マイホームは人生で一度きりと言われるほど非常に高額な買い物です。20年30年……と長い年月をかけて住宅ローンを返済していくのなら、少しでもお得なタイミングを狙いたいですよね。しかし、いつが良いタイミングなのか? 判断に迷うのが正直なところではないでしょうか。そこで、住宅購入のタイミングや令和4年(2022年)は買い時なのかの見解をファイナンシャルプランナーの豊田眞弓さんに伺いました。
ファイナンシャルプランナー・住宅ローンアドバイザー・相続診断士
マネー誌ライターを経て、1994年よりFPとして活動。相談業務や講演、マネーコラム監修・執筆などで活動。「人生の3.5大支出」(教育・住宅・老後+介護)に備え、ハッピーで持続可能な家計の実現を提唱している。大学・短大で非常勤講師を務めるほか、「子どもマネー総合研究会」会長、「親の介護・相続と自分の老後に備える.com」の運営管理を行っている。座右の銘は「今日も未来もハッピーに!」。趣味は投資、講談。
ホームページ:FPラウンジ|家計相談、老後資金相続相談
ファイナンシャルプランナーの豊田眞弓です。住宅を購入するタイミングの判断材料は、「社会情勢」と「家計の状況」というふたつの柱があると考えています。社会情勢によって景気が左右されれば、住宅ローン金利や国の制度などが変わります。また、結婚や出産といったライフイベントや教育資金の準備などで家計の状況が変わるので、個人によっても購入のタイミングが変わってくるでしょう。このふたつの柱に着目しながら、住宅購入のタイミングについて解説していきます。
ベストな住宅購入のタイミングは? 低金利&住宅ローン減税の時期がチャンス!
社会情勢から見ると、住宅を購入するベストタイミングは「金利が低いとき」ではないかと思います。たとえば2021年11月のフラット35の金利は1.33%(融資率9割以下、団信※付き)ですが、私が住宅ローンを組んだ1994年当時の金利は4.2%(機構団信特約料含まず)でしたから、断然2021年のほうがお得です。
※団信(団体信用生命):住宅ローン返済中に死亡や高度障害になったときなどに保険金で住宅ローンが完済される保険のこと
時期 | 住宅ローンの種類 | 金利 | 月返済額 | 総返済額 |
---|---|---|---|---|
1994年 | 住宅金融公庫ローン(団信含まず) | 4.2% | 136,455円 | 約5,731万円 |
2021年11月 | フラット35(団信分▲0.2%) | 1.13% | 86,515円 | 約3,634万円 |
条件:3,000万円を35年、ボーナス払いなし、元利均等返済、融資9割以下で借りた場合
注意点:現在のフラット35は団信込みの金利、2017年までは別払い。2021年の金利1.33%から団信分の0.2%を引いた1.13%で試算
試算:住宅金融支援機構「返済プラン比較シミュレーション」
上の表は、3,000万円を35年、ボーナス払いなし、元利均等返済で借りた場合の、月返済額や総返済額を比較したものです(団信分を差し引き、金利優遇などを考慮せずに比較しています)。1994年と2021年を比較すると、総返済額はなんと2,097万円も違います。同じ金額を借りても、金利によって返済額がこんなにも違ってくるんですね。
一方で、物件価格が上昇してきたことから金利が下がった分はほとんど相殺されている印象もあります。しかし、コロナ禍の影響などで住宅ローン減税や給付金の期間が延長され、省エネを推進するために「グリーン住宅ポイント制度」(2021年12月15日でポイント発行申請の受付終了)が新設されるなど、制度が手厚かった2021年は絶好の買い時だったと言えるでしょう。
では、2022年はどうなのでしょうか?
●住宅ローン減税
この記事がまとめられている2021年12月時点では、2022年度の税制改正〔自民党サイト「令和4年度税制改正大綱」(2021年12月10日発表)〕により、2021年末までだった住宅ローン控除は2025年末まで延長され、対象者の所得上限が3,000万円から2,000万円へと引き下げられる見込みです。
2022~2023年の入居分では、控除期間は新築で13年、中古で10年、控除率はこれまで1%だったものが0.7%へと縮小。さらに控除対象となる年末の住宅ローン残高の上限額は、物件の環境性能に応じて変わることが打ち出されています。
居住開始年月 | 新築・中古 | 種類 | 年末残高限度額** | 控除期間 | 控除率 | 住民税からの控除上限額* |
---|---|---|---|---|---|---|
2022~2023年 | 新築 | 認定住宅 | 5000万円 | 13年間 | 0.7% | 97,499円/年 |
ゼロ・エネルギーハウス(ZEH) | 4500万円 | |||||
省エネ基準適合住宅 | 4000万円 | |||||
一般住宅 | 3000万円 | |||||
中古 | 認定住宅・ZEH・省エネ基準適合住宅 | 3000万円 | 10年間 | |||
一般住宅 | 2000万円 |
*所得税で控除しきれなかった場合
**2024~2025年は年末残高限度額が縮小し、一般住宅は控除期間も10年の予定
(税制改正大綱を参照し豊田眞弓が作成)
●住宅取得等資金の贈与の非課税措置
親や祖父母などの直系尊属からの住宅取得等資金の贈与の非課税措置も、2年延長となり、2023年末までとなる見込みです。贈与を受ける対象も、20歳から18歳に引き下げられます。
贈与税は個人から財産を受け取るときにかかる税金ですが、子や孫への住宅取得のための贈与は、一定の耐震性能、省エネ性能またはバリアフリー性能などを有する住宅で最大1,000万円、その他の一般住宅で500万円まで、税金がかからずに資金援助を受けることができます。贈与税の基礎控除が110万円なので、最大1,110万円までは税金がかからずに贈与を受けることができるわけです。
2022年は住宅の買い時か否か?
残念ながら、2022年以降は住宅ローン控除も直系尊属からの住宅取得等資金の贈与の非課税措置も縮小傾向にあります。しかし、短期で比較すると縮小という印象はありますが、まだまだ制度は有効ということは覚えておきましょう。
住宅の買い時を、家計以外の視点から判断するときのポイントは、「減税や給付金」と「低金利」です。減税や給付金などは景気や経済、社会情勢に応じて毎年変わっていく可能性があるので要チェックです。税制については、国が税収を上げなくてはいけないことから、今後縮小に向かう可能性があると考えられます。
一方で金利に関しても、そろそろ動きがあるかもしれません。日銀はデフレを避けて物価上昇2%を実現するため、長期にわたって「短期金利マイナス0.1%、長期金利ゼロ%」という異次元の金融緩和を続けており、そのおかげで超低金利になっています。同じように金融緩和を行っていたアメリカなど諸外国では、原油高やコロナ禍の影響でインフレが起きていることから、金融緩和をやめて金利を引上げることを打ち出しています。イギリスはすでに12月に利上げを行いました。
日本でも物価上昇の兆しがあり、今後物価上昇率が2%を超えれば、日銀が利上げに動く可能性はあります。令和4年(2022年)も買い時となるかどうかは、今後の金利動向次第と言えそうです。
固定金利と変動金利はどちらがお得? 住宅ローンの種類と選び方
住宅ローンを組むときに迷うのが金利タイプです。金利タイプは3種類あって、相談者からは必ずと言っていいほど、どのタイプが良いのか聞かれますね。個人のライフスタイルや考え方によって適したタイプは変わってきますが、金利が上がる可能性があると考えるなら固定金利、今後も変わらないと考えるなら変動金利を選ぶ、というのが基本となります。金利がどうなるか予測しにくい場合は、途中で返済額が変わって困るなら固定金利、金利が上がって返済額が変わってもリスクが取れるという方は変動金利、と考えていくといいでしょう。
金利タイプのメリット・デメリット
金利タイプ | メリット | デメリット |
---|---|---|
全期間固定金利型 | ・返済金額が一定なので、返済計画が立てやすい ・低金利の時期に契約するとずっとお得 |
・変動金利型に比べて金利が高めに設定されている |
固定金利期間選択型 | ・固定金利期間中は返済金額が変わらない | ・固定金利期間が終わったら、その時点の金利が適用されるので総返済額が変わっていく |
変動金利型 | ・金利が下がると総返済額が減る ・金利が大きく上昇しても返済額は5年間変わらないので、すぐに家計への影響がない |
・金利の変動があるので総返済額がわからない ・金利が上昇した場合、返済額が5年間変わらないことから、元金があまり減らないことも ・金利が急上昇すると、毎月の返済額で利息が払いきれない「未払い利息」が発生する可能性も(利息が返済額を上回る) |
●全期間固定金利型の概要
借入期間中、完済までずっと金利が変わらないタイプ
●固定金利期間選択型の概要
最初の契約時に2年、3年、5年、10年、20年など期間を選んで、その期間の金利が変わらないタイプ
●変動金利型の概要
経済情勢などによって半年ごとに金利が見直されるタイプ。毎回の返済額も、元利均等返済※1の場合は5年ごとに、元金均等返済※2の場合は金利変動とともに見直される
※1元利均等返済:毎月の返済額が一定となる返済方法
※2元金均等返済:毎月の返済額のうち、元金が一定となる返済方法
全期間固定金利型は、ほかのタイプに比べて金利が高めではあるものの、完済までずっと金利が変わらないので家計を安定させたい方に向きます。最近は団信や団信の特約が無料で付いてくるものもあるので、住宅ローンを選ぶ際の判断材料のひとつにすると良いでしょう。また、同じ全期間固定金利型でも銀行のものと、住宅金融支援機構と銀行が連携したフラット35があります。フラット35は、銀行ローンより金利が高めで団信への加入は任意ですが、雇用形態・勤続年数に関わらず利用することができます。
住宅ローンの繰り上げ返済の種類とメリット・デメリット
住宅ローンは“借り方”に目が行きがちですが、“返し方”も重要です。余裕があるなら、月々の返済とは別に借入金の一部または全額を返済する「繰り上げ返済」を考えても良いでしょう。メリットは、元金部分を返済することで支払う予定だった利息が減って、総支払額が少なくなること。デメリットは貯蓄が減ることです。教育資金や生活予備費などを返済に回して生活が苦しくなっては元も子もないので、貯蓄を削るような返済はしないでおきましょう。また、返済期間が短くなることで団信の適用期間や保障額が減るので注意が必要です。
繰り上げ返済のタイプは、返済期間が短くなる「期間短縮型」と、期間はそのままで月々の返済額を減らす「返済額軽減型」があります。通常の繰り上げ返済は「期間短縮型」を指し、短縮した期間の利息を支払わずに済むわけです。
利息軽減効果は「期間短縮型」より劣りますが、月々の家計負担を軽くしたいなら「返済額軽減型」を選ぶと良いでしょう。繰り上げ返済をするためには、生活予備費やライフイベントなど目的別の貯蓄と家計全般の運営が大切です。それができている状態で、もし住宅ローン控除率が借り入れ金利を下回ったら、繰り上げ返済もありだと思いますよ。
頭金はいくら必要? マイホームを買うときに知っておきたいこと
住宅ローンを組むときに、頭金を入れるか、全額ローンを組むのかも重要なポイントです。理想は物件(総予算)の10~20%と、さらに5〜7%の諸費用分が手元にあること。もし頭金なしでローンを組むと、住宅を売却する場合に担保割れを起こして債務が残る可能性もあります。
とは言え、貯蓄には時間がかかりますし、貯めている間に金利が上昇するかもしれません。すでに安定した収入がある場合、頭金が十分に貯まりきる前であっても、低金利のうちに購入してしまうのもひとつの手段だと覚えておきましょう。
贈与はしっかり申告! 親から資金援助してもらうときの注意点
頭金を用意するのが難しい場合、経済的にゆとりがある親なら、資金援助をしてくれるかもしれません。110万円超の資金援助を受ける際には贈与税がかかりますが、前述のように直系尊属からの住宅取得等資金の贈与の非課税措置により、さらに最大1,000万円まで税金がかからずに資金援助を受けることができます。また、資金援助を受けた年は、確定申告を忘れないことも大切です。そして、何より大切なのは援助してくれた親への感謝。しっかり親孝行しましょう。
社会情勢と人生設計から考える住宅購入のタイミング まとめ
減税や給付金などが手厚めで金利も低い2021年のようなタイミングは、住宅の絶好の買い時と言えます。これに、頭金のめどがたつなど家計の準備が整っていれば申し分ありません。しかし実は、もうひとつのポイントがあります。それは、物件との出会いです。いずれはマイホームをと考えるなら、どこの町でどんな家に住みたいか、町を歩いたり、土地や間取り、建物の情報をチェックしたりするなども並行して始めておくのがオススメですね。金利動向などをチェックしつつ、金融機関やファイナンシャルプランナーなどの専門家の意見も参考にしながらマイホーム計画を立てるようにすると良いでしょう。
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