非認知能力を育む自然遊び~上級編~宿泊をともなう自然体験の楽しみ方をプロが解説

自然との触れ合いは人の心身に良い影響を与えると言われています。とくに成長過程にある子どもにとって、自然遊びは五感が研ぎ澄まされ、「非認知能力」が育まれるなど、大きなプラスになるそうです。さらにアウトドアプロデューサーの長谷部雅一さんによると、宿泊をともなう自然体験には、日帰りの自然遊び以上の新しい発見があり、大きな感動体験を得る機会なのだとか。すでに親子での自然遊びに取り組んでいる、という方もステップアップして、大自然のなかで夜を過ごすアウトドアに挑戦してみてはいかがでしょうか? キャンプイベントや親子向けの自然教室、保育園・幼稚園の教育にも携わる長谷部さんに、宿泊をともなう自然体験やアウトドアの楽しみ方を伺いました。自然遊びを通して子どもの非認知能力を育むコツやサポート方法のアドバイス、宿泊をともなうアウトドアの注意点、親子キャンプ・お泊まり登山・サップを楽しむ一泊旅行についてもご紹介します。

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長谷部雅一 プロフィール

アウトドアプロデューサー・長谷部雅一のプロフィール
長谷部雅一 プロフィール

株式会社ビーコン 代表取締役/アウトドアプロデューサー/ネイチャーインタープリター

アウトドア事業に関する企画・運営の他、研修講師、登山ガイド等を務める。アウトドアイベントでは子どもや親子を対象としたさまざまなワークショップ講師を務め、親子の関係が深まり、楽しく学び合える場を提供。また、自然を舞台にした幼児教育にも尽力。幼稚園や保育園、こども園の教育コンサルタント業務を行っている。
20年来の経験を元に、保育士向けに自然体験指導者養成やコミュニケーション研修、応急救護研修を提供。著者「ネイチャーエデュケーション(みくに出版)」、「自然あそびで子どもの非認知能力が育つ(東洋館出版社)」など多数、雑誌等メディアなどでも活躍中。
株式会社ビーコン: https://be-con.co.jp/  

アウトドアプロデューサーの長谷部雅一です。自然のなかで思いっ切り遊ぶことは、子どもの非認知能力を育み、親子関係にも良い影響を与えてくれます。大きな公園での自然遊びや日帰り登山、川遊びなどに慣れてきたら、次は宿泊をともなう自然体験やアウトドアに挑戦してみましょう。日中だけではわからない夜の自然の面白さを知ることができますし、得られる学びも増えると思います。ただ、宿泊をともなうからこそ注意すべき点も増えているので、そのことも踏まえた準備や楽しみ方のアドバイスをお伝えしていきましょう。まずは、自然遊びと子どもの非認知能力の関係について解説いたします。

目次
1.自然遊びで育まれる! 近年注目されている子どもの非認知能力とは?
2.どんな計画を立てる? 必須な持ち物は? 宿泊をともなうアウトドアの注意点
3.24時間を自然のなかで過ごそう! 親子キャンプの楽しみ方と注意点
4.山小屋でお泊まり! 宿泊をともなう登山の楽しみ方と注意点
5.水辺の自然体験「サップ(SUP)」を一泊旅行で楽しもう
6.親子で自然遊び~上級編~宿泊をともなう自然体験 まとめ

自然遊びで育まれる! 近年注目されている子どもの非認知能力とは?

自然遊びで育まれる! 近年注目されている子どもの非認知能力とは?

現在の学校教育において、重要視されてきた非認知能力をご存知でしょうか? 子育て真っ最中の親御さんのなかには、耳にしたことがある方も多いと思います。学力テストなどによって数値化できる認知能力に対して、数値では測れない人間の能力が総じて非認知能力と呼ばれます。自ら考える力や課題を解決する力、周囲と協調できるコミュニケーション力……どれも数字には表せませんが、生きていくためにはとても大切なものです。

かつて日本の学校教育は知識を詰め込んで認知能力だけを育てる傾向が強かったのですが、近年は社会を生き抜くためには非認知能力も重要であると考えられるようになりました。非認知能力が重視されるようになった結果、子どもが能動的に学ぶアクティブ・ラーニングが推奨されるなど、学校教育の現場は変わりつつあります。しかし、能動的な学びの仕組みが定着するには、まだまだ時間がかかることでしょう。今まさに成長過程の子どもたちの非認知能力を向上させるためには、家庭での取り組みが大きく影響するのではないでしょうか。そこで私が提案しているのが、親子での自然遊びです。

自然は季節や天候が常に移り変わる空間で、そこにいる生き物や植物たちも変化します。おもちゃや遊具には作り手による大人の意図が含まれますが、自然界には当然ながら人為的な意図は存在しません。何が起こるかわからない自然のなかで、子どもの好奇心は刺激され、自ら遊びをつくり出していきます。何かに興味をもち、遊びを生み出し、創意工夫して進化させていく。失敗したら、その原因を見つけ出してもう一度挑戦する。そんな自然遊びのなかで生まれるトライアンドエラーの繰り返しが、子どもの非認知能力を養うことにつながるんですね。

さらに自然のなかに身を置くだけで、子どもたちの「遊びたい!」というワクワクは自ずと湧いてくるものです。そのワクワクに身も心も任せ、親子で思いっ切り遊んでください。子どもは前のめりに遊ぶことで能動的に考え、実行するようになります。これらのワクワクから始まるサイクルを大切にしてあげてください。親御さんも気負わず、一緒に楽しむことでお子様の非認知能力を育むサポートをしましょう。

子どもの非認知能力を養うには“環境設定”が重要

子どもの非認知能力を養うには“環境設定”が重要

自然遊びやアウトドアで子どもの非認知能力を育むためには、大人のサポートも重要になってきます。親御さんたちにやっていただきたいのは“環境設定”で、思考を巡らせることができる環境づくり、と言っても良いでしょう。行き先を決めてどんなことをするか、を事前に考える作戦会議や出発に向けた準備の段階では、「何をしよう?」「そのためには何を持って行こうか?」という風に、お子様が自ら考えて答えを出すような声掛けをします。現地でも何かを強制するようなことはせず、お子様の興味関心に寄り添って一緒に考えたり楽しんだりしてください。遊びやアクティビティに誘いたいときは「一緒に○○したいから、やろうよ!」と言った具合に“一緒に楽しみたい”という気持ちを込めて伝えるのが良いと思います。

さらなるサポートとして重要になるのが、自然遊びの“振り返り”です。どんな遊びをしたか、何があったのか、どう思ったのか……体験の内容を振り返ってアウトプットすることが、子どもの考える力を育みます。振り返りは会話でも良いですし、日記に書いても、絵で表現してもOK。大切なのは具体性を持って振り返ること。親御さんは会話のなかで、お子様の感想をより掘り下げるような問い掛けをしたり、褒めるときも細かく伝えたりと、より鮮明に体験を思い出せるようなサポートをしてあげましょう。

とくに宿泊をともなう自然体験に出かけた際は、現地で寝る前に振り返りの時間をとると良いですね。体験はアウトプットすることで“経験”に変わり、積み重ねられていきます。自然遊びを通して得た学びを確かなものにするため、しっかりと振り返りをしてくださいね。

自然遊びの基本についてもっと知りたい方はコチラ

ここからは、宿泊をともなう自然体験について、例を挙げながら解説していきましょう。

どんな計画を立てる? 必須な持ち物は? 宿泊をともなうアウトドアの注意点

どんな計画を立てる? 必須な持ち物は? 宿泊をともなうアウトドアの注意点

宿泊をともなう自然体験に出かけるときは、必ず時間に余裕を持った計画を立てるようにしましょう。泊りがけだから時間がたくさんあると思って予定を詰め込むと、疲れてしまって満足に楽しめなかったという結果になりかねません。とくにお子様がいる場合は想定以上に時間がかかることも多くなりますから、基本的にはやりたいことを絞ったプランが良いですね。

時間に追われるような予定を立てると懸念されるのが親子喧嘩や夫婦喧嘩。宿泊をともなうアウトドアでは、家族で喧嘩になってしまうケースもあります。その理由の多くは、予定を詰め込みすぎて、心に余裕を持てなくなってしまったから。計画通りに進まなかったり、計画に縛られすぎて疲れてしまいイライラしたり……そうして喧嘩に発展してしまうわけです。そうならないためにもゆとりあるスケジュールを組みましょう。予定通りにいかなくても受け入れる寛容な心を持つことも大切です。自然は予想していなかったことも起こる未知で不思議な世界なので、“予定はあくまで未定”という心持ちで行動してほしいと思います。それと、喧嘩にならないためには日頃から仲良くするのが一番ですね(笑)。

絆創膏や虫刺され薬などの救急セットは必須

宿泊をともなう自然遊びで準備するものは、日帰り以上にいろいろと気を付けることがあります。まず自然体験には必須となる絆創膏や虫刺され薬などの救急セット。自然のなかで思いっ切り遊ぶと服も汚れるので、着替えの予備は通常の旅行以上にたくさん用意しましょう。お子様に持病やアレルギーがある場合は、常備薬やアレルギーフリーの食べ物も忘れずに。体験時間が長い分、日帰りよりもお子様の体調変化や怪我の可能性が高まるので、緊急事態の際に対応してくれる施設なども確認しておきます。

また、キャンプ場近辺は自然にあふれていますので、敷地内から外れると危険な場合もあるので要注意。焚き火など日常では使用しないものもあるので、事故が起きないように気を付けます。親御さんは、テントの設営・撤収、炊事や片付けの間も、絶対にお子様から目を離さないように見守ってあげてください。お子様にも必ず大人と一緒に行動するよう、しっかりと伝えましょう。出かける数日前から体調管理に気を付けることも重要で、これは親子ともに言えることですね。しっかり食事をして十分な睡眠をとり、宿泊自然体験当日に備えてください。

24時間を自然のなかで過ごそう! 親子キャンプの楽しみ方と注意点

24時間を自然のなかで過ごそう! 親子キャンプの楽しみ方と注意点

宿泊をともなう自然体験の筆頭とも言えるのがキャンプ。自然のなかで24時間を過ごすわけですから、当然“夜”がやってきます。屋外で過ごす夜はキャンプの醍醐味のひとつ。子どもにとっても、夜の自然遊びは普段とは違った未知の体験になります。日常生活では感じられない刺激があり、不思議な感覚や恐怖なども芽生えて、喜怒哀楽の感情がより豊かに発露されることでしょう。

テントや小屋のなかで鳥や動物の鳴き声を聴くのも良いですし、ヘッドライトを付けて外を散策するのもオススメです。夜間に外を散策する場合は、明るい時間帯に危険な場所がないか、必ずしっかり下見しておきましょう。お家の周りや街中では味わえない、本当の“暗い”という感覚を知ることも、お子様の感受性に影響を与えてくれると思います。未知の体験をするドキドキ感、ワクワク感はきっと成長の糧になりますよ。

自然を身近に感じられるテント泊

より自然を近くに感じられるので私はテント泊を勧めていますが、ログハウスやバンガローなどに泊まる選択肢もあります。親御さんのアウトドア経験や家族の希望を考慮し、無理のない宿泊方法を選びましょう。キャンプ初心者の方には設備やレンタル品などが充実した「高規格キャンプ場」が良いかもしれません。トイレやお風呂に困らないので快適度が上がります。慣れている方でも、子どもが一緒の場合は安全を考え、管理された有料のキャンプ場を利用するのが良いでしょう。それから、キャンプ場によっては子ども向けの探検や川遊びなどのプログラムを開催していることも。参加してみたいプログラムを踏まえつつ、キャンプ場を選ぶのも良いと思います。

山小屋でお泊まり! 宿泊をともなう登山の楽しみ方と注意点

山小屋でお泊まり! 宿泊をともなう登山の楽しみ方と注意点

宿泊をともなう登山は、登山レベルが上がる分、自然と触れ合える時間も多くなります。途中で立ち止まって、お家の周りでは見かけないような木々や草花に注目してみると楽しいでしょう。そして重要なのは、無理のない登山計画を立てること。山頂や山小屋までの所要時間を調べたうえで、その時間に1〜2時間程度プラスした余裕のある計画を立てます。登山の所要時間は大人の足で考えてあるものがほとんどなので、子どもの足でどのくらいかかるかも考慮しましょう。

タイムスケジュールとしては、宿泊する山小屋に昼過ぎには到着できるように登ることを勧めています。昼過ぎに山小屋に着けると、寝るまでの時間は自由に使えますから、周辺散策をしたり思いっ切り遊んだりと山の自然を満喫できますよ。疲れていたらゆっくり休んでも良いですし、山によっては温泉が湧いているところもあります。サンドイッチの材料を持って行って、その場でつくるのも良いでしょう。山での過ごし方は自由ですから、お子様と「次は何をしよう?」と相談しながら、親子の時間を楽しんでください。

登山ではいろいろと準備が必要ですが、宿泊をともなう場合は持ち物がさらに多くなります。宿泊用の道具も持って行くため、すべて背負っていける頑丈で体にフィットした登山用のバックパックを使いましょう。また、24時間以上山で過ごすことになりますから、雨で濡れるリスクも高まります。上下セパレートのレインウェアなど、しっかりとした登山装備もマストだと思いますね。

山小屋選びの基準は、まず予定している時間内に着ける場所であること。子ども連れでも入りやすい雰囲気かどうかも重視してください。施設によっては子ども連れでの宿泊が難しいところもあるので、入念に調べておきましょう。予約などについても事前に要確認。山のレベルは、お子様が複数いる場合は一番年下の子に合わせるようにします。お兄ちゃん、お姉ちゃんには物足りないかもしれませんから、その分「ごはんの係」や「遊びのリーダー」といった役割を与えてあげるのもひとつの手だと思いますね。

水辺の自然体験「サップ(SUP)」を一泊旅行で楽しもう

水辺の自然体験「サップ(SUP)」を一泊旅行で楽しもう

サップは「Stand Up Paddleboard(スタンド・アップ・パドルボード)」の略称で、サーフボードのような板の上に乗り、パドルを使って水上を進むアクティビティ。海だけでなく、湖や川といった水辺全般で楽しめます。各地で体験教室がありますから、子どもでも参加可能なところを選びましょう。日本では富士五湖や琵琶湖でもサップ体験が盛んです。ボードが貸してもらえるところならウエア以外は手ぶらで行けるので、アウトドア初心者の方にもオススメですね。体験のレベルは場所や教室によって異なるので、事前に確認しておくと良いでしょう。

サップを自然遊びのメインに据える場合は、海や湖付近での宿泊になります。キャンプ場が近くにあるならキャンプとサップ体験を組み合わせて計画しても良いですし、近くのホテルや旅館に宿泊するのも良いですね。家族みんなで相談して、宿泊とアクティビティを組み合わせた計画を立ててみてください。2日間あればサップは上達できますし、チャレンジできることも増えてより楽しめることでしょう。

親子で自然遊び~上級編~宿泊をともなう自然体験 まとめ

自然のなかで思いっ切り遊ぶことは、子どもの非認知能力を育み、親子関係にも良い影響を与えてくれます。自然遊びの際には親御さんが環境設定をしてあげることで、より非認知能力を育み、楽しむことができるでしょう。キャンプや山小屋泊登山などの宿泊をともなう自然体験では、24時間以上を自然のなかで過ごします。日帰り遊びのとき以上に、入念な準備や作戦会議をすることが楽しく過ごすコツです。昼夜を通して自然に身を置くことで、五感が研ぎ澄まされて大人も子どもも、新しい発見や今までにない感動に出会えるはず。思うようにいかない、計画通りに進まないこともあると思います。しかし人間の力の及ばないのが自然というもの。予想外のハプニングやイレギュラーな状況も、親子で一緒に楽しむくらいの気持ちを持ちましょう。ワクワクした気持ちのままトライアンドエラーを繰り返すことで、お子様の非認知能力は育まれますし、大自然での体験は家族にとっても素晴らしい思い出になるはず。最後は振り返りをしてアウトプットを行い、体験を経験に変えていきましょう。

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