今が住宅の買い時!?建設業の2024年問題とマイホームづくりのコツを建築士が解説

マイホームの購入は、人生のなかで最も大きな決断のひとつです。理想的な住まいと出会うことで、より豊かな暮らしが実現できることでしょう。しかし、2024年度以降は市場の変革によって、住宅価格の高騰が予測されています。今まで以上にマイホーム購入までの道のりが険しくなろうとしているなか、理想の住まいを手に入れるコツとは? 一級建築士のしかま のりこさんに、2024年度以降に住宅価格が高騰する要因と、これからの時代に応じたマイホームづくりの考え方について、お聞きしました。一戸建てマイホームの総工費を減らす工夫、理想の住まいをつくりやすくなる取捨選択のポイント、しかまさんオススメの住宅設備などもご紹介します。

しかまのりこ プロフィール
しかまのりこ プロフィール

一級建築士/模様替えアドバイザー
「~地球にやさしい 家族にやさしい~」をコンセプトに、延べ5,000件以上の住戸の設計・検査・審査に携わる。また、これまで300軒以上のリビング・寝室・子ども部屋の模様替えをおこなった実績から、模様替えのスペシャリストとして、日本テレビ「ZIP!」、テレビ東京「日曜ビッグバラエティ」、扶桑社「住まいの設計」、小学館「週刊 女性セブン」などのテレビ・雑誌でも活躍中。
 書籍「狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール」(彩図社)
 COLLINO一級建築士事務所:https://collino-home.com

COLLINO一級建築士事務所代表のしかま のりこです。これまで建築設計や住宅検査、間取り相談など5,000軒以上の物件に携わってきました。マイホームについてさまざまなご相談を受けるなかで、最近増えているのが“兄弟姉妹”でお家を買うケースです。共働き世帯の増加から、兄弟姉妹に子育てをサポートしてもらうケースもありますが、もうひとつ考えられる要因は夫婦の収入や親のサポートだけでは“お家が買えない”こと。社会情勢や国内の経済状況から、マイホームを購入するのが難しい方も増えているように思います。さらに2024年度からは別の要因で住宅価格が高騰するとも予測されているんです。今回は現在懸念されている建設業の「2024年問題」を解説し、マイホームの総工費を抑えるための工夫や理想の住まいを実現させるコツなどもお伝えしたいと思います。マイホーム購入を検討中の方は、ぜひ参考にしてくださいね。

目次
1.一戸建てマイホームの総工費が上がる!? 建設業の「2024年問題」とは?
2.扉の数、住宅設備、内装材……一戸建てマイホームの総工費を減らす工夫
3.マイホーム計画には取捨選択が必要? 一級建築士が考えるこだわるべきポイントとは?
4.建設業の2024年問題とマイホームづくりのコツ まとめ

一戸建てマイホームの総工費が上がる!? 建設業の「2024年問題」とは?

一戸建てマイホームの総工費が上がる!? 建設業の「2024年問題」とは?

2024年4月から建設業従事者の労働基準が変わることで、従業員の時間外労働が月45時間、年間360時間に規制され、1人あたりの労働時間が削減されます。それ自体は悪いことではないのですが、1人あたりの労働時間が適正化されるということは、従来の業務をより多くの人数でこなす必要があり、労務費などの人件費がよりかかるようになります。人材不足に拍車がかかることも確実視されていますね。

また、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が25%から50%に引き上げられることも決まっており、必然的に人件費が上がるので、その分が建築費にも反映されると考えられます。労働時間の削減や人材不足によって工期が伸び、工期が伸びることと人件費が上がることでマイホームの総工費も高騰する、これが建設業の「2024年問題」として懸念されている事柄のひとつです。

中小の工務店に影響大? 2025年の省エネ基準義務化

中小の工務店に影響大? 2025年の省エネ基準義務化

建設業の「2024年問題」に加え、2025年から施行される「省エネ基準義務化」も住宅価格の高騰につながります。2020年10月、日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、延べ床面積300平米以上の中規模・大規模建築物(非住宅)に省エネ基準を義務付けました。2021年4月には温室効果ガスの排出量を2030年度までに46%削減(2013年度比)、さらに50%削減の高みを目指すことを発表し、2025年からはすべての建築物に省エネ基準を義務付けることになります。

国土交通省の計算によると、省エネ基準に適合した建築物は、そうでない場合と比較して120平米(36坪)あたり87万円ほど高くなるようです。

省エネ基準を満たすのは、断熱性能が高い住宅、空調や照明のエネルギー消費量が少ない住宅です。大手ハウスメーカーはすでに省エネ基準を満たす住宅をつくっているため、実はこの省エネ基準義務化にはほとんど影響されないと思われます。影響を受けると予想されるのは、中小規模の工務店です。単純に工費が上がるだけではなく、省エネ基準の住宅をつくるための人材が不足している業者も多く、大きな負担が生じるでしょう。

また、近年の建材費の高騰についても、大手ハウスメーカーは年単位でまとめ買いしているのであまり影響を受けませんが、都度仕入れる工務店の場合は多大な影響が考えられます。現在、中古物件のリノベーションの需要が高まっていることもあるので、これからは新築住宅を大手ハウスメーカー、中古住宅のリノベーションを工務店というように、棲み分ける時代になっていくかもしれません。

これらの理由から、今後ほぼ確実に住宅の総工費は高くなると予想されるため、2023年度が住宅の買い時だという考え方もできます。そして2024年度以降は、一戸建てマイホームの総工費をおさえる工夫や重視する部分の取捨選択が、理想の住まいを手に入れるためのポイントとなるでしょう。

扉の数、住宅設備、内装材……一戸建てマイホームの総工費を減らす工夫

一戸建てマイホームの総工費を減らす工夫

住宅価格が高騰するこれからの時代に備え、一戸建てマイホームの総工費をおさえるために検討すべきことを解説します。

まずは、扉の数です。すべての間取りに扉を設置すると、当然ながらその分だけ費用がかかります。扉の価格は安くても7〜8万、デザインに凝ったものだと15万円ほどと、ひとつ増えるだけで工費が高くなるんですね。たとえばキッチンとパントリー、ファミリークローゼットの境目、玄関と土間収納の境目などは、間取りにもよりますが扉を付けないほうが便利なケースもあります。洗濯物や買ってきた荷物を両手に抱えた状態でも移動がしやすくなるからです。リビングや寝室の扉は冷暖房の効率を高めるために必要ですが、収納周りの扉は動きやすい家事動線を考慮しつつ、減らすことも検討してみてください。

続いて重要なのが、住宅設備の検討です。浴室を例に挙げると、最近のユニットバスには標準仕様で浴室乾燥機能が備わっています。しかし、乾燥機能付きの洗濯機を持っているのであれば、乾燥機能のあるユニットバスは必要ないんですね。このように機能が重複する設備を削るだけでも、かなりの工費削減になりますよ。

また、キッチンの設備も総じて高くなりやすいので、十分に検討しましょう。たとえば海外製のキッチンは日本製のキッチンと比べてかなり高額です。機能も含め、自分の理想の暮らしに必要なものなのかをしっかりと考えてから導入してくださいね。

床や天井、壁に使用する内装材も選び方次第で費用をおさえることができる

床や天井、壁に使用する内装材も、選び方次第では費用をおさえることができます。床材なら、お家の一部に安価な「クッションフロア」を採用すると良いでしょう。クッションフロアは安価なぶん、天然材のフローリングなどと比較すると見た目の安っぽさは否めませんが、リビング以外の個室や寝室などに採用するのはアリだと思います。また、一般的な壁材より高価な「漆喰」や「珪藻土」を吸湿性の高さから採用する方もいますが、24時間換気システムが導入されたお家では大きなメリットはありません。メンテナンスも大変なので、費用を考慮すると避けるのが無難でしょう。

このように扉や住宅設備、内装材などを工夫することで、住宅の総工費を減らすことができます。そのうえで、自分がこだわりたい部分、実現したい理想を上手に住まいに取り入れると、後悔のないマイホーム購入につながりますよ。ここからはマイホームにおいて“こだわるべきポイント”を考えていきましょう。

マイホーム計画には取捨選択が必要? 一級建築士が考えるこだわるべきポイントとは?

マイホーム計画には取捨選択が必要? 一級建築士が考えるこだわるべきポイントとは?

住みやすい理想のマイホームづくりにおいて、私がこだわるべきだと考えているポイントのひとつが「断熱性能」。断熱性能は健康に暮らすため、とくにヒートショックを防ぐためにとても重要です。ヒートショックは温度差によって血圧が急激に変化し、人体に健康被害をもたらす現象で、とくに冬場には入浴時の死亡事故が多数起きています。リビングと廊下、洗面室と浴室など、室内の気温差が主な要因であるため、断熱性能の高い住宅であればヒートショックは起こりにくくなるんですね。寒さの厳しい北海道でヒートショックの事例が少ないのは、多くの住宅が高い断熱性能を備えているからだと考えられます。断熱性能が高いと不慮の事故を防げるだけでなく、暖房にかかるランニングコストをおさえられる点もメリットだと言えるでしょう。

玄関の広さにもこだわってほしいと思います。玄関は単なる出入り口ではなく、お家の顔となる部分です。どんなに外壁や内装、インテリアに凝ったとしても、玄関が狭くては見劣りするお家になりかねません。実用的な面で言うと、玄関のエントランスは靴を脱いだり履いたりするのに十分なスペースを確保しましょう。広さの目安としては、土間収納やシューズクロークを除いて2畳以上あれば使い勝手が良くなりますし、老後に車椅子が必要になった際なども出入りしやすくなりますよ。

広さにこだわってほしいのは、リビングも同様です。リビングはお客様を迎えたり、家族で集まったりする場所となるので、やはり広々としているほうが良いと思います。リビングは子ども部屋と違って用途が変化することがなく、団らんの場としてずっと使い続けるので、広さや素材にこだわっておくことをオススメします。

窓の位置はお家ができた後の生活をよく考えて設置

多くの方が見落としがちなのが窓の重要性です。どんな窓を選んで、お家のどこに設置するのかをよく検討せずにハウスメーカーや設計士に任せっきりにした結果、お隣の方と目が合うような場所に付けてしまった、なんてことも。道路から寝室の様子が見えてしまったというケースもたびたび耳にします。建てる前には気付きにくい点ではありますが、お家ができた後の生活をよく考えて窓の位置を決めましょう。どこに窓を付ければ良いか具体的にわからなくても、「お隣さんの視線が気になる」や「寝室は外から見えなくしてほしい」などの相談をすれば、設計士がベストな提案をしてくれるはずですよ。

マイホームを購入してからの生活は長く、自身やパートナーの年齢、お子様の成長にあわせてライフスタイルも変化します。建てる段階で先々の変化に対応できるようなお家づくりを心掛けましょう。オススメなのは「可動間仕切り収納」の活用です。大きめにつくった個室に可動式の収納を設置して仕切れば、子ども部屋をつくれますし、子どもが独立した後は収納の位置を変えて別の用途のスペースとして使えます。

可動間仕切り収納では「南海プライウッド」や「Ce-fit」のものがとくに高品質ですね。少々高価ですが、高さなどを変更できるので、お子様が小さなころから大きくなるまで使えます。収納を買い替える必要がないので、結果的にローコストになると思いますよ。

洗面ボウルの数を増やすと快適さがアップ

洗面室の洗面ボウルの数も、生活するうえで実は重要なポイントです。たとえば4人家族なら、メインの洗面室には2ボウルつくるのが良いでしょう。2人同時に洗面台が使えて、忙しい朝でも家族それぞれの支度がスムーズになります。2階に寝室を配置する間取りなら、1ボウルで良いので2階に洗面台をつくると、より快適に過ごせますよ。

予算に余裕があれば「スロップシンク」も検討してみてください。スロップシンクは大型の流しで、掃除用具や園芸用品、泥が付いた靴など、キッチンの流し台や洗面所に持ち込みにくいものを洗える設備です。深さがあるので、汚れた靴の漬け置きにも使えて便利ですね。ペットを飼っているご家庭なら、散歩の後に足を洗ったり、シャンプーしたりするのにちょうど良いと思います。設置場所は室内でも屋外でも、間取りに応じて決めましょう。

ここまでは私の考える“こだわるべきポイント”をご紹介しましたが、理想の暮らし方は人によって異なりますよね。では、さまざまなケースを想定して、こだわるべきポイントをさらに深掘りしていきましょう。

共働きで忙しいなら「家事楽間取り」にこだわる

共働きで忙しいなら「家事楽間取り」にこだわる

夫婦共働きで忙しいご家庭なら、家事の負担を減らせる「家事楽間取り」を導入しましょう。家族全員の普段使いの衣類やタオルなどを収納するファミリークローゼットをつくり、家事室(ランドリー)と動線をつなげる間取りにします。とくに部屋干しできる家事室と洗濯物をハンガーに干したままでもしまえるファミリークローゼットは、ぜひ導入してほしいですね。平日でも天候を気にせず洗濯できますし、衣類をたたむ手間を減らせるので時短となり、とても便利ですよ。

ペットと快適に暮らしたいなら内装材にこだわる

ペットと快適に暮らしたいなら内装材にこだわる

ペットを飼っているご家庭なら、まず前述した「スロップシンク」がオススメです。さらに内装材をペット向きのものにしましょう。ペットが床や壁に爪を立ててもダメージを受けにくい、ハード仕様にコーティングされたフローリングや壁材を選ぶと良いですね。

子育てしやすいお家にしたいなら空間と収納にこだわる

子育てしやすいお家にしたいなら空間と収納にこだわる

出産をきっかけにマイホームを購入される方も少なくないですよね。子育てがしやすいお家づくりのポイントは、オープンな空間とプライベートな空間を分けることです。リビングダイニングやキッチンなどは細かく仕切らずに、広く見渡せるようなオープンなつくりにして、お子様を見守ったり、コミュニケーションをとったりしやすい場所にします。ただし、子どもが思春期になるとプライベートな空間も必要になるので、あらかじめ個室も準備しておくと良いでしょう。また、小さいお子様のおもちゃを片付ける収納はいずれ必要なくなるので、造り付けではなく、前述した可動間仕切り収納や安価な市販品を選ぶのが良いですね。

災害に強いお家にしたいなら屋根と軒にこだわる

災害に強いお家にしたいなら屋根と軒にこだわる 丸和建設の規格住宅「AirVert」

近年、大雨による住宅への被害が多発しているため、災害に備えたお家づくりを意識する方も多いでしょう。短時間で大量の雨が降った際に懸念されるのが雨漏りです。雨漏りは一度起きてしまうと繰り返し起こりやすく、どんどんお家を侵食していってしまいます。雨漏りを防ぐためには、しっかりと軒(のき)をつくりましょう。

軒が小さい、あるいは軒のないお家の場合、雨漏りの可能性がグンと上がってしまいます。一時期、デザイン性を重視して「軒レス(軒ゼロ)住宅」が流行しましたが、軒がないために外壁や窓周りに直接雨が当たり、雨漏りが多発していました。雨漏りの被害を防ぐためには、軒を大きめに設計することをオススメします。さらに庇(ひさし)も付けると、より雨が家屋に当たりにくくなりますよ。

外壁を上下異なる素材で仕上げるのも雨漏りしやすいので要注意。たとえば上部を白っぽいモルタル、下部をグレーのタイルにすると、見た目はオシャレでも仕上げ材の違いから雨水が外壁から侵入しやすく、雨漏りにつながってしまいます。バルコニーなど壁から飛び出るようなスペースも、壁との接合部分から雨漏りしやすくなるので要注意。しっかりとした施工がされていれば問題ありませんが、災害に強いお家をつくるならよく検討すべきポイントと言えるでしょう。

建設業の2024年問題とマイホームづくりのコツ まとめ

建設業の2024年問題とマイホームづくりの考え方についてお話ししました。これから住宅価格が高騰するのはほぼ間違いなく、今まさにマイホームを検討中の方は早めに決断するのもひとつの手だと言えるでしょう。しかし、焦りすぎも禁物です。設備が重複して無駄になったり、こだわらずに決めた間取りが不便だったりすると、後悔につながりかねません。大切なのは、自分や家族が何にこだわりたいのか、どう暮らしたいかをよく考え、必要なものと不要なものを取捨選択すること。また、SNSの情報に惑わされないことも重要です。マイホームでの理想の生活をイメージしながら、しっかりと計画を立てて満足できる住まいを手に入れてくださいね。

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