団信」をFPが解説
生命保険の代わりになる? 特約は付けたほうが良い? 住宅ローンの「団信」をFPが解説