新型コロナウイルスの影響で、多くの企業が在宅勤務やテレワークといった業務形態を推進するようになりました。ただ、急な対応を求められたので、まだ働きやすい環境を整えられていないという方も多いのではないでしょうか。そこで、一級建築士のしかまのりこさんに、在宅勤務やテレワークに適した環境のつくり方を伺いました。
COLLINO(コリーノ)一級建築士事務所代表
「~地球にやさしい 家族にやさしい~」をコンセプトに、延べ5,000件以上の住戸の設計・検査・審査に携わる。また、これまで300軒以上のリビング・寝室・子ども部屋の模様替えをおこなった実績から、模様替えのスペシャリストとして、日本テレビ「ZIP!」、テレビ朝日「グッド!モーニング」、扶桑社「住まいの設計」、小学館「週刊 女性セブン」などのテレビ・雑誌でも活躍中。
書籍「狭くても快適に暮らす、家具配置のルール」(2021年2月彩図社より発売予定)
https://collino-home.com
一級建築士のしかまのりこです。今回は在宅勤務やテレワークを捗らせるための環境づくりについて、解説いたします。これから新築一戸建てを購入するケースと今のお住いでできる工夫、それぞれのパターンをご紹介しますので、どなたでもご参考にしやすいかと思います。
在宅勤務・テレワークに適した新築一戸建てのつくり方
リビングに半開放の作業スペースを設ける
子どもの有無に関わらず、在宅勤務やテレワークをされる方には、リビングに「半開放の作業スペース」を設けることを薦めています。書斎など、ひとりきりになれる作業スペースは人の気配を感じられず、静かすぎて逆に集中できない、といった声をよく耳にするからです。例えば、会社での業務風景を思い返してほしいのですが、完全な個室で作業をしていたでしょうか? 多くの方は同僚に囲まれて、仕事をしていたはずです。なので、奥様や旦那様、お子様の存在を感じられつつ、作業にも集中できるような空間づくりを意識した方がいいでしょう。
上のパース図は子どものいる家庭を想定して、リビング学習コーナーの隣に、内窓がついた半個室の作業スペースを配置したものです。Web会議などがある際は、扉や窓を締めることで、家族の声が入らないように遮音することができます。また、親子間で窓をのぞき合うことで、お互いの様子を確かめられるのもメリットと言えます。自分が一生懸命仕事している様子を自然に示すことができるので、お子様も尊敬の念を向けてくれることでしょう。ある意味で、子育てがしやすくなる間取りと言えます。
パース図ではひとつの部屋としても十分な広さが取られていますが、作業スペースとして使用するなら、1畳から2畳ほどあれば十分です。
小上がり和室とスキップフロアもオススメ
新築一戸建ての場合は、床の高低差を利用して作業スペースがつくれます。例えば、スキップフロアや小上がり和室などがそれにあたりますね。
スキップフロアは階段を利用して、1.5階の部分にスペースを設ける建築方法のことです。1階とは縦の空間でつながってはいるものの、空間としては独立しているので、家族のいるリビングの雰囲気を感じながら作業を進めることができます。
小上がり和室は、床面よりも一段高い場所に設けられた畳スペースのことで、主にリビングにつくられます。目線の高さがリビングにいる時とは異なるので、視覚的に別空間にいると感じながら作業ができるでしょう。
ただ、これらの場所はあくまでも空間分けをして、集中しやすい環境を整えているにすぎません。遮音性は低いので、Web会議時の際は、前述した半開放の作業スペースのような場所を使ってください。
今の住まいで在宅勤務・テレワークを効率よく行うためのポイント
複数の部屋に作業スペースを設ける「家庭内ノマド式テレワーク」
ここからは、今のお住まいで在宅勤務やテレワークを効率よく行うためのポイントをご紹介します。
私がよくオススメしているのが、TPOに応じて部屋を使い分ける「家庭内ノマド式テレワーク」です。 リビングや寝室、子ども部屋など、複数の部屋に簡単な作業スペースを設ければ、仕事内容や気分に応じて、場所を変えながら仕事ができます。
こちらのパース図はリビングダイニングにテレワークスペースを設けた一例です。単純な作業は家族がいるこの空間で行います。椅子を並べて置ける程度の広さがあれば、お子様がリビング学習している隣で、仕事を進めることも可能でしょう。
重要な会議時は、寝室に設けてあるテレワークスペースを使います。ポイントはパソコンのカメラからベッドなどが見えないレイアウトを意識すること。ベッドのヘッドボードに沿わせる形で作業用デスクを配置すれば、背景が壁になりプライバシーを保つことができます。
寝室にテレワークスペースを設けられない場合は、一時的に子ども部屋を借りる方法があります。日中、お子様が学校に出かけている時間帯ならば、寝室と同じような使い方ができるでしょう。仮に学習机が散らかっていて、作業スペースとして使いにくいのであれば、この機会にリビング学習に移行してもいいかもしれません。どちらにしろ、子ども部屋を使用する際は、お子様のプライバシーも尊重し、きちんと相談してから使うようにしてくださいね。
オープン収納棚を活用してテレワークスペースをつくる
また、ニトリやIKEAなどで売られているオープン収納棚をリビングで活用するのもオススメです。仕事で使う書類などが散らからずに済みますし、リビングと作業スペースの空間を分ける間仕切りの役割も果たすので、集中しやすい環境をつくれることでしょう。
組み替え自由な机を活用してテレワークスペースをつくる
リビングにテレワークスペースをつくる余裕がない場合は、ダイニングに組み換え自由な机を設置してみてください。
上のパース図は、幅40センチ×奥行130センチのふたつのテーブルを組み合わせた図です。食事の際はこのように、家族全員が机を囲える形に配置します。
一方、テレワーク時は机をL字型に組み換え、パソコンや書類が広げられるスペースを確保します。ひとりで作業する場合は、机を動かす必要はありませんが、ふたりで作業する際はお互いの視線がぶつからない方が、集中しやすくなるでしょう。
在宅勤務・テレワークの効率を上げるために備えておきたい設備とアイテム
最後に、在宅勤務やテレワークの効率を上げるために備えておきたい設備とアイテムを4つご紹介します。
・適切なサイズの作業用デスク デスクは目安として幅80~100センチ×奥行50~60センチ程度あるものを選びましょう。奥行きが40センチ以下のものは、小さすぎて仕事をするには使い勝手が悪いのでオススメできません。
・プリンタ プリンタは家族が共有して使うものだと思うので、リビングに置くのがいいでしょう。仕事の効率を上げるポイントという面では、すぐに出力できるよう、Wi-Fiでつなげられるものがオススメです。
・ネットワーク環境 Wi-Fiルーターから離れた場所でWeb会議をする場合、途中で映像や音が途切れてしまうことがあります。快適なネットワーク環境を整えるため、高性能なルーターに買い替えたり、ネット回線自体を見直したりするといいでしょう。
・自己演出するためのもの(本棚/コレクターケースなど) 作業効率を上げるものとは違いますが、最近のテレワーク関連の相談ごととして、Web会議で自己演出をしたいという声をいただくことがあります。 そういった方には、パソコンのカメラに映るよう、壁際に本棚やコレクターケースなどをあえて配置することを薦めています。モノトーンの壁面だと、必要以上に固い雰囲気が出てしまいますが、趣味で集めているコレクション品を映りこませることで、さりげない自己演出になり、会議時の話のネタにもなるかもしれません。
在宅勤務・テレワークでも集中しやすくなる住まいの工夫と環境づくり まとめ
在宅勤務は、働く姿を子どもに見せることで、社会や将来の職業について考えさせる絶好の機会となります。工夫次第で、リビングにいながらでも作業ができるようになるので、お子様と一緒にいながらでも集中できる環境を整えることからはじめてみてはいかがでしょう。