新築一戸建て住宅を購入する際は、間取りや設備だけでなく、災害に強いか否かも気にしたいもの。では、住宅購入のフローを進めていくなかで、どのようなことに注意すれば、災害に強いお家をつくれるのでしょう? 一級建築士のしかまのりこさんに伺いました。
COLLINO(コリーノ)一級建築士事務所代表
「~地球にやさしい 家族にやさしい~」をコンセプトに、延べ5,000件以上の住戸の設計・検査・審査に携わる。また、これまで300軒以上のリビング・寝室・子ども部屋の模様替えをおこなった実績から、模様替えのスペシャリストとして、日本テレビ「ZIP!」、テレビ朝日「グッド!モーニング」、扶桑社「住まいの設計」、小学館「週刊 女性セブン」などのテレビ・雑誌でも活躍中。
書籍「狭くても快適に暮らす、家具配置のルール」(2021年2月彩図社より発売予定)
https://collino-home.com
一級建築士のしかまのりこです。災害に強い家を建てるには、地盤の確認から構造体や間取り、屋根の種類までさまざまなことに目を向ける必要があります。それぞれどのようなことに気をつけるべきか、土地探しの段階から解説していきます。
災害に強い「新築一戸建て住宅」のつくり方
施工予定地のハザードマップとボーリングデータを確認する
※出典:ハザードマップポータルサイト
https://disaportal.gsi.go.jp/
災害に強い新築一戸建てをつくるには、施工予定地の想定被害を事前に確認しておくことが必要です。いくら頑丈な構造のお家をつくっても、津波に飲まれたり地盤が沈下したりしたら、元も子もないからです。施工予定地の候補が複数ある場合は、ネットで各自治体のハザードマップを見て、どのような災害が起こりえる土地なのかを確認します。不安のある土地ならば避けるのが無難ですが、立地条件や予算の関係でやむを得ないときは必要な対策などの情報を把握しておくようにしましょう。また、各自治体の役所に行けば、より詳しいハザードマップを確認することができます。
その後、施工予定地の候補が決まったら、その土地を管轄する役所の都市計画課または建築指導課など担当部署に行って、地盤のボーリングデータを見せてもらいましょう。ボーリングデータを確認する際に注目してほしいのが、地盤の固さを表す「N値」です。
このN値は地盤の特性(砂質土か粘性土)によって違い、また、建てる建物によっても求められる数値が変わってきます。一般的な戸建て住宅を建てる場合、地盤が砂質土であれば、N値は30以上、地盤が粘性土の場合はN値15以上が望ましいとされています。
地盤の強さは、このN値以外にも分布深度や地下水位などを総合的に確認して判断しますので、最終的な判断は地盤調査会社や設計者に確認してもらいましょう。軟弱地盤の場合は、不同沈下や地震による液状化のリスクがあるので、避けることをオススメします。それでもその土地にお家を建てたい場合は、地盤改良工事が必要になるので、追加費用が発生することを覚えておきましょう。
ベテランの現場監督に施工をお願いする
一生に一度の買い物と言えるマイホーム。災害に強く安心して暮らせる住宅を建てるには、施工実績にすぐれたハウスメーカーに頼みましょう。私の知る限り、施工実績の少ないハウスメーカーだと、柱を留める金具が足りていないといった初歩的なミスが簡単に起こりかねます。
また、実績あるハウスメーカーに依頼する際も、ベテランの現場監督を指名することを薦めています。住宅を建てるまでには、塗装業者や配管業者、電気工事業者など、外部の職人さんが多数関わることになります。これらの外部業者とのやり取りを段取りよく回すことのできる経験豊富な現場監督にお願いすることで、細かい施工ミスはほぼなくなると言っても過言ではありません。ハウスメーカーの営業担当に掛け合えば、対応してくれるはずなので、検討してみてください。
地震・台風・雨漏りに強いお家の条件とは?
地震災害に強い住宅設計
地震に強い住宅を建てたいのであれば、上下階が正方形の間取りが理想です。凸凹がある間取りは力の偏り(偏心)が起きやすいので、避けましょう。また、下階よりも上階部分が張り出している間取り(オーバーハング)も、地震に弱い建物になると覚えておいてください。
また、「耐震等級」にも目を向ける必要があります。耐震等級とは住宅性能評価制度にもとづき、第三者の評価機関が判断する「地震への強さ」を表したもの。建築基準法最低レベルの1から、最も地震に強いとされる3までの段階があります。「耐震等級3」を満たしているお家であれば、より安全に暮らすことができるでしょう。
台風に強い住宅設計
台風に強い住宅のつくり方は、地震に強い住宅のつくり方とほとんど変わりません。正方形の形で耐震等級に問題がないお家であれば安心です。ただし、台風に強い屋根というものは存在しています。
一般的に普及されている屋根の種類は、「寄棟(よせむね)」、「切妻屋根(きりづまやね)」、「片流れ(かたながれ)」の3種類です。
寄棟は3種類ある屋根のなかで、最も台風に強いとされています。天井部から四方向に風圧が分散する設計なので、被害を最小限に食い止めることができるわけです。
切妻屋根は昔ながらの日本家屋でよく見かける屋根です。面がふたつしかない分、寄棟よりは台風に弱い設計ですが、耐風性は中間レベルと言っていいでしょう。
片流れはデザイン性に優れていますが、屋根が一方向にしかないため、風圧が集中しやすく、台風による被害を受けやすいです。
強力な台風がくると屋根が倒壊する恐れがあるので、被害を最小限に抑えたいのであれば、寄棟を選ぶようにしましょう。
雨漏りに強い住宅設計
雨漏りで困らない住宅をつくるには、軒(のき)を広めに取ることが大切です。 軒とは、外壁よりも外側に張り出した屋根の部分のこと。強い日差しをカットしたり、雨粒が外壁に浸透したりするのを守ってくれる効果があります。雨の多い日本では、軒はなくてはならないものです。しかし、最近ではデザイン性を重視して、軒部分が25センチ以下の軒ゼロ住宅が流行っているため、雨漏りの被害も増えてきているのが現状です。
また、雨漏りは2階のルーフバルコニーや天窓からの発生が多いと言われています。防水処置に欠陥があるとすぐに生じてしまう問題なので、これらの間取りや設備を取り入れるのであれば、実績のある業者に施工を依頼しましょう。
住宅構造別の特徴とメリット・デメリット
ここからは住宅構造別の特徴をご紹介します。
住宅構造は大きく分けて、木造(軸組み工法、枠組み工法)、プレハブ工法、鉄骨造、鉄筋コンクリート/RC造があり、構造ごとにメリットとデメリットがあります。災害に強いお家をつくる際にも関わりのあることなので、ひと通りおさえておくといいかもしれません。
木造軸組み工法と木造枠組み工法のメリット・デメリット
木造軸組み工法 |
メリット: ・柱と梁で支える構造体のため、構造上の制約が少なく、自由な間取りがつくりやすい ・開口部も自由に設定できるため、大きな窓が取り付けられる ・増改築がしやすい ・多くの工務店が得意としている工法 デメリット: ・湿気の多い土地では、白アリや腐朽対策が必要になる ・職人によって仕上がりに差が出やすい |
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木造枠組み工法 |
メリット: ・面体(壁や床面)による箱型構造のため、耐震性が強い ・構造体にすき間がないため、気密性や断熱性/防火性に優れている デメリット: ・面体で強度を出しているため、大空間など設計の自由度が低い ・窓などの開口部の面積は制限を受けるため、大きな窓をつくることは難しい ・湿気の多い土地では、白アリや腐朽対策が必要になる |
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居住性だけで言えば木造工法が最も優れています。なかでも木造軸組み工法は細かい収納スペースを充実させることができ、各家庭のニーズにも応えやすいのが特徴です。一方で、木造枠組み工法は耐震性、防火性ともに高いですが、設計の自由度は低めとなっています。
デメリットとしてあげている、湿気の多い土地での白アリや不朽対策については、外壁を通気構造にする、もしくは柱や合板に薬剤処理を施すなどの措置が適切です。※ただし、土台を除く外壁軸組みに関しては、湿度の低い北海道と青森では必要ありません。
プレハブ工法のメリット・デメリット
プレハブ工法 |
メリット: ・部材が工場生産のため、品質が安定している ・現場もマニュアル施工のため施工品質に差が出にくい ・工期が短く、耐震性にも優れている デメリット: ・構造が規格化されているため、自由な設計や間取りがつくりにくい ・組み立てにクレーンが必要になり、狭い道路の土地では建設が難しい |
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コストは木造よりかかるものの、品質の安定性で言えばプレハブ工法が圧倒的にいいです。個人的に構法のなかで最もオススメで、防水性や耐震性、耐火性にも優れているので、住みはじめてからのトラブルに悩まされることはほとんどありません。
鉄骨造と鉄筋コンクリート/RC造のメリット・デメリット
鉄骨造 |
メリット: ・鉄骨による柱と梁で支える構造体のため、構造上の制約が少なく、大空間がつくれる ・耐震性/耐久性が高い ・多層階にも対応できる ・改装がしやすい デメリット: ・鉄骨本体が、酸化しやすく、また熱や火に弱い ・重量鉄骨は、組み立てにクレーンが必要になり、狭い道路の土地では建設が難しい ・基礎工事が木造に比べて値段が高くなる |
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鉄筋コンクリート/RC造 |
メリット: ・耐久性/耐震性/耐火性/気密性/遮音性に優れている ・鉄筋コンクリートによる柱と梁で支える構造体のため、構造上の制約が少なく、自由な間取りがつくれる デメリット: ・ほかの工法に比べてコストが高く、工期も長くなる ・コンクリートの品質や施工状態により、仕上がりに差が出る |
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鉄骨造と鉄筋コンクリート/RC造は、強くて丈夫な建物をつくるのに向いているのですが、コストが高く工期も長くなるので、一般的には住宅よりも広いオフィスや体育館などの構造体として使われることが多いです。
外壁素材別の特徴とメリット・デメリット
続いて、外壁素材の特徴をご紹介します。現在、主に使われているのがサイディング、タイル、モルタルの3種類です。外壁素材と聞くと、どれが災害に強いのか、気になる方も多いかもしれませんが、実は、これらはすべて災害に対して一定の耐久があり、優劣はほとんどありません。 逆に言うとサイディング、タイル、モルタルのどれかを選べば、災害に強いお家づくりに結び付くので、あとは好みに応じて選ぶといいでしょう。なお、初期費用やメンテナンス費用は、30坪を想定してご紹介しております。
サイディングのメリット・デメリット
サイディング |
・初期費用:60〜80万円程度 ・メンテナンス:80〜150万円程度/おおむね8年~10年ごと ・メリット:工期が短くコストが低い/多様な材質とデザイン ・デメリット:塗装などのメンテナンスが不可欠 |
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外壁素材として一番多く使われているのがサイディングです。コストを低価格に抑えられますし、デザインも豊富なのが特徴となります。ただ、将来的には汚れが目立つようになるので、塗装を塗り直すなどのメンテナンスが必要になります。
タイルのメリット・デメリット
タイル |
・初期費用:300万円~程度 ・メンテナンス:目地50万円程度/おおむね10年~ごと ・メリット:風雨、日差しによる色あせや変色がおきにくい、経年しても高級感があるタイル部分は基本的にメンテナンスフリー ・デメリット:初期費用が高価、タイルの剥離の可能性がある |
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コストは割高ですが、高級感を演出できて、色あせしにくいのがタイルです。基本的にメンテナンス費はそれほどかからず、長期にわたって美しさが続きます。しかし経年劣化とともにコンクリートからの白華(はっか)現象が起こりやすくなり、その場合は美観が損なわれる怖れがあります。
モルタル(吹き付け/塗り壁)のメリット・デメリット
モルタル(吹き付け/塗り壁) |
・初期費用:80~100万円程度 ・メンテナンス:70〜100万円程度/おおむね8年~10年ごと ・メリット:目地がないため、シーリングなどのメンテナンス不要 見た目がすっきりしている、塗り方で個性あるデザインにできる ・デメリット:塗装などのメンテナンスが不可欠、ひび割れが起きやすく目立ちやすい 工期が長い(1~2週間程度) |
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最近ではほとんど使用されていないモルタルですが、女性が好みやすい西洋風の独創的な外壁を表現することができます。ただ、ひび割れが起きやすく、汚れやすくもあるので、メンテナンスに手間が掛かります。
災害に強い賃貸住宅とは?
最後は災害に強い賃貸住宅について、簡単に解説します。災害への安全性を考慮して賃貸の一戸建てや集合住宅を借りる際には、その建物がいつ建てられたかを確認しましょう。具体的には、新耐震基準(1981年6月1日確認申請以降)の建物、木造であれば2000年6月1日確認申請以降の建物を借りるようにしてください。また、集合住宅は水害、地震対策として低すぎず高すぎない3階~5階のフロアを借りるとよいでしょう。
また、直接的な災害対策ではありませんが、オススメの住宅設備として24時間換気をご紹介します。
24時間換気は、2003年7月1日確認申請以降の住宅には設置が義務付けられたシステムです。2時間に1回、家中の空気がすべて入れ替わるように自動換気をしてくれるので、住まいの劣化の原因となる結露を防いでくれます。
ちなみにこのシステムは、法改正が行われた当時、問題となっていたシックハウス症候群の予防策として設置が義務付けられました。日本小児科学会のデータによると、24時間換気が設置された2003年以降、一時的にアトピーを罹患した子どもが激減したそうです。
その他にも、ペットのいるご家庭では臭い対策としても24時間換気は有効です。お子様のアトピーやアレルギー、ペットの臭いなどに悩んでいる方は、引っ越し時に24時間換気システムの有無を確認するといいかもしれませんね。
一級建築士が教える災害に強い家づくりのポイント まとめ
災害はいつ何時起こるかわかりません。被害にあった後で、「こうしておけばよかった」と後悔することがないよう、家を建てる前から最低限できる対策は行うようにしましょう。