間取りや内装、キッチンのタイプなど、お家を建てるときには決めることがたくさんあります。後から設置できるものもあれば新築時でないと導入が難しい設備もあるので、なるべく多くの情報を仕入れてから検討したいですよね。最近では新築時じゃないと導入しにくい空調設備もあるそうです。そこで、さまざまなメディアで活躍中の人気家電ライター兼アドバイザーの藤山哲人さんに、空調設備の種類やそれぞれの特徴を解説していただきました。
お話を伺った藤山哲人さん プロフィール
家電の紹介やしくみ、選び方や便利な使い方などを紹介するプロの家電ライター。独自の測定器やプログラムを開発して、家電の性能を数値化(見える化)し、徹底的に使ってレビューするのをモットーとしているため「体当たり家電ライター」との異名も。「マツコの知らない世界」(番組史上最多の6回出演)や「アッコにおまかせ」、「NHKごごナマ」などをはじめ、朝や昼の情報番組に多数出演。現在、インプレスの「家電Watch」「PC Watch」や「文春オンライン」「現代デジタル」などのWeb媒体、ABCラジオで連載やコーナーを持っている。
家電ライターの藤山哲人です。お家で快適に過ごすために欠かせないのが空調設備ですが、そのなかでも「屋根裏エアコン」というものがあるのをご存知でしょうか? 今回は「屋根裏エアコンって何?」というところから、エアコンの種類ごとのメリット・デメリットなどをお伝えしていきたいと思います。
「屋根裏エアコン」とは?
「屋根裏エアコン」は一般的に全館空調のことを言いますが、マルチエアコンを指すこともあります。全館空調とマルチエアコンの共通点はどちらも室外機1台で運用すること、空気を送るための配管を家中に張り巡らせることが挙げられます。
「全館空調」は本体ユニットと室外機を1台ずつ設置し、屋根裏などに置かれる本体ユニットから家中に巡らせた配管を通して各部屋に快適な空気を送り込みます。冷暖房や換気などの空調管理を一括で行うので、各部屋には吹出口をつくるだけでOK。家中の温度を均一にできることでヒートショックを防げる点から流行したんじゃないかなと思います。旅館などのエアコンで、“OFF”“LOW”“MID”“HIGH”のダイヤル式のものを見たことありませんか? あれが全館空調です。もともとオフィスやホテル・旅館などの業務用でしたが、2016年12月に桧家住宅が「Z空調」を発売したことをきっかけに、一般的な住宅でも導入されるようになりました。
「マルチエアコン」は1台の室外機に複数台の室内機を接続する空調設備のことです。一般的なルームエアコンの拡張型みたいな感じですね。ルームエアコンは5台設置したら室外機も5台必要ですが、マルチエアコンは室外機1台でOK。さまざまなタイプの室内機が選べるのも特長のひとつです。
「全館空調」「マルチエアコン」「ルームエアコン」のメリット&デメリットを比較
メリット | デメリット | |
---|---|---|
全館空調 | ・お家の隅々まで暖かくヒートショック予防になる ・オシャレな部屋にできる ・開放的な間取りにできる ・換気機能を搭載 ・空気清浄機の機能が付いているものもある ・室外機で場所をとられないので庭やベランダを有効活用できる |
・お家の中に2畳程度の本体ユニット設置場所が必要 ・部屋ごとの温度設定ができない ・導入時に大きな工事が必要で費用も高額 ・取り替えも大規模工事が必要で費用も高額 ・本体や室外機が故障すると家全体の空調が止まる ・年1回の有料メンテナンスが必要 ・電気料金が高い |
マルチ エアコン | ・オシャレな部屋にできる ・部屋ごとに温度設定が可能 ・部屋に合わせて室内機を選べる ・室外機で場所をとられないので庭やベランダを有効活用できる ・エコキュートとの併用で電気料金を安くできる |
・お家のなかで寒暖差がある ・導入時の工事がルームエアコンより大掛かり ・室外機が故障したら接続している室内機がすべて止まる ・室内機のタイプによってはメンテナンスが大変 ・年1回の有料メンテナンスが必要 ・機種のラインアップが少ない |
ルーム エアコン | ・導入時の工事が簡単で低コスト ・買い替えや追加工事も簡単で低コスト ・部屋ごとに温度設定できる ・機種が多彩 |
・お家のなかで寒暖差がある ・室内機が大きく圧迫感がある ・大きさや形状によっては取り付けできないものがある ・室内機の数だけ室外機が必要 |
全館空調とマルチエアコンはお家のなかに配管を張り巡らせるので、どちらも新築時以外の導入は難しいですね。リフォーム時にできないこともないですが、費用がかさむのでオススメしていません。
全館空調はトイレやお風呂場、廊下なども含めお家全体の寒暖差がほとんどなくなり、ヒートショックの予防にもなるので高齢者がいるご家庭にオススメです。小児ぜんそくの発症予防にもなりますね。換気機能を搭載しているのでウイルス対策がしやすく、部屋干しの臭いやペット臭などを軽減するといったメリットもあります。大きな本体ユニットをお家の中に設置するので、広いお家向きとも言えますね。導入時には大規模な工事となり、200〜300万円ほどの高額費用がかかりますが、空調システム全部をコミコミで規格化しているハウスビルダーに依頼すれば比較的安く済むと思います。
注意点はお家全体の温度を均一にするので電気代が高くなりやすいのと、「この部屋にはいらない」という仕様にはできないこと。さらに室外機や本体ユニットが壊れると、それに連なる空調設備がすべて使えなく点も要注意。これらの修理費やメンテナンス費がけっこう高いのも落とし穴と言えるでしょう。
マルチエアコンは室内機を天井や壁に埋め込むことができるので、インテリア性を重視できる「ハウジングエアコン」の要素も兼ね備えていますね。お家づくりにこだわりのある方やオシャレな空間にしたい方にもうれしいポイントだと思います。また、エコキュートと併用するなど、活用方法や電力会社の契約プランによっては電気代が一番安くなるのもマルチエアコンです。
一方で、室内機を手軽に追加できないので、出産やお子様の成長などライフスタイルの変化を見越し、あらかじめ必要な数を導入しておく必要があります。どうしても追加したい場合は、室外機は増えてしまいますがルームエアコンを設置するのが現実的です。
「北側斜線制限」のお家は全館空調やマルチエアコンが向いている?
お家が「北側斜線制限」となるなら、全館空調やマルチエアコンを検討してみるのも良いかもしれません。北側斜線制限とは、隣接地の日照・採光・通風を確保するための法律で、北側の境界線ギリギリに建てる場合は建物の高さが制限されます。つまり、北側の壁に傾斜がつくわけです。私の家もそうなんですが、北側の壁が斜めだとルームエアコンが設置できない部屋が出てくるんですね。そういったケースの選択肢のひとつとして、天井に吹出口をつくれる全館空調や埋め込みタイプの室内機にできるマルチエアコンを覚えておきましょう。
「全館空調」「マルチエアコン」で失敗しないためには? メンテナンス&取り替え工事費を要確認!
全館空調とマルチエアコンは、メンテナンス面でのデメリットがルームエアコンよりも多く挙げられます。1年に1回、メーカーによるメンテナンスが必須なので、そのたびに数万円の費用がかかるんですね。
また、マルチエアコンはタイプによっては自分で清掃するのが難しく、プロの清掃業者に依頼する必要があるので要注意。料金は1箇所につき1万円ほどで、設置数×料金がかかるのでその費用も試算に入れておきましょう。ちなみに年1回の清掃が推奨されていますが、最近のエアコンはカビが生えにくいので3年に1回くらいでも大丈夫だと個人的には思います。
全館空調とマルチエアコンの耐用年数は8〜10年ほどで、一般的なルームエアコンと変わりません。しかし、ルームエアコンと違って買い換えるときは装置すべてを交換する必要があるので工事になります。工事は1日程度で終わると思いますが、お家のなかに張り巡らされている配管も見直さないといけないので高額になるかもしれません。全館空調だと100万円以上かかることも考えられます。マルチエアコンは、お家全体ではないのでそこまでかかりませんが、それでも数十万円はかかると見積もっておきましょう。
空調設備を選ぶときには、それぞれのメリット・デメリットを踏まえたうえで納得して導入しないと後悔することになるので、しっかりと検討しましょうね。
全館空調の詳しいメリット・デメリットはコチラ
家電アドバイザーが教える! 「全館空調」のメリット・デメリット&コスト削減のコツ
決め手はオプション? 価格? オススメの「マルチエアコン」
マルチエアコンは、どのメーカーのものを導入できるかはハウスビルダー次第なので、しっかりと確認しましょう。メーカーはいくつかありますが、オススメはダイキン。室内機のオプションが多くて、玄関などの小さな空間を暖めるタイプもあります。比較的安く導入したいならCORONAが良くて、電気ではなく冷温水によるエアコンや冷温水輻射パネルなどを扱っています。
エアコンと言えば、気になるのがお手入れ方法。天井埋込みタイプの室内機にすると、フィルターのお手入れをするときに脚立を使わないといけないので大変ですが、ダイキンはフィルター自動お掃除機能が付いているのでリモコンを押すだけでOK。しかも、ボタンひとつでフィルターが降りてくるので、自動お掃除後はたまったホコリを捨てるだけです。メーカーや機種によってお手入れ方法や機能が変わってくるので、自分に合ったものを選びましょう。
マルチエアコンは2021年12月時点では新製品の情報は入っていませんが、もしかしたら業務用ビルエアコンの民生用が出てくる可能性があります。業務用ビルエアコンは電気ヒートポンプ式とガスヒートポンプ式の2系統でつくられていて、電気が使えなくなったらガスでも動くようにバックアップシステムを準備しているんですね。今後そういう家庭用モデルが出てきたら、停電に強いマルチエアコンとして注目されるかもしれません。
省エネで上手に節約! マルチエアコンと併用したいオススメ家電やシステム
マルチエアコンと併用するなら床暖房がオススメです。エアコンはスイッチを入れてから部屋が暖まるまで時間がかかるので、冬の朝の寒さには床暖房があると良いですね。暖められる範囲の違いはあるかもしれませんが、全館空調と同等の暖房効率になります。「全館空調には及ばないものの、快適な空間を低コストで実現できる」という感じですかね。
床暖房を導入するときは、設計時点でしっかりとしたビジョンを持っておくことが大切です。部屋の使い方や家具の配置などを事前に決めておかないと、テレビやソファーといった大型家電や家具の下など、余計な部分まで床暖房にしてしまう恐れがあります。部屋の全面を床暖房にしてしまうともったいないので、私なら部屋の隅は避けて中央部分だけに入れますね。もし床暖房にしないのなら、ホットカーペットを敷くと良いでしょう。必要な箇所だけ暖められて移動も可能です。
また、マルチエアコンと床暖房を同時に導入するなら、合わせてエコキュートも入れると良いですね。エコキュートでつくったお湯を床に循環させる床暖房が今はポピュラーで、電気代が安くなります。そのほか、マルチエアコンと併用したいアイテムは加湿器が挙げられますね。現在、マルチエアコンには加湿・除湿機能が付いているものがないので、マストアイテムだと言えるでしょう。
屋根裏エアコンのメリット&デメリットを解説 まとめ
空調設備は、それぞれのメリット・デメリットを把握したうえで決めることをオススメします。私の場合、部屋ごとに温度を設定できないと、家族間で“エアコンの温度上げ下げ戦争”が勃発する可能性があるのでルームエアコンを選びました。全館空調やマルチエアコンはほぼ新築時にしか入れられず、入れたら簡単に取り外せないので、家族とも良く相談して決めてくださいね。
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