食べることは空腹を満たし、栄養を摂るための大切な行為です。でも、空腹を満たすことや栄養のためだけに食べるのは味気ないものですし、好きなものばかりを食べると栄養バランスが悪く、健康に影響が出てしまうかもしれません。子どもは本能で食事をするものですが、成長とともに自分で栄養を考えながら食事を楽しめようになると良いですよね。食育というと、「親にも知識がないと……」「教材が必要なんじゃないの?」と、おうちでは難しいと思っているママ・パパも少なくないでしょう。しかし、親子料理研究家で食専門のモンテッソーリ教師としてもご活躍中のいしづか かなさんによると、食育は日常生活のなかで楽しく実践できるそうです。そこで、いしづかさんに家庭での食育の考え方や、家族で楽しみながら食を学べる食育クイズ&ゲームについて、伺いました。すぐに実践できる食育のアドバイスが満載ですよ!
AMI国際モンテッソーリ協会公認教師|親子料理研究家
モンテッソーリ教師の資格を持つ母として子育てをスタート。 食の大切さと、親子で過ごす楽しい時間に重きを置いた日々の中で、たどり着いたのが「親子料理」という過ごし方。 二人の子どもたちと一緒に作ったごはんやおやつは6年間で1500品以上。 食を通していのちの循環を体験的に学べる親子料理教室「kids kitchen atelierデキタヨ!」を主宰。 食専門のモンテッソーリ教師としてSNS発信をするほか、親向けの講座や教育機関への食育指導、監修等も行っている。
親子料理協会いただきます | モンテッソーリ×食育:https://ishizukakana.com/
親子料理研究家で食専門モンテッソーリ教師のいしづかかなです。私は親子料理教室や食育講座、SNSなどを通して“家庭でできる食育”を提案しています。食育について、堅苦しい教育論のように思っている方もいるかもしれませんが、そんなことはないんです。“食”は生きるうえで必要な営み、そして食に関わることすべてが、子どもの心と体、頭を育みます。たとえば料理や食材を目で見たり匂いをかいだり、調理の音を聴いたりして五感が磨かれていく……スプーンやお皿を持つことで手足や指先の発達が促される。食べ物から栄養を摂るだけでなく、食と関わることすべてが子どもを育んでいる、というのが私の考える食育です。日常のなかで積極的に食と親しむことが、食育では大切なわけですね。では、どんなことから始めれば良いのでしょうか? ご家庭ですぐにでも始められる楽しい食育クイズからご紹介します。
目次
1.親子で楽しみながら学べる! 食育「食べ物クイズ」
2.楽しみながら食材の名前を覚えられる! 食育「名称記憶ゲーム」
3.買い物中も食育ができる? スーパーは食材と学びの宝庫
4.かな先生オススメ! 食育にぴったりの本
5.遊びながら学ぶ食育クイズ&ゲーム まとめ
親子で楽しみながら学べる! 食育「食べ物クイズ」
まずは、食事をしながらクイズ形式で楽しめる「これどーこだ?」をご紹介します。このクイズのポイントは、子どもの発達に合わせて内容を変化させていけるところ。1歳前後のお子様から始められるので、幼いころから食に親しむことができます。それでは、およその年齢を目安として、遊び方を説明していきますね。
1歳前後の子どもは指差しでOK! 発語がなくても楽しめる食育「食べ物クイズ」
言語が未熟な1歳ごろは、料理に入っている食材を指差しで答えてもらいます。たとえばスープに入っている、にんじん。食べているお子様に向かって「今日ね、スープににんじんが入ってるんだよ。にんじんどーこだ?」と聞いてみましょう。
「1歳くらいの子でも、わかるの?」と思われるかもしれませんが、けっこうわかるものなんです。1歳ごろでも、嫌いなものや食べられないものをよけちゃう子っていますよね。これができるのは、それぞれの食材をしっかりと認識しているからです。まだお話できないお子様でも、食べ物クイズは楽しむことができますよ。
もちろん、前提として食材の名称を認識することが必要です。「これは、にんじんだよ」など、日常的に食材の名称を紹介していくことで、食べ物クイズに発展していくことができます。介助が必要な時期の食事、“ただ食べさせる”だけでなく、食材を紹介することも意識しながら食事の時間を楽しんでいきましょう。
2〜3歳になったら出題範囲を広げてコミュニケーション
2〜3歳になって自分の言葉で答えられるようになったら、クイズのレベルを上げましょう。1歳前後には「にんじん、どーこだ?」だった質問から出題範囲を広げて、「今日の食べ物のなかで赤い食べ物どーこだ?」という問いかけにレベルアップ。食材の名称だけでなく、色や形にも注目していくことで、より一層食卓への関心が高まります。反応を見て簡単そうに感じたらもっと難易度を上げて、「今日のスープのなかには何が入っているでしょうか?」と、食材の名称を言い当ててもらっても良いですね。お子様の発達や興味に合わせてクイズの内容をどんどんレベルアップしていきましょう。
4〜5歳になったら調理過程や食材の知識クイズに発展!
4〜5歳ごろのお子様なら、調理過程や食材の知識に踏み込んだクイズもできるようになります。たとえば「海のもの」「山のもの」など、ジャンル分けをして聞いてみるのもオススメです。「今日のごはんのなかで、海で採れた食べ物はどれでしょう?」「野菜はどれかな?」「お肉は……」という風に、いろいろと出題してみましょう。
料理をしている子なら、味付けに関するクイズを出しても良いですね。「これはなにで味付けしたでしょうか?」と聞いてみて、難しければ「醤油と味噌どっちだと思う?」とヒントを出してもOK。親子で食に関する掛け合いをすることが、より調理に興味を持ったり、知識が深まったりするコツです。我が家のふたりの子どもたちは給食を分析して、「今日は醤油で味付けしてたよ。ごま油の風味もしたね」と話しながら、自宅でメニューを再現することも。知的好奇心が高まるとこんな風に育つんだな、と我が子ながら驚きですね。
食育「食べ物クイズ」は正解がゴールじゃない?
食べ物クイズは、どの年齢も正解することをゴールとしていません。食に興味を持つこと、そして食の知識を広げていくことを目標としています。ですから、もしわからなかったとしても親が教えてあげればOK。「このオレンジ色のものがにんじんだよ」と伝えれば良いのです。ちょっとした会話から食べ物への興味が生まれ、今まで食わず嫌いだったものでも「食べてみたい!」と思うかもしれませんよ。さらに、食材に対する知的好奇心が刺激されれば、「詳しく図鑑で見てみよう」とか「つくってみたい!」といった探究心にもつながります。
楽しみながら食材の名前を覚えられる! 食育「名称記憶ゲーム」
次に紹介するのは、食材の名前を覚えるのにぴったりな「名称記憶ゲーム」。会話ができるようになる2〜3歳ごろから始められます。たとえば子どもに、しいたけを見せて「これ知ってる?」と聞くと、ほとんどの子はキノコと答えるんです。間違いではありませんが、キノコと言ってもたくさんの種類があって、見た目も味も全然違うことをぜひ知ってほしいもの。そこで実践してみたいのがこのゲームです。名称記憶ゲームなら五感を刺激しながら、食材への興味と知識を深められるので、食材一つひとつの名称も覚えられるというわけです。名称記憶ゲームは、本物の食材を使うのが重要なポイント! キノコを例として、遊び方を説明していきます。
●名称記憶ゲームの遊び方例
キノコを3種類用意します。たとえば「エリンギ・舞茸・しいたけ」の3つを並べて、触りながらそれぞれの名前を親子で一緒に確認していきます。名前がスラスラと言えるようになったら、次は指を差しながら、名称と物の一致をさせていきます。「しいたけはどれ?」などと聞いて、答えを指差してもらいましょう。全部答えられるようになったら、名称を出さずに指で「これ、な~んだ?」と質問します。難易度を段階的に高めることで、食材に関する知識もどんどん深まっていきますよ。3種類での出題が難しいようなら、2種類から始めてもOK!
ちなみにこのゲームは、モンテッソーリ教育のなかでも使われるレッスンです。実物を使い“五感で触れる体験”は子どもの本能をなによりも刺激してくれます。このように食材に触れ、親しむ活動は、子どもの食べてみたいという気持ちを高めることにもつながっていきますよ。
応用編として、ナイフやフォーク、スプーンなどの食具を使っても良いでしょう。調理器具でも食器でも、何をテーマにしても楽しく記憶することができます。
七草も覚えられる! 名称記憶ゲームのオススメテーマは旬の食材
名称記憶ゲームのテーマは、身近なものならなんでも良いのですが、オススメは旬の食材。食材には旬の季節があることを知れれば、四季を楽しむ豊かな心も育まれます。でも、実際に旬な食材を食卓に出してみても、子どもは見慣れないものには警戒してしまうんですよね。春になったからとタケノコを出したのに、「なにこれ!」と言われて拒否されたなんて経験はありませんか? 子どもは知らないものを本能的に怖いと感じるからです。怖いという感情が、食べない原因につながることもあるんですよ。でも、名称記憶ゲームで楽しみながら新しい食材のことを知れれば、興味と親しみを持って、「食べてみたい!」という気持ちを育むことができます。
また、私が主宰する親子料理教室やオンラインコミュニティで毎年楽しんでいるテーマが「春の七草」です。「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ七草」と昔から伝わる覚え方もありますが、実物を見ないと覚えにくいんですよね。ところが、実物を使って名称記憶ゲームをすると、名称を覚えられることはもちろん、一つひとつの食材の特徴にも意識が向くので、「七草以外の葉野菜も観察したり、名前を覚えられたりするようになった」「野草にも興味を持った」など、子どもたちの世界が広がっていくのです。
ゲームを通して、食材を見て、触って、学んで、味わって……子どもにとっての食事は、ただ“食べる”だけではなく、心も体も頭も育んでくれるのです。調理はハードルが高いかもしれませんが、こんな風に遊びを通してお子様と“食を楽しむ”ことから始めてみてほしいなと思います。
食育をするときはまず親が楽しむ!
名称記憶ゲームはもちろん、親子で食に関わることをやるときは、親御さんも楽しみましょう。0〜6歳の子どもは「感覚の敏感期」と言われていて、いろいろなものを触ってみたい! 知ってみたい! という欲求を強く持っています。親が楽しそうに「見て、このそら豆! ふかふかしてるよ!」と触っていたら、子どもも触りたくなるものなんですね。さらに親が楽しそうに食事をすると、子どもも食に対して興味を持つというわけです。
モンテッソーリ教育には、「子どもには、自分を育てる力(自己教育力)が備わっており、その力が発揮されるためには発達に見合った環境(物的環境・人的環境)が必要である」という基本的な考え方があります。そのため、家庭での“食を通した育みの環境づくり”は、大人の関わり方、立ち振る舞いがとても大切なんですね。とは言え、まずやるべきことはとてもシンプル。大人が楽しそうにしている姿をぜひお子様に見せてあげてください。自然と好奇心が刺激されて、自発的にどんどん学び、世界を広げていきます。
【いしづかかな先生の食育基礎】子どもが“自発的に”食と関わるための環境づくりについて、詳しく知りたい方はコチラ
買い物中も食育ができる? スーパーは食材と学びの宝庫
毎日の買い物も楽しみながら食を学ぶことができる貴重な時間です。スーパーでは旬の食材が目立つ場所に並べられたり、行事食の特設コーナーがあったりと、季節を感じられますよね。「今、何が美味しいのか」「この時期はどんなものを食べるのか」を実際に目で見て知ることができるので、食への興味もより増していくことでしょう。
3歳くらいからは、「物の特性」を理解することができるようになってくるので、スーパーの店内の陳列に意識を向けてみるのも良いでしょう。冷たくする食材、常温の食材など、食材に対する知識が深まっていきます。また、店内のどこでなにが売られているのかを知ることができれば、ひとりで買い物するときにも迷わずに商品を探すことができます。さらに、数字に興味がでてきたら、値段に注目した会話をすることもオススメです。ものには値段が付いていて、高いもの・安いものがあって、お金を払って買っている。まだそれぞれの価値は理解できなくとも、そうした社会の仕組みを知る良い機会になりますよ。
ただし、学びを意識した買い物は、親子ともに余裕があるときにしましょう。忙しくてササッと夕飯の買い物を済ませたい日もありますよね。お子様が眠たかったりぐずっていたりする場合も、興味を持って楽しめないと思います。それから、ほかのお客さんが多い時間帯なども避けたほうが良いですね。時間に余裕があって、お子様のコンディションが万全なときに、親子で楽しみながら買い物をしてくださいね。
子どもの「お買い物ミッション」で楽しく食育
買い物中の困りごととして、店内を走り回ったり、あれこれ商品を触ろうとしてしまったり、はたまた「これ買って!」などのおねだりがあると、子どもとの買い物を楽しめない……なんてことにもなりますよね。そんなときには“ミッション”を設定するのもオススメ。「お買い物袋を持って、お会計のあとでママに渡してね」という風に具体的なミッションをお願いしましょう。子どもにも目的意識を与えることで、責任感を持ち、店内での行動が変わるのです。「ママのミッションは1週間分の食材を買うこと」「あなたのミッションは買い物袋を持つこと」と役割分担をしてみてください。
ミッションのレベルは、月齢や発達に応じて上げていきましょう。歩くことが楽しい1歳前後は、子ども用のかごや買い物袋を持つことをお願いします。2〜3歳くらいからは、具体的に食と関わるミッションを依頼してみてください。「トウモロコシはどれかな?」「牛乳が売ってるところはどこ?」など、もの探しや売り場探しにチャレンジしてみましょう。どこになにがあるのかを探すのは、知識の幅を広げるだけでなく、考える力も育つので、とても大切なことだと思います。ミッションを言い渡す時には「店内を走らない」「大きな声を出さない」など、買い物時に必要なルールも一緒に伝えると良いでしょう。
さらに、4〜5歳くらいになってくるとレジでのお会計も協力できるようになります。ポイントカードを出したり、エコバッグがあることを伝えたりと、店員さんとのやり取りを経験させてみると良いですね。それから、袋詰めもオススメです。重いものは下に入れて、割れやすいものは上に入れる、などを考えながらやっていくうちに、ものの性質を理解できるようになります。頭を働かせながら詰めることで、空間認識能力も養われますよ。
かな先生オススメ! 食育にぴったりの本
食べ物に関する本を読むのも、楽しみながらできる食育のひとつ。たくさんの種類があるなかでも、私がとくにオススメしたいのは2冊の図鑑です。
●学研の図鑑LIVEeco 食べもの
穀物や野菜、果物、魚介類など、いろいろな食べものの図鑑です。それぞれの食材について歴史や知識を紹介するほか、料理もたくさん載っています。郷土料理や世界中の食事を知ることもできるので、地理や歴史の学びにもつながっていきます。見ているだけで楽しい1冊ですよ!
●小学館の図鑑NEO 野菜と果物
約700種類の野菜と果物が掲載されていて、写真もたくさん! 充実した内容の図鑑です。栽培方法も詳しく紹介されているので、普段食べている野菜や果物がどのように育つかも学ぶことができます。
どちらの図鑑もたくさんのことが学べるので、ぜひ子どもの側に置いておきたい2冊ですね。幼い子どもなら写真を見てお話しするだけでも楽しめますよ。食事の前、その日のメニューに使う食材のページを読んだりすると、気分が上がりますし、実際に食べる体験と結び付くので良いですね。それから、ただ見て読み上げるだけでなく、家族みんなで「どれが食べたい? せーの!」で指を差し合うと、とっても盛り上がります。ぜひ、いろいろな視点から楽しく活用しましょう。
遊びながら学ぶ食育クイズ&ゲーム まとめ
遊びながら食を育む「食べ物クイズ」「名称記憶ゲーム」「お買い物ミッション」とオススメ図鑑をご紹介させていただきました。日常の1コマを学びに変えることで、家庭でもスーパーでも気軽に学びの場をつくることができます。学びを深める最大のポイントは、まずは親が楽しむこと。親が楽しめば、子どもも自然と楽しくなります。子どもが楽しみながら食に対する興味を深められると、1日3回の食事の時間をより充実させることができるというわけです。楽しい環境のなかでは好奇心や探究心が高まり、どんどん世界が広がっていくはず。“食”を起点としてさまざまな体験をし、感性を育むことで、子ども自身の人生、さらには関わるすべての命を大切にできる豊かな人に成長していくことでしょう。“食べる”を楽しめる人は、“生きる”を楽しめる人。食育を通して、そんな子どもたちが育っていくことを願っています。
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