自然観察のプロが解説! 家庭菜園・ガーデニング・プランター栽培で楽しむ五感を使った自然観察

自然と触れ合ったり、観察したりする自然体験は子どもの好奇心や感受性を育むと言われています。自然観察と聞くと、森や山などに行くことをイメージされる方が多いかもしれません。しかし、プロ・ナチュラリストの佐々木洋さんによると、自宅の庭やベランダで植物を育てることでも自然観察ができるそうです。そこで、講演会や各メディアでご活躍中の佐々木さんに、家庭菜園やプランター栽培などを利用してちょうちょの成長過程を観察できるお家での自然観察について、アドバイスを伺いました。生き物を呼ぶためにオススメな野菜&植物、自然観察のコツやポイントなどもご紹介します。ちょうちょがサナギから羽化して飛び立つところはぜひ観察してみたいですね。自由研究にも活用できます。

プロ・ナチュラリスト 佐々木洋のプロフィール
佐々木 洋 プロフィール

プロ・ナチュラリスト(プロの自然解説者)

(財)日本自然保護協会自然観察指導員や東京都鳥獣保護員などを経て独立。
日本初の「プロ・ナチュラリスト」として、NHK総合「ダーウィンが来た!」「ひるまえほっと」、テレビ朝日「スーパーJチャンネル」などの番組出演やエコツアーの企画・ガイドなど、幅広い分野で活躍。
著書に『となりの「ミステリー生物ずかん」』『ぼくらはみんな生きている』
『ナンコレ生物図鑑』『野遊びハンドブック』などがある。
animania(あにまにあ)HP

プロ・ナチュラリストの佐々木洋です。多くの人に自然を理解してもらって、自然のファンを増やすべく、自然観察会や講演などの活動をしています。自然と触れ合うという体験は、実はお家でもできるんですよ。庭の小さなスペースやベランダでのプランター栽培でも、野菜や花を育ててみるといろんな生き物がやって来るんですね。最近ではお皿に乗った野菜しか見たことがない子どもも多くなってきましたので、自然への学びを深めるためにも、ちょっとした家庭菜園に挑戦してみるのがオススメ。きっとお子様にとって実りのある経験になることでしょう。まずは自然観察について私の考えからお話していきます。

目次
1.親子で自然観察を楽しむには? プロ・ナチュラリストからのアドバイス
2.自然のプロに学ぶ! 生き物を「呼ぶ」自然観察
3.庭・畑・プランターで家庭菜園&自然観察! オススメ野菜と植物とは?
4.花は「ちょうちょのレストラン」
5.家庭菜園・ガーデニング・プランター栽培で楽しむ自然観察 まとめ

親子で自然観察を楽しむには? プロ・ナチュラリストからのアドバイス

親子で自然観察を楽しむには? プロ・ナチュラリストからのアドバイス

自然観察は決してハードルの高いものではありません。一歩外に出てみれば、木があって草が生えていて、よく見ると小さな虫もいます。空模様を眺めることもまた、自然観察ですね。なので、「自然観察がしたい」と思ったら、まずは身近な場所から目を向けるようにしましょう。自宅の庭はもちろん、近所の小さな公園や散歩道など、少し意識を変えるだけでそこには自然があることに気付くはず。たとえば公園にある木の幹をよーく見てみると、セミの抜け殻がくっついていたり、ダンゴムシやテントウムシが歩いていたりするんですね。季節や時間帯、天候によって植物の様子が変化したり、見かける生き物が違っていたりするので、同じ場所でもいろいろな発見がありますよ。

五感を使って自然を感じる「自然“感”察」

五感を使って自然を感じる「自然“感”察」

私は自然観察のことを、五感を使う「自然“感”察」でもあると提唱しています。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚。それぞれの感覚をフルに使うことで、より深く自然を理解できるからですね。また、幼いころから五感を駆使して自然と触れ合うことは、子どもの感性を育むためにも重要です。聴覚が鋭くなれば音楽方面の力、視覚や触覚が鍛えられればデザイン感覚やものづくりの能力……そういった感性を豊かにしてくれることでしょう。私の自然観察会に参加してくれた子どもたちのなかには、大人になって芸術分野で活躍している子や、バレエの才能を開花させた子もいましたね。

五感を使うには、親御さんのサポートも必要です。親子で自然と触れ合っていると、親御さんはついつい「見てごらん」という言い方をしがちなんですよ。そこを「何か聞こえない?」とか「ちょっと触ってみようか」など、五感を意識した声掛けに変えると良いですね。ただし、明らかに悪臭がするものや触ると危険な棘、毒性のあるものなどは避けなければなりません。安全だとわかるもの以外は触ったり口にしたりするのはやめましょう。

自然観察の心構えやオススメアイテムなどの基本情報はコチラ

自然のプロに学ぶ! 生き物を「呼ぶ」自然観察

自然のプロに学ぶ! 生き物を「呼ぶ」自然観察

生き物との触れ合い方として、私は「飼う」と「呼ぶ」があると考えています。生き物を「飼う」ことは幼稚園・保育園や小学校でもありますし、お家でもペットがいたり、お子様が採ってきた虫をそのまま飼ったりすることもあるでしょう。それに加えて「呼ぶ」という発想をもつと、自然観察の幅が広がりますよ。

「飼う」場合は一日中その生き物を観察することができますが、大きなサプライズ的な出来事は少ないんですね。一方で「呼ぶ」となると、その時々で違った生き物に出会えるワクワク感があります。たくさん来る日もあれば、全然来てくれないこともある。予想していなかった生き物がやって来てくれると「なんでだろう? 何をしに来たんだろう?」と疑問の種が生まれて、さらに楽しくなることでしょう。

季節や時間帯、天候などによっても異なる生き物が訪れるので、雨が降ると活動的になるとか、夜行性だとか、だんだんと生き物たちの暮らしぶりも理解できてくるんですね。これも自然観察の醍醐味だと思います。

生き物を「呼ぶ」には植物が必要なので、野菜や草花を育ててみましょう。庭や畑がなくても大丈夫。プランター栽培でもさまざまな生き物が訪れる空間をつくれるんですよ。ここからは私が家庭菜園やガーデニングにオススメする野菜や花を“生き物が呼べる”という観点から紹介していきましょう。

庭・畑・プランターで家庭菜園&自然観察! オススメ野菜と植物とは?

庭・畑・プランターで家庭菜園&自然観察! オススメ野菜と植物とは?

家庭菜園やガーデニングをしていると、いろいろな生き物がやってきます。種類は虫や鳥などさまざま。葉っぱが好きな生き物もいれば、花や果実が好きな生き物もいますね。なかでも“ちょうちょ”は産卵から成虫になるまでの成長過程を観察しやすい生き物です。

幼虫が好む野菜を植えると、お母さんちょうちょが卵を産みに来てくれるんですよ。自分で育てた野菜を収穫して食べるだけでも学びになりますが、ほかの生き物とシェアすることで、自然への理解がもっと深まります。「5本植えた野菜のうち、1本はちょうちょの幼虫に分けっこしよう」みたいな考え方ができるようになれば、地球上でさまざまな生き物と共存しているという意識、ほかの生き物への愛情も育まれると思いますね。

幼虫の好きな野菜を植えてちょうちょの産卵場所をつくる

幼虫の好きな野菜を植えてちょうちょの産卵場所をつくる

ちょうちょの幼虫は種類によって好きな食べ物が違うので、呼びたいちょうちょに合わせて野菜を植えれば、卵から成虫になるまで観察することができます。いくつかピックアップして解説しましょう。

●モンシロチョウ

春から秋にかけてやってくるモンシロチョウ

【成虫がやって来る季節】
春〜秋(3〜11月ごろ)

【幼虫の好きな食べ物】
キャベツ・大根・菜の花の葉・ブロッコリーの新芽などアブラナ科の植物

【オススメポイント】
モンシロチョウは漢字で「紋白蝶」と書きます。紋とは羽にある黒い模様のことですが、それなら「紋黒蝶」じゃない? と思いますよね(笑)。これは“紋”のある“白蝶”という意味。このようにお子様へクイズを出しながら観察しても楽しめますよ。

●キアゲハ

都会では珍しいキアゲハ

【成虫がやって来る季節】
春〜秋(4〜10月ごろ)

【幼虫の好きな食べ物】
ニンジン・パセリ・アシタバ・セロリなどセリ科の葉

【オススメポイント】
わりと都会では少ないので卵を産みにきてくれるとラッキー。数が増えたら飼育ケースに移動させて育ててみるのも良いでしょう。

●アゲハチョウ

柑橘類の葉が好きなアゲハチョウ

【成虫がやって来る季節】
春〜秋(4〜10月ごろ)

【幼虫の好きな食べ物】
ミカンなどの柑橘類の葉

【オススメポイント】
柑橘類には、ナミアゲハやクロアゲハといったアゲハチョウがやってきます。柑橘類といってもミカンやレモンなどさまざま。山椒もミカンの仲間なので、植えてみるのも良いと思います。違う種類を何本か植えて、どんなちょうちょが、何の柑橘類が好きなのかも観察すると面白いですよ。

アオスジアゲハを呼ぶには?

アオスジアゲハは都会でも観察することができる

アオスジアゲハは都会でもよく見かけるアゲハチョウで、クスノキの葉を食べます。クスノキは神社の御神木としてもよく見かける木で、防虫剤である「樟脳(しょうのう)」の原料でもあります。まさか虫除けを食べる虫がいるとは、驚きですよね(笑)。アオスジアゲハがクスノキの葉を食べる理由はふたつ考えられます。ひとつは、ほかのちょうちょが寄り付かないので、独り占めできるから。もうひとつは、防虫剤を食べることで敵から食べられにくくするからなんです。自然界って面白いですね! ぜひ、豆知識を交えた会話も楽しみつつ、親子で一緒に観察してみてください。

クスノキは1メートルに満たない若木でもアゲハが来てくれます。小さな庭やベランダでも鉢植えで栽培できるのですが、ゆくゆくは天を突くような大木になるので、先のこともしっかりと考えて植えましょう。

ちょうちょを観察するコツ

ちょうちょを観察するコツ

ちょうちょの多くは、サナギで越冬します。なかには成虫もいますが、冬は幼虫が生きられないので卵を産みに来ることはありません。春から秋に飛んできて卵を産み、卵からかえると幼虫は基本的にずっと同じ植物で生活します。脱皮してどんどん大きくなっていき、成長段階によって色や模様が変わっていくのも見どころですね。サナギは種類によって色や形、大きさが違いますので、比較しながら観察すると面白いですよ。

サナギを探すコツは、葉の裏だけでなくプランターの側面や近くの壁も探すこと。植物にずっと付いていると、立ち枯れて羽化できないと察知して移動することがあるんですよ。賢いですよね(笑)。いつもいる植物で見当たらなかったら、ちょっと離れたところも探してみましょう。

観察の注意点としては、幼虫もサナギも素手で触らないこと。幼虫は人間が触るとやけどをしたような状態になってしまうんですね。優しく触ったとしても弱って死んでしまいますし、サナギも皮が破れてしまったり、落ちてしまったりすると成虫になれません。地面に落ちた状態では羽化することができないうえ、元の位置に戻してあげるのもかなり難易度が高いんです。幼虫とサナギの間は、お子様がついつい触ってしまわないように気を付けながら観察しましょうね。

花は「ちょうちょのレストラン」

キバナコスモスは「ちょうちょのレストラン」

私は幼虫が好む野菜や植物を植えた場所のことを“ちょうちょの幼稚園・保育園”と呼んでいます。それに対し、成虫の好む花を植えた場所は“ちょうちょのレストラン”と呼んでいるんですね。レストランには、10種類以上のちょうちょが入れ替わり立ち替わり訪れることもあるんですよ。建物の10階くらいの高さまで飛べるので、マンションのベランダにやって来ることも。植え方は地植えでもプランターでもOKです。幼虫用の野菜と成虫用の花を両方植えれば、相乗効果も期待できますよ。

レストラン用の花はキバナコスモスがオススメ。その名の通り、イエロー系の花のみを咲かすコスモスで、6〜10月が開花期となります。一年草なので毎年種まきが必要ですが、見ていてキレイで、ちょうちょも好きなので、気になる方はぜひ育ててみてください。

夜限定の花「オシロイバナ」にやってくるお客さんとは?

「オシロイバナ」にやってくるお客さんとは?

夜に咲く花を植えると、昼間とはちょっと違ったお客さんがやってきます。たとえばオシロイバナを植えると、ハチドリのようなスズメガを呼ぶことができるんですね。オシロイバナの花の色は、赤、オレンジ、黄、ピンク、白などさまざまでキレイなんですが、最大の特徴は匂い。甘くて良い匂いがするので、お子様と一緒に嗅いでみましょう。

家庭菜園・ガーデニング・プランター栽培で楽しむ自然観察 まとめ

庭やプランターは、言わば“自分たちが世界で一番詳しい自然”。育てた植物や訪れる生き物がいつも把握できる場所になります。そういった場所が身近にあることで、近隣の公園だったり、森林だったり、もっと大きな自然と比較ができるようになる。ちょっと大げさに言うならば“地球の自然を考えるものさし”ができるような感覚でしょうか。お家で自然観察できる環境をつくることは、お子様の自然への理解を深めるためにはとても良い方法だと思います。小さなプランターからでも始められますので、ぜひ挑戦してみてくださいね。

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