新型コロナウイルスの感染拡大によって、私たちの暮らしは変化しています。大人だけでなく子どもも以前とは違う生活を強いられることになりました。そのような状況のなかで、心配になるのが子どものストレス。では、親はどのように対応してあげれば良いのでしょうか? クライシス(自殺、惨事)への対応カウンセリングや“うつ”からの回復支援カウンセリングもおこなっている、元自衛隊メンタル教官でメンタル・レスキュー協会理事長の下園壮太さんに子どものストレスケア法について伺いました。
NPOメンタル・レスキュー協会理事長
陸上自衛隊で指揮官・幕僚を経験後、初の心理幹部として多数のカウンセリングを経験。その後、各級指揮官に対するコーチングをしつつ、衛生科隊員やレンジャー隊員等に、メンタルヘルス、カウンセリング、コンバットストレス対策等を教育。現在は、個人でメンタルコーチを提供しながら、NPOを通じてクライシスカウンセリングを広めつつ、産業カウンセラー協会、県や市、企業、大学院などで、リーダーシップ、メンタルヘルス、カウンセリング、ストレスコントロールなどについての講演・講義・トレーニングを提供。
「自衛隊メンタル教官が教える心の疲れを取る技術」(朝日新聞出版社)「折れないリーダーの仕事」(日本能率協会マネジメントセンター)等著書40冊以上。「ホンマでっか!TV」等の出演、雑誌の連載等。
公式HP: http://www.yayoinokokoro.net/
メンタル・レスキュー協会の下園壮太です。コロナ禍の影響で、以前よりも制限された生活をしなければならない。そんな状況が続くことで、ストレスを感じ不安になったり、ついイライラしてしまったりすることは多いと思います。子どもも同じようにストレスを感じ、サインや症状を出していることも。「いつもと様子が違う?」と気付いたとき、親はどう受け止めてあげれば良いのでしょうか? まずはストレスが溜まったときに症状として出る“うつ”状態についてお話いたします。
子どもの“うつ”のサインに気づいたら……親がしてあげられる「こころのケア」とは?
子どもにも“うつ”状態ってあるの?
いつもやっていることができない、できなくなるのが“うつ”状態と言われるものです。大人は社会に出ていろいろなことを言われたり、あるいは環境の変化があったりと、その疲労、いわゆる気疲れによって“うつ”になる場合が多いです。では、子どもの場合はどうなのでしょうか?
子どもの“うつ”について、最近はニュースなどで過剰に不安を煽られて、敏感になっている方もおられるかと思います。しかし、子どもは通常、エネルギーがあり余っていて柔軟性があり、何より環境に適応する力もあるので、あまり“うつ”を心配しなくても良い、ということを親御さんにはお伝えしたいと思います。 子を心配するあまり、親が心労を重ねてしまったら、それこそ子どもの危機に対応できなくなってしまうと覚えておきましょう。これらを踏まえたうえで、今と昔、そしてコロナ禍での環境の変化を解説します。
今と昔の環境の違い
昔は大家族が多かった日本ですが、最近ではワンオペ育児だったり、核家族だったりとお子さんが狭い環境で育てられる傾向にあります。狭い環境、つまり、コミュニケーションを取る人が限られている環境では、子どもは親からの影響をとても受けやすくなるので、ポジティブな気持ちだけでなく、ネガティブな気持ちまで敏感に受け止めてしまいます。 では、そのような環境下で親が子どもに虐待的なアプローチ、冷たい態度をとり続けたり厳しい言葉を言い続けたりすると、どうなってしまうのか? 子どもはとても不安になり大きなエネルギーを使い、“うつ”っぽくなるとともに、その体験がつらい記憶としても残りがちになってしまうのです。
基本的に子どもは“うつ”になりにくいのですが、狭い環境でエネルギーを消費し続けると、“うつ”の症状が出てくることがあります。ここで言う子どもに年齢や性別は関係なく、小学生のうちは大丈夫、中学生なら要注意ということはありません。その固定観念が親の目を曇らせてしまうのです。
とくにコロナ禍では、以前よりも限られたコミュニティーで生活しているので、子どもは親の影響を受けやすくなっています。また、行動が制限されているために親子ともにストレスを感じやすい環境になっています。以前と同じように注意したつもりでも、かなり冷たい言い方になってしまっていることもあるのです。 お子さんと接するうえで、まずは「自分を含めて、みんなストレスが溜まっている状態」ということを頭に入れておきましょう。
“うつ”の前兆を感じたらしっかりと話を聞いてあげる
子どもの“うつ”は、親の言うことを聞かなかったり、学校を休みたがったりなどの「行動」と、下痢や頭痛、吐き気などの「体調」に出やすいです。また、少しのことで不安になったり、怖がったりと、普段と違う変化が起こることもあります。これらの変化は、一緒に暮らしている親御さんであれば、気付いてあげることは難しくないはず。気付かなかったらどうしよう……と不安がるよりも、気付いたあとにどうするかが大切です。
お子さんの様子がいつもと違うと感じたら、まずはしっかりと話を聞いてあげてください。子どもの場合、“自分がこれで悩んでいる”などと明確に言えないことがほとんどで、さらに親が“問題解決”しようと思っていると、まとまりのない子どもの話にイライラしてきてしまいます。自分が疲れているときはなおさらですね。ですので、アドバイスをして問題解決してあげようとするのではなく、「話を聞く」という時間と態度が大切だと覚えておきましょう。
そして、ひととおり話を聞いた後に、体調はどうか聞きます。たとえば「最近眠れない」と子どもに言われたら、「夜遅くまでゲームなどして遊んでいるから眠れないのでは?」と、つい勘ぐってしまう方もおられると思います。でもそれは逆で、実は「眠れないから遊んでいる」ことが多いのです。眠れずに遊んでいる理由があるはずなので、お子さんの話をとことん聞いてあげてください。 直面する問題と違う話でもいい。表面上の問題は、無理に解決しようとしなくて良いのです。信頼できる大人が話を聞いてあげること、それがお子さんにとって、何よりのストレスケア法になるのです。
コロナ禍では親も休むことが重要「蓄積疲労の3段階」とは?
子どもは親に放っておかれると「大切にされていない」と感じて不安になるので、とにかく子どもの話を聞くことが大切です。しかし、いざというとき、親に「体力」がないと「視野」も狭くなり、結果として子どもの「選択肢」も狭くなります。学校に行くのは当然、という視野しか持っていないと、子どもに不登校という選択肢を取らせてあげることができず、結果、追い詰めてしまうこともあるのです。
私は子育てをするうえで大事なのは、頼られても良いだけの体力を持っておくことだと思っています。体力がないと、子どもがピンチになったときに救えないので、自分の疲労が溜まっているときは、できるだけ睡眠や休息をとるようにしましょう。コロナ禍で、疲労がいつも以上に溜まっている、ということも忘れないでくださいね。
図に記してある「1段階疲労」は、休日にリフレッシュすれば疲労が回復するような、いわゆる“元気な人”だと考えてください。それに対して「2段階疲労」と「3段階疲労」の人は、体力のある元気な人とは言えません。風邪をひいて38度の熱を出している人は、元気な人と同じように頑張ってはいけないのと同じで、まずは疲労にも段階があることを認識しましょう。 とくに「2段階疲労」にいる人は、気合を入れると普段通りに仕事ができてしまうため、自分の疲労状態に気づきにくい傾向にあります。この段階で「少しおかしいな」と感じても、「私の頑張りが足りないからだ」「今つらいだけだ」と思って休まずにいると、「3段階疲労」になってしまいます。
たとえば育児中の場合、子育てに追われて疲労の状態が変わると、子どもが可愛くないと感じるようになってしまうことがあります。この状態のときに子どもから離れて買い物に行ったり、気分転換したりするのに罪悪感を持ってしまうこともありますが、これは2段階疲労に落ちているために起こる思考です。なので、いつもと違う自分に気づいて、まずは疲労を回復させてほしいと思います。
子どもが“うつ”やその前兆ではないかと気付いたとき、親は心配のあまり過剰反応しがちですが、自分の疲労が溜まっているときは偏った価値観になっていることがあり、正常な判断ができないケースもあり得ます。そのようなときは価値観を押し付けて解決しようとするのではなく、子どもを信じて、まずはご自身の疲労やストレスのケアを優先してあげてください。 また、第1段階まで回復したら“他者を頼る”という知恵と勇気も必要でしょう。
災害時・被災時に子どもを安心させるには?
台風や大雨の時に停電になることがあります。風の音や雷の音が大きくて怖いなか、さらに停電でおうちの電気が点かないとかなると、突然の出来事に大人でも焦ってしまうときがあるかと思います。しかし、大人の不安や焦りは、子どもにも伝わります。子どもは大人の動きや様子を見て安心したり不安になったりするので、そのような非常事態が起こったときは「演技」をしてでも落ち着いてみせると良いですね。 子どもはエネルギーがありますし、柔軟性も高いです。大人はドーンと構えて「大丈夫だ」という姿を見せて、安心させてあげましょう。これも、頼られて良いだけの体力がある状態だからこそできることなのです。
子どものストレスケア法 まとめ
このコロナ禍で、子どもをはじめ周りに気を配る余裕がないという方も多いかと思います。そんなときは、ぜひ休んでください。休んで良いのです。そして、元気な状態を維持できるようになったら、お子さんの話をたくさん聞いてあげてくださいね。親御さんが笑顔でゆっくり話を聞いてあげることが、子どもにとっては一番のストレスケアにつながるでしょう。
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