旅を通じて、子どもの成長を促す「旅育」。雑誌やWEBサイト、SNSなどでこの言葉を見かける機会が増えたように思います。コロナ禍が落ち着き始めた今、旅をするには良いタイミングだと言えますが、どのようなことを意識すれば旅育となるのでしょうか? 旅行ジャーナリストで旅育コンサルタントの村田和子さんに詳しく伺いました。
旅行ジャーナリスト・旅育コンサルタント
トラベルナレッジ代表
「旅行者・地域・社会が旅を通じて元気になる」をモットーに、人生や日常を豊かにする旅の提案を行う。「家族旅行・旅育」「ヘルスツーリズム」「記念日旅行」「クルーズ」などをテーマに、雑誌やwebへの寄稿、テレビ・ラジオへ出演。
旅育メソッド🄬を提唱し、著書に「家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ~旅育BOOK(日本実業出版社 )」。旅育をコンセプトとしたイベント監修や講演も行う。
公式ブログ:https://www.murata-kazuko.com/
家族deたびいく:http://tabi-iku.jp/
旅行ジャーナリストの村田和子です。コロナ禍によって2年間もの間、旅がしにくい状況でしたが、ようやく落ち着きを取り戻しつつあります。「家族旅行がしたい」「子どもに新たな経験をしてもらいたい」と思っている方も少なくないでしょう。今回は、今の時期に旅をする意義と私が提唱する5つの旅育メソッド🄬についてお話します。ちょっとしたことで、いつもの旅がお子様の成長につながりますので、できるところから意識してみてくださいね。
今こそ旅育を実践! 提唱者・村田和子さんに聞くその理由とは?
「旅育」の目的は、旅を通じて子どもの“生きる力”を育むことです。では、これからの変化していく未来を生きるには、どんな力が必要なのでしょうか? 私が旅育において定義したのは「自己肯定力」「コミュニケーション力」「知恵を育む力」の3つです。この3つの力が実体験を通して育まれることで、子どもたちが将来に向かって自分らしく進んでいけると考えています。
コロナ禍で失われたものをプラスに!
コロナ禍の2年間、多くの子どもたちは学校に登校できず、外出の機会は減り、修学旅行などの行事も軒並み中止……たくさんの経験をして成長する時期に、その機会を失ったのはとても残念なことです。しかし、過去は変えられなくても未来は変えられます。社会との接点が希薄だったコロナ禍を経て日常を取り戻しつつある今こそ、旅行での体験を成長の糧にしてほしいと思うのです。旅先での非日常体験や新しい出会いは、子どもの興味関心を育み、才能を開花させる貴重な機会になります。たくさんの世界と触れ合うことで、子どもの未来への選択肢も増えます。親御さんのちょっとした心がけで、いつもの旅も学びの旅へと厚みが増すので、できることから挑戦してみてくださいね。
今のタイミングで旅に行くのは不安……と考える方もいらっしゃるかもしれません。ですが、観光業界では安全安心にお客様をお迎えできるよう、感染対策が実施されてきました。2020年に実施されたGoToキャンペーンでは、旅館やホテルは専門家を交えて定められた感染対策ガイドラインの徹底が参加条件となっており、急速に対策が進みました。時を経て、ワクチン接種が進み感染状況も落ち着くなか、徐々に対策を緩和する動きも出てきています。宿のHPには感染対策の指針なども明記してありますが、不安なことがあれば電話などで確認し、納得のできる旅館やホテルを選ぶようにするのが良いでしょう。
交通機関も各社さまざまな対策をしています。密閉されていると思われがちな飛行機は2〜3分に一度、新幹線は6〜8分に一度は外気と入れ替わり、バスなども換気機能が強化されています。さらに近場や日帰りの“おでかけ”でも旅育を実践することは可能です。自分たちが安心できるプランや旅のスタイルを子どもと一緒に考えることは、今しかできない旅育とも言えるでしょう。旅は楽しいのが前提ですから、気持ちに無理のない、安心できるかたちで実践していただければと思います。
旅育のポイントは子どもと“旅仲間”になること
旅育を意識するほど、親御さんは子どもに学ばせよう、教えてあげようと思いがち。しかし旅育で大切なことは“親も一緒に楽しんで学ぶ”“子どものすることを見守る”という意識です。子どもは親をよく見ているもので、親御さんが率先して学び楽しむ姿が、我が子をやる気にさせる一番のポイントなのです。
そしてもうひとつ大切なのは、お子様を子ども扱いしないこと。旅の最中、子どもに何かを任せるときには「○○させる」ではなく「○○してもらう」「○○をお願いする」という気持ちで、“旅仲間”と考えて接しましょう。子ども扱いしないことで責任感や自立心が育ち、より多くの学びを得て成長できる機会になります。そのうえで、旅を通して“生きる力”を成長させられるコツをまとめた「5つの旅育メソッド🄬」を実践するようにしましょう。
旅育メソッド①旅の計画や準備は子どもと一緒に
旅育でとても重要なのが“旅前”、旅の計画や準備の段階です。親御さんが全部決めるのではなく、お子様を上手に旅の計画に巻き込むことで、子どもの旅で楽しんだり学んだりのモチベーションが高まります。旅の計画は、行き先や移動手段、観光スポットや泊まる場所など、さまざまな旅のパーツがあり、検討・選択・決断の連続。手軽なパック旅行でも複数のプランを比較することが必要です。これらを子どもの年齢に合わせて一緒におこなうことで、考える力や自分の思いを伝える力が養われるわけです。試行錯誤した旅を実際に追体験することで、子どもなりに「もっとこうすれば良かった」「これは正解だった」などの気付きも生まれるはずです。
たとえばwithコロナ時代に突入した今、安心して旅行を楽しむためには、なにが必要でどんな行動をしたら良いのか? を親子で一緒に考えることも旅育になります。最近ではマスクの着用義務についても議論がなされていますが、これは正解というのがありません。屋外で人との距離が取れる場所では外しても良いという考え方もありますし、星野リゾートでは敷地内の屋外では着用を求めないことが発表されました。旅先の自治体や施設がどのような対応やお願いをしているのか調べながら、マスク着用について親子で話し合ってみるのも良いかもしれませんね。正解のないことを自ら考えて決定し実行する経験は、将来の選択や決断の場面でもきっと役に立つでしょう。
お子様、あるいは親御さんが旅に対して不安があるのなら、「何が不安なのか」を言語化して話し合い、リスク回避のために何をするべきかを一緒に考えることも、子どもにとって貴重な成長機会になると思います。先々の旅の計画をするのも、目標ができて楽しいものです。じっくり考え計画した旅を将来実行し、楽しい思い出をつくることができれば、大きな成功体験にもなることでしょう。
withコロナ時代のオススメ旅育プラン・サイクリング旅
最近では感染リスクが少なく、自然とも触れ合えるアウトドア系のアクティビティに注目が集まっています。野外活動を中心とした旅をしたいのであれば、サイクリング旅を検討するのも良いでしょう。子ども用のレンタサイクルも充実していますし、地図を見てルートを考え、予定のスポットへたどり着くことができれば達成感もあるので、旅育にピッタリです。いくつかオススメスポットをご紹介しますので、近場なら日帰り、遠方なら旅行プランのひとつに組み込むといったようにご活用いただければと思います。
●土浦(茨城県)
筑波山や霞ヶ浦を巡るサイクリングコース「つくば霞ヶ浦りんりんロード」は、自然も歴史的建造物も楽しめるスポットです。駅直結のサイクリング拠点「りんりんスクエア土浦」でレンタサイクルが利用できますよ。
りんりんスクエア土浦のHPはコチラ
●飯山(長野県)
歴史ある寺社や悠々と流れる千曲川を眺めてサイクリングを楽しめるのが長野県の飯山。駅構内にある「信越自然郷アクティビティセンター」でレンタサイクルが利用できます。
信越自然郷アクティビティセンターのHPはコチラ
●琵琶湖(滋賀県)
琵琶湖を自転車で一周することに「ビワイチ」という通称があるほど人気なサイクリングスポット。一周約200キロを制覇するのは難しいですが、湖岸道路をゆったり走るだけでも良い刺激になります。道に高低差が少なく、景色も良いですね。
びわ湖大津トラベルガイド「レンタサイクル施設のご案内」はコチラ
●しまなみ海道(広島県・愛媛県)
日本初の海峡を横断できるサイクリングコースとなった「しまなみ海道」は、安全標識やサイクリング施設も充実しているので初心者にもオススメ。海風を肌で感じながら絶景を楽しむことができます。
しまなみレンタサイクルのHPはコチラ
旅育メソッド②役割や目標を設定、褒めて成功体験に
旅は子どもの自己肯定力を育むための良い機会になります。自己肯定力とは“自分は大丈夫”と信じられる力であり、“できた”という成功体験によって養われるもの。そして、お子様にとっての成功体験は親御さんが認めてくれた、褒めてくれたことが重要になります。日常生活でひとつひとつの行動を褒めるのは難しいですが、旅では役割や目標を設定することで普段よりも褒めやすくなり、成功体験を重ねることができるのです。
我が家の家族旅行では、電車の乗り換えを調べて案内する「案内係」やお土産の予算管理をする「会計係」などの役割を息子にお願いしていました。褒めるポイントの多さでいうとキャンプやBBQなどのアウトドア系もオススメです。テントの設置スペース探しやテント張り、焚き火用の小枝集めに野菜の処理など……子どもの年齢に応じた役割をお願いしやすく、ひとつひとつの作業に達成感があるところも良いですね。
お願いした役割を果たせたときや目標を達成できたときは、どんどん褒めていただきたいのですが、褒め方にもコツがあります。子どもに対しては「よくできたね」「すごいね」という褒め方をしがちですが、そこに「ありがとう」も加えてみてください。大人目線で褒めるだけでなく、旅仲間として力になってくれた感謝を伝えることが、子どものさらなる成長につながることでしょう。
旅育メソッド③旅先では家族各々で過ごす時間をつくる
旅という非日常のなかで、親と離れて初対面の人と過ごす時間は子どもにとって大きなチャレンジであり、多様な価値観に触れるチャンスでもあります。さらに「ママ、パパと離れてひとりで頑張った」ということ自体が大きな成功体験にもなるわけです。親御さんにとっては心身のリフレッシュ時間になりますし、旅の後、それぞれがどう過ごしたのかを語り合うこともできるでしょう。離れて過ごすことがむしろ家族の絆を深めることにもなるんですよ。
家族各々で過ごす時間をつくるには、子どもひとりで参加できる体験プログラムなどを活用しましょう。私がオススメするのは長野県軽井沢で自然体験ツアーを実施しているピッキオの「こども冒険クラブ」です。デイキャンプや森の散策など、さまざまな野外活動をおこなう内容で、自然に親しみながら仲間との共同作業を通じて、子どもたちが成長できる体験になっています。東京都・兵庫県・福岡県(2022年7月31日開業予定)にあるキッザニアもオススメスポットのひとつ。さまざまな職業・社会体験ができることはもちろん、2021年12月には新しく「キッザニアSDGsセンター」がオープンしたので、地球が抱える課題についても学ぶことができますよ。
旅先で参加できる体験プログラムがない場合は、安全や万一の連絡手段を確保したうえで、博物館などで時間や集合場所を決めて別行動するのも良いでしょう。施設内のひとり行動でも、時間を意識して行動する、館内図を見ながらまわるなどをすれば、子どもの経験値アップにつながります。年齢に応じて無理のない範囲で、しっかりお子様のやる気モードを引き出して実践してみてください。
旅育メソッド④本物に多く触れ関心の芽を育む
日常では出会えないような自然、歴史、文化の“本物”に触れられるのが旅のメリットです。旅育ではぜひ、お子様が本物に触れる機会をたくさんつくっていただきたいと思います。自然に触れる旅のプランなら、農業体験やキャンプなどもオススメですね。親御さんにアウトドアスキルがないと、キャンプは敬遠しがちかもしれません。そのときはグランピング施設を活用しましょう。グランピングはコロナ禍の影響もあって、全国で急増。環境が整っていることに加えてサポートスタッフもいるので、アウトドアスキルがなくても安心して楽しめますよ。
そのほか、私のオススメスポットもいくつかご紹介します。
●瀬戸内国際芸術祭2022(岡山県・香川県)
3年に一度開催される、現代アートの一大イベントです。現代アートは体感型のものが多く、小さなお子様でも楽しめることでしょう。開催期間以外にも屋外作品は自由に見られますよ。
●大塚国際美術館(徳島県)
世界の名画を陶板で、原寸大に再現した美術館です。未就学児を含めたすべての年代の子ども、そして大人も世界一周名画の旅が楽しめます。館内がとても広いので、小学校中学年くらいからはお子様主導で地図を見ながらナビゲートしてもらい巡るのも良いでしょう。
●星野リゾート リゾナーレ那須(栃木県)
都会の喧騒を離れ、その土地の自然や農体験を楽しむ観光のかたち「アグリツーリズモリゾート」を掲げた宿泊施設です。毎朝実施されるファーマーズレッスン(無料)は、畑とグリーンハウスで行われる農作業の体験。子ども用の長靴なども用意があり、春から夏・秋にかけてはお野菜の収穫なども。田植えや収穫の体験ができる「お米の学校」や石窯ピッツァづくり、森のトレジャーハント(無料)など、アクティビティが充実しています。
●天草イルカウォッチング(熊本県)
約300頭ものイルカが生息する天草の海で、船に乗ってイルカウォッチングができる体験プログラムです。手の届きそうな距離で生き生きと泳ぐイルカの姿は、きっと一生の思い出になるはず。
●ハワイアンズグランピング「マウナヴィレッジ」(福島県)
2021年夏にオープンした、スパリゾートハワイアンズのグランピング施設です。テントとキャビンの2タイプがあり、すべてにカナダ製のグリルや水道を備えたデッキが併設され、夜は福島牛などグルメなBBQを堪能できます。2022年7月にはエリアが拡張され、全長約30メートルのグラススライダーやキャンプファイヤーなども楽しめそう。
旅育メソッド⑤思い出を「かたち」にして記憶に残す
旅の記録も、旅育の大切な要素のひとつ。人間の脳は、必要ないと判断した情報を3日間で80%忘れてしまうというデータもあるので、旅の思い出や学んだことを記憶に残すためには、「かたち」にして日常で繰り返し思い出すことが重要です。旅先で撮った写真をプリントしてアルバムをつくったり、絵日記にしたりと方法はさまざま。施設のチケットやパンフレット、使用した地図や列車の乗車記念証などをファイリングするのもオススメです。旅の内容や気持ちを振り返りながら作業することで、楽しみながら記憶に残せますよ。
旅の記録を残すのは“頑張った自分”を可視化する意味もあります。たとえばキャンプなら、テントや料理が完成したシーンだけでなく、子どもが頑張っている姿、テント設置に四苦八苦している姿や調理中の様子なども写真に撮っておきましょう。そうすると、お子様が後で写真を見返したときに「あのとき自分は頑張った」とより強く感じらます。旅の努力や成功体験を、目に見えるかたちで触れられるようにしておくことで、頑張った自分の感覚を継続させ、自己肯定力を高めることにもつながります。
旅の後は、まとめる作業をする時間がないことも……。そのようなときには無理をせず、旅行中にかたちを残せるようにするのもひとつの手段です。伝統工芸の体験などは製作物を持ち帰ることができ、それ自体が旅の思い出の可視化になります。陶芸などは焼き上がってから作品が送られてくるので、届いたタイミングで旅を振り返る機会にもなります。我が家で実践していたのは旅先からハガキを送ること。家族全員で一言ずつしたためたり、絵を描いたりスタンプを押したり……ハガキにはその土地の消印が押されるので、旅の記録にピッタリです。ハガキを投函するために、慣れない土地でポストを探すのも良い思い出になりますよ。
WEBサービスでは『みてね』がオススメ。写真や動画をアップロードして、子どもの成長記録を家族で共有できるサービスです。自動で写真を整理したアルバムやムービーなどを作成する機能があるので楽しみ方もさまざま。離れて暮らす祖父母もリアルタイムで写真などを確認できるほか、コメント機能で交流もできます。楽しかった思い出にコメントをもらって、自分の感想も伝えるなど、新しいコミュニケーションにもなるツールですね。
子どもの心と脳を育てる5つのメソッド&今こそ旅をしたい理由 まとめ
今回ご紹介した旅育メソッド🄬は、学びを深めるコミュニケーションのヒントです。子どもはひとりひとりに個性があり、それぞれに合う旅育があります。メソッドも役立てながら、「我が家オリジナルの旅育スタイル」を見付けていただけたらと思います。そして何より家族みんなで旅を楽しみ、親御さんにとってもお子様にとっても、宝物のような思い出をたくさんつくってくださいね。
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