令和6年の正月に能登半島地震が発生し、それ以降も全国各地で地震が頻発しています。気象庁の発表によると、南海トラフ巨大地震は今後30年以内に発生する可能性が高いそうです。では、いつ起きるかわからない地震に対して、どのような備えをしておくと良いのでしょうか? 小さなお子様を抱えながら阪神淡路大震災を経験した防災士の三原麻弓さんに、被災時に取るべき行動や注意点、そして、家族の命を守るための備えなどを伺いました。自宅でできる地震対策、家具の固定方法とオススメ耐震グッズ、家族の防災意識を高める方法などもご紹介します。
防災備蓄収納暮らし代表/防災士 ひょうご防災リーダー/防災備蓄収納マスタープランナー
1995年、激震地の兵庫県神戸市灘区内のマンションで、子育て中に阪神淡路大震災を経験する。その時の大変な経験から誰でも始められるやさしい防災と備蓄と収納セミナー・講座や片付けプロ目線の安全安心な暮らしの為のお片付け術セミナー・講座で登壇中。
災害はいつ起こるかわからないが、災害時でも日常生活が続けられるように、いつもの買物や暮らしに密着した防災備蓄と手軽に準備出来る非常食のアイデアを伝えている。
魅せる防災備蓄収納® :https://suteki-senior.com/
防災備蓄収納暮らし代表の三原麻弓です。阪神淡路大震災は、1月17日5時46分に発生しました。神戸の気温は2.6℃、真冬の真っ暗な時間帯。当時、私はほとんど対策をしておらず、大変な思いをしました。地震は突然やってきます。寝ていようが起きていようが、家族が揃っていようがいまいが関係ありません。日本全国、いつ何時発生してもおかしくありませんから、常に“起こるもの”と考えて備えておきましょう。まずは、地震が起こったときに取るべき行動を解説していきます。
目次
1.地震が起きた時に取るべき行動とは? 時間帯別の注意点
2.防災士が教える自宅でできる地震対策
3.地震による家具の転倒から身を守るには? 家具の固定方法とオススメ耐震グッズ
4.親子で考える地震対策とは? 防災意識を高める方法
5.家族で考える地震対策とは? 取るべき行動からわかる必要な備え まとめ
地震が起きた時に取るべき行動とは? 時間帯別の注意点
地震発生時の基本行動として、大きな揺れを感じたり、緊急地震速報が鳴ったりしたら、すぐに頑丈なテーブルや机の下などに隠れ、揺れが収まったら火の確認をし、窓や扉を開けて出口を確保しましょう。避難指示が出た場合は、すぐに避難しなければいけません。自宅の損壊が大きかったり、津波や土砂崩れなどの危険性があったりする際も急を要しますから、非常用持ち出し袋を持って急いで逃げてください。
地震は昼夜問わずに襲ってくる災害ですので、発生する時間帯によって取るべき行動や注意すべきことも変わってきます。ここからは母親・主婦の目線で、時間帯別の防災行動を解説していきますね。基本的には、家屋の倒壊や焼損などの危険性がなく、在宅避難をする際の防災行動についてのお話になります。
●朝
朝は食事やお弁当の準備でキッチンにいることが多いでしょう。地震が起きた場合、都市ガスやプロパンガスなら震度5相当以上の揺れを感知すると自動的にガスの供給をストップしますので、すぐにキッチンから離れてください。地震の揺れが震度4以下なら、落ち着いて火を消し、その場からすぐに離れます。キッチンは落下物が多く、食器棚や吊り戸棚の扉が開いたり、包丁が飛んできたりして危険です。冷蔵庫も倒れてくるかもしれません。家族全員が速やかにキッチンから退避し、身の安全を確保してください。
●昼間
家族が仕事や学校などそれぞれで活動している日中は、各自で身を守らなければなりません。お子様が学校や塾にいるのであれば先生に従うことになります。また、自宅が津波や土砂災害などに巻き込まれる危険性があるのであれば、家族全員で安全な場所はどこなのかをハザードマップで確認しておきましょう。待ち合わせの場所や方法も話し合っておくと良いですね。
●夕方
夕方に地震が発生した場合、暗くなる前に停電対策をして、必要な備品を安全に過ごせる部屋に集めておきます。お腹が減ったときにすぐ食べられるようなものを明るいうちに準備しておきましょう。お子様用におやつなども用意するのがオススメです。
●夜
暗くなってから就寝するまでの間は、家族がそれぞれ自由に過ごす時間が多いと思います。トイレに入っているときに揺れを感じたらすぐに扉を開け、入浴中であれば洗面器で頭を守りながら速やかに上がりましょう。その後、お家のなかで最も安全な部屋に集まり、家族全員の安全を確認してください。
●深夜〜早朝
深夜〜早朝にかけては多くの方が寝ている無防備な時間帯と言えます。揺れが収まるまでは身を守り、じっとしてください。揺れが収まったら、周囲で家具が倒れていたりガラスの破片が飛び散ったりしていないかなどを確認します。停電した場合は懐中電灯やLEDライトで照らし、移動するときは落下物やガラス片などで怪我をしないように靴を履きましょう。もしものときに備えるなら、各部屋にひとつずつLEDライトを準備しておき、寝床の近くには各々の靴があると良いですね。靴は厚底のスニーカーを準備すると、より安心です。一方で、底の薄いスリッパはガラス片を踏み抜いてしまう恐れがありますので、控えましょう。安全な部屋に移動したあと、テレビやラジオで正しい情報を入手するのも忘れずに。
在宅避難をする際は、停電や断水などでライフラインが途絶えても、救援物資が届くまでは自力でなんとかしなくてはなりません。食事やトイレなど日常生活がままならない状態になるので、備蓄の有無によって被災後の暮らしに大きな差が出ます。また、落ち着いたタイミングを見計らって、被害箇所をすべて写真に収めることも重要です。「地震保険」や「り災証明書」の手続きなどで証拠が必要になる可能性もありますから、お家を片付ける前に撮影しておきましょう。
防災士が教える自宅でできる地震対策
地震発生からの取るべき行動が具体的にシミュレーションできていると、必要な備えが見えてきます。食料や水などの物資の備蓄、家具などの転倒防止対策など、備えなければいけないことはたくさんあります。事前の対策によって被害も避難生活も変わってきますから、家族で協力して備えておきましょう。
災害対策として食料や水、衛生用品などを備蓄
日常生活に戻るまでの期間は被害状況によってケースバイケースですが、最低でも7日分の備蓄が必要だと言われています。7日分とは、家族ひとりあたり「1日3食✕7日分」の食事、「1日3リットル✕7日分」の飲料を含む生活水ですので、人数分を準備しておきましょう。被災時はカップラーメンや缶詰などでしのぐイメージがあるかもしれませんが、しっかりと備蓄しておけば普段と変わらない食事を取ることもできます。被災後はストレスを感じやすく、免疫力も落ちやすい傾向ですので、家族一人ひとりが満足できる量や好物を日頃から把握して備蓄しておきましょう。
また、女性や子どもの衛生用品は多めに備蓄しておいてください。生理用ナプキンや紙おむつをはじめ、紙製パンツもあると安心です。断水で洗濯もままならない状況を想定し、被災したらどのような生活になるのかを家族で話し合い、必要量の備蓄をしておいてくださいね。
地震で停電になったらどうなる? 一戸建て・マンションで備えておきたいポイント
食料や水などの備蓄だけでなく、あらゆる可能性に備えましょう。地震で停電になり、電気を必要とするものが使えなくなってしまうこともあり得ます。たとえば自宅のオートロックのドアや電気錠、ガレージや窓のシャッターは停電時に手動で開けられますか? あらかじめ心配な点を洗い出し、取扱説明書を読んだりメーカーに確認したりすることで、緊急時でも慌てずに行動できますよ。
オール電化の場合、停電時でもエコキュートからお湯が出るはずです。断水時もタンクや非常用取水栓が破損していなければ生活用水を取り出せるので、使用方法を把握しておきましょう。新築やリフォームを検討されている方は、エコキュートや太陽光発電と一緒に蓄電池を設置するのもオススメです。
マンションにお住まいの方は、エレベーターに閉じ込められたときの対処法を管理会社に問い合わせておきましょう。また、タワーマンションなどの高層マンションでは、エレベーターが停止すると地上に降りるのが困難になってしまいます。どうにか降りることができたとしても、再び昇るのが大変です。簡単に昇り降りできませんから、日頃からエレベーターが使えなくなったときの対策を考え、備蓄は1週間分より多めに用意しておきましょう。とくに、重くて持ち運びが困難な水の備蓄は必須です。
地震による家具の転倒から身を守るには? 家具の固定方法とオススメ耐震グッズ
地震が起きた際、家具が倒れてこないようにするのも重要な対策です。置き家具は地震で動いたり倒れたりする危険性があるので、造り付け家具が理想的。しかし、すべての家具を造り付けにするのは難しいので、置き家具はできるだけ背の低いものを選びましょう。
背の高い家具がある場合、必ず固定してください。固定しても100%安心ではありませんが、安全な場所へ避難するまでの時間稼ぎにはなるはずです。家具の固定にオススメなのは「耐震マット」と「突っ張り棒」の併用で、設置したい場所に適合するかどうかを重視しましょう。たとえば壁や天井が珪藻土のような凹凸のある素材だと、粘着テープが付きにくかったり、突っ張り棒を設置しにくかったりします。耐震グッズを取り入れる際は、お家の壁材や家具の素材に合わせ、使えるものなのか調べて購入してくださいね。効果を十分発揮できるように正しく取り付けることも重要なポイントです。
それでは、私が実際に使っている耐震グッズをご紹介します。
オススメ耐震グッズ①平安伸銅工業「家具転倒防止マット」
耐震マットのオススメは、平安伸銅工業の「家具転倒防止マット」です。家具の前方下にマットを挟み込むことで重心を後ろに移動させ、粘着ゲルがしっかり密着して転倒を防ぎます。ハサミでも切れる材質でつくられているので家具の大きさに合わせて使えますし、水洗いして乾かせば再利用も可能です。
オススメ耐震グッズ②平安伸銅工業「家具転倒防止突っ張り棒 2本組」
突っ張り棒は、耐震マットと同じく平安伸銅工業の「家具転倒防止突っ張り棒2本組」がオススメ。重いものでも支えられるジャッキタイプです。突っ張り棒には、手軽なバネタイプと耐荷重を重視したジャッキタイプの2種類ありますが、家具の耐震には必ずジャッキタイプを選ぶようにしましょう。我が家は家具と天井までの距離がかなり開いているため、大きいサイズのものを使用しています。いろいろな高さがラインナップされていますし、色もホワイトとブラックがありますから、家具や部屋に合ったものをチョイスしてください。
また、突っ張り棒は正しく設置しなければ意味がありません。よく家具の中心に1本だけ取り付けているケースを見かけますが、これだと大きな揺れによって突っ張り棒が天井と家具の天板を突き破る危険性があります。2本の突っ張り棒を家具の両端に、垂直にセットするのが正しい取り付け方法ですので、説明書をしっかりと確認しつつ設置するようにしましょう。
食器棚やクローゼットの地震対策は「S字フック」や「キャビネットロック」などのプチプラ防災グッズを活用
食器棚やクローゼットなどは、地震で扉が開いて中身が飛び出る危険性があります。最近の開き戸の家具には、揺れを感知するとセンサーが働き、自動的に扉にロックがかかる「耐震ラッチ」付きのものが増えてきました。耐震ラッチが付いていない家具は、プチプラアイテムを使って対策しましょう。取手のある開き戸には、「S字フック」がオススメ。サイズはさまざまで、向きを変えられるものもあります。
「キャビネットロック」は赤ちゃんのいたずら防止グッズとしてよく見かけますね。取手がなくても設置できるので、冷蔵庫などの家電にも使えます。S字フック、キャビネットロックともに100円ショップやホームセンターで手に入りますから、設置したい場所にぴったり合うものを探してみましょう。
家具の固定に加えて、家具の配置も重要なポイントです。とくに寝室はしっかりと考えておく必要があります。壁を背にした家具は前に倒れてくる可能性が高いので、寝床を家具の高さぶん離すか、家具の脇で眠るような配置にします。家具が倒れた場合に出入り口を塞がないか、頭に落下するものがないかなどもチェックして、安全な部屋づくりをしましょう。
親子で考える地震対策とは? 防災意識を高める方法
どれだけお家の耐震対策をしても、防災意識が低ければとっさに行動するのは難しいものです。災害を身近なものだと考える機会として、まずは家族でハザードマップを確認してみましょう。自宅や指定避難所は危険エリアではないか、学校や職場などの長時間過ごす場所や、近所のスーパーや公園などのよく行く場所は、災害が起きても安全なのかなどをチェックします。
通学時の被災も想定して、古びたブロック塀や倒壊しそうな空き家など、崩れて巻き込まれてしまう危険な場所がないか、実際に親子で通学路を歩いて確認することも大切です。緊急時の迂回ルートなども考えておきましょう。地震はいつ起きるか予測できないうえ、被害は建物倒壊・津波・火災・土砂崩れ・液状化現象など多岐にわたりますから、危険性を家族で共有し、行動をシミュレーションしてください。
普段の会話で、災害について話し合うことも大切です。食事中や団らん中といった何気ないタイミングで、「今地震が起きたらどうする?」などと問いかけることで、お子様も率先して防災対策を考えるようになることでしょう。親だけが納得するのではなく、家族全員で情報共有し、一緒に考えることが何よりも大切だと私は思います。
また、お子様だけで留守番しているときに地震が起こることもあり得ます。もしものときに備え、緊急地震速報の音を聞かせておくことも地震対策のひとつです。聞きなれない音でパニックを起こさないよう、あらかじめ備えておきましょう。備蓄品の収納場所を共有しておくことも重要です。いざというときのために、家族全員がどこに必要なものがあるのかを把握できている状態にしておいてください。
親子で行ってみよう! 地震の揺れを体験できる防災施設
災害を自分事として捉えられるように、地震の揺れを体験できる「防災センター」や「防災館」に行ってみるのも良いでしょう。地震をはじめ、さまざまな災害について、ゲームを交えながら子どもの防災意識を高めることができます。日本各地にあり、基本的に入館は無料ですので、お近くの施設を探してみてください。
たとえば、東京だと東京臨海広域防災公園にある「そなエリア東京」がオススメ。大地震が起きた際、少ない支援のなかで生き抜く知恵を学ぶ体験学習ツアーが常時開催されています。リアルなシナリオが設定されているので、より具体的に災害について話し合うきっかけになるはずです。被災地や避難所の再現ジオラマも展示されていますので、近場に住んでいる方は家族で訪れてみてください。
「東京消防庁池袋防災館」のようにナイトツアーを開催している施設に行くのもオススメです。毎週金曜日の17時からと19時からの2回おこなわれ、寝ているときに震度7の地震が襲ってきたらどうなるのかを体験できます。私は恐怖心のなか、激しい揺れに体が振り回されそうになるのを必死で堪えることしかできませんでした。実際に体験すると、一刻も早く対策が必要だと家族の誰もが思えることでしょう。
家族で考える地震対策とは? 取るべき行動からわかる必要な備え まとめ
地震の際に取るべき行動の一例と必要な備えについて解説しました。地震が発生したときの対応は、家族構成やお子様の年齢など、各家庭によって考慮すべきポイントは異なります。今回ご紹介したアドバイスも参考にしつつ、自分の家族やお家に合った地震対策を考えてみてください。地震を避けることはできませんが、備えは“減災”へとつながります。そして、家族全員で協力することが明日へと命をつなぐはずです。地震はいつ起こるか予測不能ですから、すぐにでも家族で対策を始めてくださいね。
一戸建て住宅とマンションの地震対策をご紹介
防災アドバイザーが教える! 家族と家を守るための家庭でできる地震対策
新耐震基準と耐震等級もあわせてチェック
地震に備えるマイホーム(1)一戸建てVSマンション、耐震性能に違いはある?
地震に強い規格住宅「タフハウス+」の特徴とは?
地震に備えるマイホーム(2)「耐震研究所」で最新設備を実体験!