旅育は中学受験に役立つ?旅を学びに変えるコツとオススメ世界遺産を旅育のプロが解説

近年では中学入試の受験者数が増加傾向にあり、2022年には首都圏で過去最高を記録。今まさに受験に向けてお子様をサポートしている方もいれば、数年後の選択肢として中学受験を考えている方もいらっしゃるでしょう。受験のサポートとなると、塾や通信教育など勉強の環境を整えることに目が行きがちですが、実は旅で子どもの心身を育む「旅育」も学習の役に立つそうです。では、旅育と中学受験はどのように結び付くのでしょうか? 旅育コンサルタントで1児の母でもある村田和子さんにアドバイスを伺いました。

旅行ジャーナリスト・村田和子のプロフィール
村田和子 プロフィール
旅行ジャーナリスト・旅育コンサルタント
トラベルナレッジ代表

「旅行者・地域・社会が旅を通じて元気になる」をモットーに、人生や日常を豊かにする旅の提案を行う。「家族旅行・旅育」「ヘルスツーリズム」「記念日旅行」「クルーズ」などをテーマに、雑誌やwebへの寄稿、テレビ・ラジオへ出演。
旅育メソッド🄬を提唱し、著書に「家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ~旅育BOOK(日本実業出版社 )」。旅育をコンセプトとしたイベント監修や講演も行う。
公式ブログ:https://www.murata-kazuko.com/
家族deたびいく:http://tabi-iku.jp/

旅行ジャーナリストの村田和子です。我が家では息子が生後4ヶ月のころから家族で旅行に行き、9歳になるころには47都道府県を踏破しました。以降も家族旅行や親子ふたり旅を重ね、息子は大学生になりましたが、数々の旅が成長の糧になったと思っています。旅は受験のためにするものではありませんが、旅での経験が学問の理解を深め、結果的に受験の助けになったというのは大いに感じますね。今回は旅育と学習がどう結び付くのかを、村田家での経験談を交えてお話させていただきます。

旅育は中学受験の助けになる? 知識と経験を結び付けるメソッド

旅育とは旅を通して子どもの“生きる力”を育むこと

旅育とは、旅を通して子どもの“生きる力”を育むことです。旅は非日常を体験することで脳や五感を刺激し、普段は出会えない新しい価値観に触れられる貴重な機会。旅先で子どもの自主性を育み、成功体験を重ねることで、自分らしく生きていくための力が養われると考え、私は旅育を提唱してきました。では、旅育と受験はどのように関係するのか? 子どもによって個性は異なり、一概に言えないことも多いのですが、我が家の例とともにお話します。

旅育は中学受験の助けになる? 知識と経験を結び付けるメソッド

我が家では息子の希望で中学受験をしましたが、5年生までは幼児期から続けている通信教育以外は、旅行やお出かけが学びの中心。塾に通ったのは6年生の1年間だけです。息子と相談し、塾に行くのは週1回、平日はオンライン学習を活用して、無理のないペースですすめました。6年生の時もゴールデンウィークや夏休みは家族旅行、それ以外にも近場への旅に出かけながら、志望校合格を果たしてくれましたね。

旅先での体験は“経験を伴った知識”として身に付く

息子の中学受験を経て、とくに旅育の影響があると感じた教科は社会です。地図に多く触れていたことが役に立ったり、旅先での体験や各地の特産品などの記憶が、地域産業や気候とつながったり。歴史上の出来事や人物に縁がある土地を実際に訪れ、時代背景をより深く学べたこともありましたね。理科も旅との親和性が高い科目だと思います。住宅地からは見られない満天の星を見たり、大自然のなかで動植物に触れたり……そのような実際の体験を、授業で習った内容と結び付けることで、経験を伴った知識として身に付くのではないでしょうか。

旅育はお金本来のあり方を学ぶ良い機会

社会と理科は、旅の経験と学習内容の結び付きがわかりやすい教科ですが、実は算数にも旅で理解が深まる側面があります。電子マネーによる決済が主流になりつつある近年では、算数の定番である「お釣りの問題」を理解できない子どもが増えているそうです。電子決済ではお釣りは出ませんから、そもそも“お釣り”という概念が身に付いていないとのこと。地方では現金しか使えない場所もまだまだ多いので、お金本来のあり方を学ぶ良い機会だと思います。移動時もSuicaなどは使わず、あえて現金で切符を買ってみるのも良いでしょう。また、我が家では息子が小学生になってからは、年齢に応じてお土産の予算管理をする「会計係」を任せていました。ちょっとした工夫で、旅を通してお金や数字への理解が深まり、学習の役にも立ったように思いますね。

お釣りの問題だけではなく、算数の文章題、あるいは国語も、シチュエーションに応じた場面がイメージできないと解くのが難しいものもあります。机上で教科書と向き合うだけでは、想像力は育ちにくいもの。旅でのさまざまな経験は子どもの想像力を育み、思考力を鍛えてくれるはずです。

学びを兼ねた旅行は受験生の息抜きになる

旅育と受験は、子どもの精神面においても関わりがあるように思います。非日常で新しい発見と出会いがあり、ときには思いがけないアクシデントが起きるのも旅。そこで培われる「環境順応性」は、受験にも大いに役立つ力だと思います。旅を通じて得た“変化を厭わない心”、そして、旅先で挑戦やトラブルを乗り越えたときの“どんな場面でも物怖じしないタフさ”は、一発勝負の入試ではプラスになるのではないでしょうか。

毎日机に向かっている受験生も多いかと思いますが、脳にも心にもリフレッシュは必要ですし、学びを兼ねた旅行は息抜きにもなります。「合格したらまた来よう」と話すことで、その後の受験勉強を乗り切る支えにもなってくれることでしょう。

旅育で子どもの探究心を高める! 旅を学びに変えるコツ

旅育で子どもの探究心を高める! 旅を学びに変えるコツ

旅育と学習を結び付けようと思うと、大人は学ばせよう、教えてあげようと勉強に偏った考えになりやすいものです。しかし、旅育の基本は “楽しい”という気持ちと“見守ること”。旅先での発見や体験をするなかで、いつの間にか自然と学びにつながっている……それが旅育の理想的なかたちと言えます。そのためには、お子様が今興味をもっていることや深く学びたいことを旅の計画時に聞き、そのうえで学習に偏り過ぎない、“子どもがワクワクするポイント”も入れた旅行プランを家族で計画するのがオススメです。

子どもが小学校高学年くらいになると、分野によっては知識量も増えて親御さんより詳しくなることも。そのころには、現地の専門家の方から学べるプログラムなどに親子で参加してみると良いでしょう。教えてあげようではなく、親御さんも一緒に学びたいという姿勢でいることが、より良い旅育につながります。

村田和子さんに聞く「旅育×学習」の旅行プラン

村田和子さんに聞く「旅育×学習」の旅行プラン

学習に役立つ旅行プランやオススメスポットはいろいろとありますが、まずは地理や歴史で習った場所へ実際に行ってみるのが良いでしょう。世界遺産の姫路城を訪れれば、白い優美な姿から「白鷺城」と呼ばれるのも納得。迷路のように曲がりくねった城内の通路は、敵の侵入をしにくくするためなど、体感しながら歴史を学べます。歴史好きなお子様なら、複数残る家紋が歴代城主と結びつくこともあるでしょう。国語なら、作品の舞台や作家の出身地などに行ってみるのも面白いですね。

子どもの楽しいという気持ちは学びにもつながる

理科を楽しみながら学ぶなら、お台場の日本科学未来館のような施設もオススメです。科学や数学系のミュージアムは国内にもいろいろとあるので、お子様が興味をもっている場合は学習面でもプラスになるでしょう。楽しみながら学ぶという点では、うまく活用できれば苦手な教科の克服にもつながります。ただし、苦手な教科を無理やり学ばせても子どものやる気は出ず、逆効果になりかねないので注意も必要です。あらかじめ施設のホームページなどをお子様と見て、興味を示す、あるいは行ってみたい、楽しいと感じるような場所を選ぶようにしてくださいね。

中学受験前に行きたい! オススメ世界遺産

中学受験前に行きたい! オススメ世界遺産

入試が近づくほど学習時間が増え、外に出ない日々を過ごしがちなのが受験生。しかし、机上の学習時間が増えるほど、リフレッシュはとても大切になります。受験前は家族旅行を控えるご家庭も多いと思いますが、適度な休息をとることで脳は知識を定着させるとも言います。また、親御さんも受験のサポート疲れで、心に余裕がなくなっていることもあるでしょう。そんなときには親子のリフレッシュも兼ねて、ぜひ旅に出ていただきたいですね。

ここからは中学受験前のお子様にオススメな旅育スポットとして、国内の世界遺産をご紹介します。

オススメ世界遺産①原爆ドームと平和記念公園(広島県)

オススメ世界遺産①原爆ドームと平和記念公園(広島県)

1996年に世界文化遺産に登録された広島県の原爆ドーム。世界が戦争に直面している今こそ、子どもたちも戦争と平和について考えるべきタイミングではないでしょうか。平和記念公園ではボランティアガイドの解説を聞くことができ、ところどころに残る原爆の爪痕も見られます。高学年のお子様となら広島平和記念資料館もぜひ訪れると良いですね。2019年にリニューアルし、展示内容なども子どもが理解・共感しやすくなっています。

戦争の惨禍を知ることは、ただ歴史上の知識を学ぶだけに留まらず、世界平和や今後の未来を考える大切な機会にもなります。国際社会への理解は入試だけでなく、社会で生きていくうえでも必要な要素です。また、原爆投下から立ち直った歴史は、コロナ禍からの復興に通じる部分もあるように思います。大きな厄災から復興した社会について考えることも、大きな学びにつながることでしょう。

コロナ禍以前の原爆ドームは、海外からの観光客がとても多かった場所でもあります。今はまだ渡航制限も完全に解除されてはいませんが、今後は国外から訪れる方も増えてくるでしょう。異文化コミュニケーションのチャンスになるかもしれないので、その点でもオススメできる場所ですね。

オススメ世界遺産②西表島(沖縄県)

オススメ世界遺産②西表島(沖縄県)

2021年に奄美大島、徳之島、沖縄島北部とともに世界自然遺産に登録された西表島は、ぜひ訪れたいスポットです。「生物多様性上重要な地域」と国際的に認められるほど、絶滅危惧種や希少な固有種が多く生息している場所でもあり、楽しみながら生物の知識を学ぶこともできるでしょう。

星野リゾート 西表島ホテル「世界遺産の学校」

星野リゾートの西表島ホテルで実施されているアクティビティへ参加するのもオススメです。小学校高学年のお子様なら、西表島の生物たちの特徴や世界遺産に登録された理由などが学べる「世界遺産の学校」、ほかにも敷地内のジャングルやマングローブを解説付きで散策するガイドウォークなどがあります(いずれも宿泊者限定・無料)。日本とは思えない大自然のなかで、リフレッシュと学びを兼ねた有意義な旅行ができることでしょう。

また、2022年は沖縄返還から50周年の節目のとき。戦後、沖縄が辿った歴史背景や今も続く基地問題については、試験でも問われることがあるかもしれません。沖縄に訪れたことをきっかけに、親子で話しあうのも良いと思います

オススメ世界遺産③知床(北海道)

オススメ世界遺産③知床(北海道)

知床は、2005年に日本で初めて海洋を含む世界自然遺産として登録された地域です。豊富なプランクトンが海のなかの生物の糧となり、魚たちは山に生きるヒグマたちの餌となる。さらに山に住む動物の死骸は土に還ってまた自然を豊かにしていく……そんな海と陸の生物が相互関係する土地で、世界でも貴重な生態系を学ぶことができます。また、知床でおこなわれている多くの自然保護活動を知ることも、お子様にとって実りある経験になるはずです。

知床では先日、観光船が沈没するという痛ましい事故が起きました。この海難事故を受けて、一時は現地のクルーズ船各社が観光船の運行を取りやめていましたが、安心安全の整備を進めたうえで徐々に再開しています。このタイミングで行くか否か悩むところですが、その葛藤や検討することも旅育の一環になります。不安が取り除かれた際にはぜひ一度、足を運んでいただきたいスポットです。

旅を学びに変えるコツとオススメ世界遺産 まとめ

旅は受験のためのものではありませんが、自分の目で見たり聞いたり体験して学んだ知識は、これからの長い人生で大いに役立つものになるはずです。リフレッシュにもなる旅育を受験サポートの一環として、ぜひご検討いただければと思います。

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