理想のマイホームを計画するとき、部屋数・LDKの広さ・どんなキッチンにするかなど、室内のことばかりに目が行きがちですよね。しかし、建物の間取りやデザインのことを重点的に考えた結果、庭やエクステリアを後回しにしてしまうケースが往々としてあるそうです。理想の住まい、エクステリアもお忘れなく! そこで、作庭家であり、エクステリアプランナーの矢藤昭憲さんに、後悔しない庭づくりのコツを伺いました。
矢藤園 四代目作庭家
造園技能士1級・造園施工管理技士1級・エクステリアプランナー1級・自然再生士・ブロック塀診断士・防災士
世田谷区生まれ。2003年中央大学理工学部土木科卒業、2005年東京農業大学大学院農学研究科造園学専攻修了。2006年、自身が手がけた杉並区の個人邸が、月刊誌「新建築」の9月号(住宅特集)に掲載される。
2007年、第3回「学生を対象とした屋上利用提案競技」で優秀賞を受賞。第10回、11回、12回「国際バラとガーデニングショウ」でガーデンコンテストB部門入賞。2016年、第18回 国際バラとガーデングショーコンテストA部門優秀賞。
矢藤園
作庭家の矢藤昭憲です。意外かもしれませんが、マイホームに住み始めてから庭が生活にマッチしないと感じ、相談に来られる方は数多くいます。その理由の多くは建物優先で庭や外構が後回しになり、トータルコーディネートをせずに建ててしまったから。最初から庭や外構もすべてひっくるめて選択肢を提示されていたら、きっと後悔の少ない住まいが手に入ったのではないでしょうか。私も2年ほど前に自宅を新築したので、自身の経験も踏まえながら、後悔しない庭づくりのコツをお伝えしたいと思います。
施主×建築×造園でチームに! 後悔しない庭付き新築一戸建て計画
マイホームを建てる際はハウスメーカーや設計事務所といった建築会社の情報を収集し、何社かに絞り込み、相談に行くケースが多いでしょう。初回の相談は契約前なので、建物のイメージや建築費用などざっくりとしたものになるかと思います。このとき建築会社がしっかりとヒアリングやコミュニケーションをしてくれるかどうか、チェックしましょう。デザインの好みや予算だけでなく、家族構成や趣味など現在の生活スタイルに関して建築会社と情報共有することが理想のマイホームづくりの第一歩。そして、コミュニケーションの取りやすい建築会社と契約することが、後悔しない庭づくりにつながります。
私が自宅を建てたときは、3〜4社の候補に同じ要望を伝えてラフ提案をもらい、一番ワクワクした設計事務所にお願いしました。もちろん庭や外構は私自身が手掛けたので、最初から建築と造園がチームとなってマイホーム計画を進められたわけです。この「建築と造園がチームを組む」ことこそが、庭づくりで失敗しないための最重要ポイントになります。
しかし、残念ながら多くの建築会社は、工事が始まってから庭や外構の打ち合わせをしているのが現状で、予算も建物とは別です。庭や外構を後回しにした結果、家族の自転車が置けない駐輪場ができたり、緑化基準を満たしただけの愛着の持てない緑になったりするケースも。生活のしにくい庭や愛着の持てない庭は、不満のある庭になってしまうわけです。
庭づくりで後悔しないためには、候補の建築会社に建物・庭・外構を必ず“トータル”で提案してもらってください。打ち合わせの初期段階で造園家や作庭家に入ってもらうのも良いでしょう。コミュニケーションの取りやすい建築会社と契約していれば、そういった相談もしやすくなるわけです。打ち合わせの内容は、造園家にとっても必要な情報ばかり。この情報をもとに提案される複数のプランから、一番良いと思うものを選ぶようにしましょう。
最初の打ち合わせから造園家に依頼すると「料金が高くなるのでは?」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。あまりお金をかけずに理想の庭に近づけさせるのがプロの腕です。コスト面だけでなく、それぞれの専門家が力を合わせることで、トータルで納得のいく結果になるはずです。
ハウスメーカーと設計事務所の違いを作庭家目線で解説
マイホームを建てるとき、依頼先をハウスメーカーにするか、設計事務所にするか迷う場合もあるでしょう。メーカー独自の工法や保証内容、また、住宅ローンが組みやすい印象がハウスメーカーにはあります。それに対して、こだわりのある住まいを建てたいなら設計事務所だと思います。それぞれの強みを理解したうえで、どちらを選ぶかは施主の価値観やライフスタイル次第ではないでしょうか。さらに担当する営業、建築士、施工担当者の人柄が施主とマッチすることが理想と言えますね。
庭づくりで失敗しないための予算計画
庭づくりで失敗しないためには、予算計画も重要です。建物部分に予算のほとんどを割いてしまい、残金では必要な工事もままならないケースもあるのです。庭や外構の標準的な予算は1平米4万円(坪12万円)。この予算を確保したうえで建物の打ち合わせを進めると良いでしょう。もしも見積書に庭や外構が入っていないときは、早いうちから数字を出してもらうと安心です。また、庭の樹木やウッドデッキなどの維持費を事前に把握したい場合は、施工した造園家に相談してください。とくに庭は、実際に施工した造園家にメンテナンスもお願いするのが空間づくりの面でもコスト面でもベストだと思います。
設計図には書かれない近隣の様子も、庭づくりには重要なポイントです。たとえば隣が空き地だったとして、後々コインパーキングになることがわかっているなら、フェンスを建てておいたほうが良いと考えられます。周辺環境によっても庭や外構の予算が変わってくるので、土地を購入した不動産屋に近隣情報を聞いておくことをオススメします。後から追加コストがかからないように情報収集することも、失敗しない庭づくりにつながると思いますよ。
失敗しないために知っておきたい庭&外構づくりのポイント
マイホームを建てるとき、今までの暮らしを参考にすれば、建物部分の要望は出しやすいと思います。それに比べて、庭や外構についての要望はなかなか出てこないかもしれません。しかし、具体的なイメージが湧かなくても、エクステリアの知識がなくても大丈夫。庭や外構づくりでは、まず造園家に現在の生活スタイルと5年先の予測を伝えましょう。たとえば現在と5年先の家族構成の変化を予測すると、おのずと設計が変わってきます。造園家からは複数のプランが提案されると思いますので、そのなかから一番納得のいくものを選んでください。選択したプランに気になる点があれば、追加の要望を伝えることも重要ですね。
ここからは、私が新築からリフォームまでさまざまな依頼を受けてきたなかで、とくに失敗しやすいと感じた項目を4つに分けてお伝えしますので、庭づくりの参考にしていただければと思います。
失敗しない庭&外構づくりのポイント①土壌
庭で草花を育てたい、家庭菜園をしたい場合は、土壌が大切です。建築会社は通常、建築段階で出た石や瓦礫をその場に埋めていってしまいます。そのままの状態で植物を植えることは難しく、ご自身で土壌づくりしようとすると、かなりの労力が必要です。そうならないためには、良い土を入れてもらえるよう建築工事の前にオーダーしましょう。現場にオーダーが伝わっていることも、あわせて確認しておくとさらに良いですよ。
失敗しない庭&外構づくりのポイント②駐車場と駐輪スペース・物置
駐車場や駐輪スペースで後悔する方は、かなり多いですね。車や自転車を所有しているのか? 何台分のスペースが必要なのか? を打ち合わせの段階で建築会社が把握している必要があります。駐車が苦手だとわかっていれば広めにスペースを取ったり、周辺に電柱などの障害物があれば考慮したりと対策を講じることもできるでしょう。玄関から駐車場までベビーカーをスムーズに移動させたいとわかっていれば、玄関前はスロープにするなどいろいろなプランが考えられます。しかし、建築会社や造園家がしっかりヒアリングできていないと、後から施工しなおすことにもなりかねません。
私にリフォーム依頼があった例として、上図のように必要な駐輪スペースが設けられなかったケースでは、新築の玄関ポーチを壊してつくり直しました。最初から、玄関前に複数の自転車を置きたいことが伝わっていれば、通行の妨げにならない位置にスロープをつくることもできたでしょう。時間もコストもかからず、あらゆる面で施主の負担にならなかったはずです。
また、園芸用品やアウトドア用品などを庭に収納したい場合は、物置が必要になります。物置は後からでも設置できますが、最初から設置したほうが動線やスペースが確保できるので、早い段階で相談しておくのがベストですね。
失敗しない庭&外構づくりのポイント③水栓柱
屋外の水道「水栓柱」の設置場所は大切なポイントです。花壇の水やりや洗車はもちろん、庭にプールを出したいときなども近くに水が必要です。水を使いたい場所から水栓柱が遠いと、長いホースを引っ張ってくるのに苦労することになります。水栓柱は、上図のように地面から立ち上がっているタイプの「立水栓」と地面に埋め込むタイプの「散水栓」があります。どちらのタイプを設置するのかも含めて、造園家に相談しましょう。また、木を植えたい場合は、配管がある場所には植栽できないので、庭の設計段階で相談することをオススメします。
失敗しない庭&外構づくりのポイント④照明
庭に照明があると、昼間とは一味違った景色を楽しむことができますし、夜にバーベキューをするときも便利です。庭に照明を設置したい場合は屋外コンセントが必要なので、建築の打ち合わせ時に必ず相談しましょう。水道の配管同様、配線にも気を配らないといけないので、庭全体の設計が変わる可能性もあります。また、庭の照明が引き立つように、庭に面する部屋を調光できるようにするなど、さまざまな調整が必要です。屋外と屋内をあわせてのコーディネートが必要なので、施主・建築・造園のチームワークが大切になってくる部分だと覚えておいてください。
作庭家が後悔しない庭づくりのコツを解説 まとめ
建物だけでなく、庭も外構も含めて「家」です。理想のマイホームを手に入れるには、家づくりに関わるすべてのプロたちと信頼関係を築くことが重要だと思います。施工が始まったら現場に顔を出したほうが良いとよく言いますよね。それは施主の顔を見て、人柄を感じることが良いものをつくろうとする原動力になっているからだと思います。完成後は、庭や外構もメンテナンスが必要です。末永く手をかける必要があるので、ずっと付き合っていける建築会社や造園家を選んでいただきたいと思います。
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