毎日多くの犯罪がニュースで流れていますが、子育て中のママ・パパにとって、とくに気になるのは子どもが犯罪被害に遭うケースではないでしょうか? 我が子と同じくらいの年齢の子どもが被害に遭っていることを知って、いたたまれない気持ちになる親御さんも少なくないと思います。防犯アナリストの桜井礼子さんによると、子どもを犯罪被害から守るには、まず親の防犯意識を高めることが重要なのだそうです。自身もふたりのお子様を育てた経験を持ち、「防犯ママ」として犯罪被害の防止のために活動する桜井さんに、我が子を守るために親ができることや、子どもへの防犯教育について伺いました。犯罪被害を防ぐため「予知防犯」と「防犯生活」、子どもへの「防犯教育」のポイントなどもご紹介します。
一般社団法人日本防犯学校 副学長、防犯アナリスト、防犯ママ
防犯専門家 日本初女性防犯アナリスト 一般社団法人日本防犯学校副学長。
防犯界の第一人者、予知防犯提唱者、テレビでお馴染み「防犯の梅さん」こと梅本正行氏の一番弟子。梅本氏とともに事件現場の検証と取材に携わる。子育て経験や高齢者の親がいた経験を活かし、子ども・女性・高齢者の防犯対策をはじめ、住宅・地域の防犯対策を分かりやすく解説。『予知防犯』を提唱する活動を展開している。
一般社団法人 日本防犯学校:https://www.j-ss.org/
「防犯ママ」こと防犯アナリストの桜井礼子です。防犯界の第一人者である梅本正行氏に師事し、日本防犯学校の副学長として犯罪被害を防ぐ「予知防犯」を提唱する活動に携わっています。犯罪被害者の多くは、女性や子ども、高齢者といった弱者と呼ばれる方たち。そうした弱い立場のなかでも、とくに子どもが自分自身の身を守るためには、まず親御さんからお子様へ防犯の知識を伝える必要があります。私自身も子育て経験がありますが、現代の日本は子どもにとってよりいっそう警戒が必要な国になってしまいました。では、子どもを守るために親は何をするべきなのか? まずは犯罪被害を防ぐための基本、「予知防犯」と「防犯生活」について解説しましょう。
目次
1.子どもの犯罪被害を防ぐために知っておきたい「予知防犯」と「防犯生活」
2.防犯対策の第一歩は“知ること”から! 防犯意識の高め方とオススメ防犯アプリ
3.防犯ママの桜井礼子さんが教える! 犯罪被害を防ぐ親子間コミュニケーションのポイント
4.親子で学ぶ防犯対策を防犯アナリストが解説 まとめ
子どもの犯罪被害を防ぐために知っておきたい「予知防犯」と「防犯生活」
「予知防犯」とは、犯罪を予知・予測して施す対策のことを言います。実際に起きている犯罪を知り、被害に遭わないためにおこなう対策が予知防犯です。世の中で起こっている事件や犯罪を調べることから、予知防犯は始まります。子どもを犯罪から守るためには、まず親御さんがテレビやインターネットのニュースなどをチェックし、今起こっている事件を知って、防犯意識を高めましょう。
防犯への備えは、①意識 → ②知識 → ③対策という順序でおこないます。犯罪被害の事例を知って防犯意識が高まれば、防止策として何をしたら良いのかを調べるので防犯知識が深まります。そして、防犯知識を実践することで、初めて防犯対策として効果を発揮するのです。
また、普段の暮らしを少し工夫して犯罪被害に遭いにくくする生活を、日本防犯学校では「防犯生活」と呼んでいます。たとえば、秋から冬にかけて日が落ちるのが早くなる時期は、空き巣が活発化する季節です。夫婦共働きで子どもも塾に通っている家庭の場合、夕方ごろからお家が真っ暗になってしまうため、空き巣の格好の餌食になりかねません。そこで、リビングなど通りから見えやすい部屋の明かりを点けておいたり、タイマー付きの照明器具を取り入れて夕方に電気が点くよう設定したり、留守だとわからない工夫をします。すると空き巣からターゲットにされる確率はグッと下がるわけですね。そのほか、施錠の徹底はもちろんのこと、宅配などの訪問者はインターホン越しに対応して簡単に玄関ドアを開けない、犯罪者に個人情報を探らせないよう収集日の朝にゴミを出すなど、ちょっとした行動によって防犯生活ができます。
自宅での防犯生活について詳しく知りたい方はコチラ
子どもがいるご家庭での防犯生活では“子どもの存在を知らせない”ことも重要です。三輪車や子ども用の自転車、小さい子が遊ぶようなおもちゃなどは外から見える場所には置かないようにしましょう。また、子ども部屋のカーテンをキャラクター物にしたり、窓際にぬいぐるみなどを置いたりするのも控えてください。どうしてもかわいらしい色柄のカーテンにしたいときは、外側は無地のドレープカーテンを付けて二重にしましょう。窓にデコレーション用のシールなどを貼るのも避けるのが無難です。子どもを狙う犯罪者は、常にターゲットとなる子どもを探しています。大切なお子様が犯罪者に狙われないよう、外から見える場所に子どもの存在を知らせるものを置かないように気を付けてくださいね。
子どもの防犯の基本は「いかのおすし」
子どもに伝えておくべき防犯対策の基本は「いかのおすし」です。学校でも教えていることですが、ご家庭でもしっかりと確認しておきましょう。
「いかない」について、昔はよく「知らない人にはついて行かない」と言われていましたが、最近では“知っている人”でもついて行かないよう教えています。子どもの犯罪被害は、見ず知らずの人間だけでなく顔見知りによる犯行も多いからです。お家から一歩外に出たら、家族以外にはついて行かないことが被害防止につながります。
「のらない」も同様で、知らない人の車だけでなく、近所の知り合いや友達の親御さんであっても、家族以外の車には乗らないこと。知らない人はもちろん、知っている人にもついて行かず、車に乗らないよう徹底して伝えましょう。また、知り合いのお家の方に「○○ちゃん、車で送ってあげようか」などと声を掛けてもらった場合は、後でお子様と一緒にあいさつへ行くと良いですね。親切心で声を掛けてくれた方に感謝とともに「我が家では家族以外の車に乗らないよう約束しているんです」と伝えておけば、事情を理解してくれるはずですし、気分を害されることもないはず。お子様も自分のために親御さんが頭を下げている姿を見て、自分は愛されていると感じることでしょう
「大声を出す」は「助けて」など具体的な言葉のほか、「ワー!」と叫ぶだけでも効果があります。とっさに大声が出せれば、防犯ブザーが手元にないときでも助けになりますから、大声を出せる場所で練習するのも良いと思います。「すぐに逃げる」は、怖いことがあったときに全力で“大人がいるほう”へ逃げるよう教えましょう。
「しらせる」は、声掛けや付きまといに遭ったり、不審者を見かけたりしたら、親や先生に話すことです。何かあったらその日のうちに話すよう伝えることはもちろん、親御さんも常にお子様の様子を見たり、話し掛けたりしてあげてください。お子様の違和感に気付いたら「今日、何かあったの?」などと声をかけ、お子様が話しやすい状態をつくることが大切です。
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防犯対策の第一歩は“知ること”から! 防犯意識の高め方とオススメ防犯アプリ
子どもを犯罪から守る第一歩として、まずは日本全国や現在住んでいる地域で起こっている犯罪事件とその情報を知りましょう。子どもが被害を受けた件数などのデータは、被害届が出ていないケースもあって正確な数字を把握することは難しいのですが、警視庁や各都道府県の県警本部などのホームページには子どもの安全に関するコンテンツが用意されています。地域に特化した情報もありますので、しっかりと確認しておけば防犯に役立ちますよ。
全国的なニュースを知るにはテレビやインターネットが主な情報源になりますが、地域で起こった事件や不審者情報などは県警や自治体が発信する情報メールなどのサービスに登録するのもオススメです。また、警視庁が運用するアプリ「デジポリス」は都内の犯罪発生状況がわかるほか、防犯ブザー機能や位置情報を利用した通知機能などもあるので東京都にお住まいの方にはぜひ活用していただきたいですね。地域の防犯アプリは東京都以外でも各都道府県にあるので、ご自身の住む土地のアプリを探してみると良いでしょう。そのほか、全国を対象に不審者情報などを配信する「ガッコム 安全ナビ」や「Yahoo防災速報」のアプリなど、防犯に役立つさまざまなサービスがあるので、上手に活用して情報を得て防犯意識を高めてくださいね。
実際に子どもが被害者となった犯罪事件を知るのは、同じ子を持つ親として非常につらいものです。しかし、知らないままでは我が子を犯罪から守る知識を身に付けることはできません。しっかりとアンテナを張って防犯意識・防犯知識を高めていきましょう。
近年起こった子どもが被害者となった犯罪事件では、犯人が小学生の女の子を付け回して自宅を特定し、夜中に再び訪れて侵入、眠っている子どもにわいせつ行為をおこない逮捕された事例がありました。この犯人は、被害者宅のドア・窓を確認後、無施錠の場所から侵入しており、「すべての鍵がかかっている家は諦めた」と供述しています。また、別の事件では、犯人が10代の少女を付け回し、少女が“帰宅時に黙って家に入る = 鍵っ子”と確認した後、宅配業者などを装って押し入り、犯行に及んだケースもあります。
さまざまな事例を知ることで、2階以上の窓なども含めて施錠を徹底したり、お家に誰もいなくても子どもに「ただいま」を言うよう習慣付けたり、普段の生活でも防犯を意識するようになるでしょう。犯罪事件から学んで防犯対策をとることも、防犯生活の一環です。まずは親御さんが情報を知るためのアンテナを張り、お子様にも共有してください。子どものための防犯対策は、親子で一緒に考えることがとても大切です。
防犯について子どもと話し合うときのポイント
犯罪事件について話し合うときは、常にお子様の意見を聞く形で対話しましょう。「お家に誰もいなくても、必ずただいまを言いなさい」と一方的に指示するのではなく、まず犯罪事件の内容を伝え、「こんなときはどうしたら良いと思う?」などと投げかけ、子ども自身が犯罪についてどうしたら防げるのかで考えるよう促します。もしお子様の答えが間違っていても「なるほど、そう思ったんだね。ママはこうするともっと良いと思うんだけど……」と、意見を尊重しながらアドバイスするのがポイントです。子どもは、親から一方的に「◯◯しなさい」「●●はしちゃダメ」と言われても忘れてしまいがち。しかし、自分で考えて出した答えは記憶に残り、普段の行動にも反映されやすくなります。日常的に親子でニュースや地域の情報を見て、不審者への対策など防犯についての会話を習慣付け、防犯意識を高めていきましょう。
子どもが被害に遭った犯罪事件のニュースは、大人でも目を背けたくなりますし、子どもにとっても恐ろしいものです。事件の話をして子どもを怖がらせたくない、と思う親御さんも少なくないでしょう。しかし、恐怖心は防犯において非常に大切な要素で、怖がりな方ほど防犯意識を高く持てるんですね。お子様を過度に怖がらせる必要はありませんが、「怖い」と思う気持ちは自分自身を守る対策につながりますから、話すことをためらわないでくださいね。
防犯の話をしたいのに、子どもが興味を持ってくれない……そんなケースもあるかと思います。たとえばYouTubeが好きなお子様なら、防犯に関する動画やニュース動画を「これ、一緒に見ない?」と促してみるのも興味を持つきっかけになるかもしれません。一緒にニュースを見る、防犯の話をすることが習慣になるまでは、話すタイミングを見計らうのも大切ですね。
防犯意識を高めるには防犯パトロールへの参加もオススメ
地域の人々との連携も、子どもを守るためには必要なことです。まずは自分が防犯意識を高め、お子様の同級生の親御さんなど、周囲の保護者とも互いに知り得た情報を共有しましょう。とくに地域内で起こった犯罪事件や不審者の情報などは早めに知らせておくと良いですね。
もうひとつ提案したいのは、地域の防犯パトロールへの参加です。現在、防犯パトロール自体は盛んにおこなわれているものの、参加者のほとんどが高齢者という現状で、若い世代の参加が望まれています。子育て世代は共働き家庭が多く、仕事のない休日も家事に追われているという方は少なくないでしょう。しかし、防犯パトロールは自分が住む地域の危険な場所や、最近起こっている犯罪などの現状を把握できるので、防犯対策をするうえで重宝するんですね。高齢の方が多く参加していますから、地域を昔からよく知る方とも交流できる貴重な機会でもあります。近隣の方々との連携を深めることは、我が子を犯罪から守ることにもつながるでしょう。
以前、私の講演に参加された保護者の方から、「防犯パトロールに参加した」という報告をいただいたことがありました。パパと小学生のお子様ふたりで防犯パトロールに参加し、後お家に帰ってから危ない場所や気を付けるポイントについて、毎回話し合うようになったそうです。このように、防犯パトロールがお子様の防犯意識を高めるきっかけになることもありますから、忙しい方は月に1回からでも良いので参加していただきたいと思います。これは防犯ママからのお願いでもあります。
防犯ママの桜井礼子さんが教える! 犯罪被害を防ぐ親子間コミュニケーションのポイント
ここまで、子どもを犯罪事件者から守るためには、まず親が情報収集して防犯意識を高め、普段から防犯について親子で話し合うことが重要だとお伝えしました。加えて、親御さんに伝えたいのは、親子で“何でも話せる関係性”を構築することの大切さです。前述した子どもの防犯「いかのおすし」のなかには、大人に「しらせる」という項目がありますよね。公園の近くで怪しい車を見かけた、知らない人に声を掛けられた、スマホのカメラを向けられたなど、犯罪被害につながりかねない出来事は、子どもから話してもらって把握する必要があります。しかし、普段からしっかりお子様と話す時間をとっていないと、お子様自身も話さなくなる可能性がありますから、どんなに忙しいときでも対話を心掛けてほしいと思います。
“何でも話せる関係性”とは、テストの点数が悪かった、先生に叱られた、友達とケンカしたなど、子どもが隠したいと思うようなことも親にだけは話せる、そんな関係です。性被害に遭った事件のなかには、被害児童が親御さんに言えなかったケースも少なくありません。こうした事例では子どもたちの多くは「お母さん、お父さんを悲しませたくなくて」や「言いつけを守らなくて被害に遭ったから、怒られると思って言えなかった」と話しているんです。万が一のことが起きたときのお子様のケアのためにも、普段からマイナスなことも共有して、受け止めてあげるようにしてくださいね。
仕事と家事に忙しくて、子どもと話す時間がなかなかとれない……そう思われる親御さんもいらっしゃるでしょう。でも、いつも面と向かってしっかり話し合わなくても大丈夫です。たとえば、家事をしている最中にお子様が話し掛けてきたら、作業をしながらで良いので聞いてあげるようにしましょう。私が子育てをしていたころも、仕事から帰って夕飯の支度をしているとき、よく子どもたちが寄って来ましたが「後でね」とは言わずにその場で話を聞くようにしていました。食事中でもお風呂に入りながらでも、お子様が寝付く前でも、少しの間でも話すタイミングはつくれますから、できる限り対話をしていただきたいです。失敗や嫌なことなどは、すぐに口に出せない場合もあるでしょう。元気がなかったり様子が変だったりしたら、まずは「何かあった?」と声を掛けて、本人が言えるようになるまで待ってあげるのも良いですね。こうしたコミュニケーションを重ねると、中高生になってからも比較的いろいろな話ができる関係性でいられるようになると思います。
親子の対話を重ねるには家族の時間をつくることも大切ですが、実はお家の間取りも密接に関わってきます。私が推奨するのは、玄関から子ども部屋に行くときに必ずリビングを通る間取りです。リビングを必ず通るお家なら、登校時も帰宅時にも、家族と顔を合わせますよね。自分の部屋を持つような年齢になっても自然と会話ができますし、お子様の変化にも気付きやすい環境なんです。毎日「おはよう」「ただいま」とあいさつを交わして、コミュニケーションを取り合えるので、これからお家を建てる予定のある方は参考にしてくださいね。
親子で学ぶ防犯対策を防犯アナリストが解説 まとめ
子どもを犯罪事件から守るために親ができることや、防犯情報を収集する防犯アプリ、親子で防犯意識を高める考え方「予知防犯」と「防犯生活」についてお話ししました。残念なことに、子どもが被害に遭ってしまう卑劣な事件は後を絶ちません。まず親御さんが防犯意識を高めて、大切なお子様を守るための防犯知識を学び、防犯対策を実践していただきたいと思います。保護者同士で協力し合い、防犯パトロールに参加するなど地域と連携できるとさらに良いですね。お子様自身が自らを守る行動がとれるよう、日々親子で防犯について話すことも忘れずに、家族一丸となって防犯に取り組みましょう。
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