3月3日は五節句のひとつ「上巳(じょうし/じょうみ)の節句」で、今では「ひな祭り」という名でも親しまれています。ひな祭りと言えば、“女の子の成長を祝う行事”ですが、その由来や意味まで知っている方は少ないかもしれません。歳時記研究会の水谷美枝子さん、米持祐子さんによると、ひな祭りの飾りや演出のひとつひとつにも意味があるそうです。そこで、日本の年中行事に詳しいお二人にひな祭りの由来や飾り付けなどを解説いただきました。ひな祭りをさらに楽しむためのアイテムやアドバイス、オリジナル雛人形のつくり方、お家でできるテーブルコーディネートなどもご紹介します。小さいお子様向けのかわいらしい飾り付けから大人っぽいコーディネートまでお聞きしたので、いつもよりワンランク上のお祝いをしたい方は必見ですよ!
豊かな四季のある日本。自然のリズムを大切にした、先人たちの想いや知恵が詰まっているのが年中行事です。先人たちが大切に伝えてきた暮らしの知恵や、自然との寄り添い方を見つめ、日々の暮らしに取り入れませんか。
歳時記研究会では、年中行事の意味、お料理、しつらえなどを、現代の暮らしに取り入れやすい内容で、ふたりの講師が楽しくお伝えしています。
行事食マイスター®
食空間コーディネーター&ディレクター
料理家・食空間コーディネーター
歳時記研究会の水谷と米持です。上巳の節句は、春の訪れを感じながら女の子の健やかな成長と幸せを祈る行事で、一般的にはひな祭りと呼ばれることが多いですね。日本には古くから伝わる五節句があり、そのひとつである上巳の節句には、さまざまな由来があると言われています。日本古来の歴史を感じながら、お子様と上巳の節句をお祝いしてみませんか? まずは五節句と上巳の節句の由来からご紹介します。
目次
1.上巳の節句(ひな祭り)とは? 由来や意味を知り、子どもに伝える
2.上巳の節句(ひな祭り)をさらに楽しむための飾り付け・アイテムとアドバイス
3.ひな祭りの飾り付けにぴったりな手づくり雛人形! 「三角雛」「和紙雛」「人形(ひとがた)」のつくり方
4.親子で楽しむ上巳の節句(ひな祭り)の飾り付け・テーブルコーディネートをプロが伝授
5.上巳の節句(ひな祭り)のお祝い まとめ
上巳の節句(ひな祭り)とは? 由来や意味を知り、子どもに伝える
五節句とは、古代中国で発祥した一年の節目におこなう行事で、奈良~平安時代ごろに日本に伝わったとされています。江戸時代には幕府が公式行事として、制度化しました。
①1月7日 人日の節句
②3月3日 上巳の節句
③5月5日 端午の節句
④7月7日 七夕の節句
⑤9月9日 重陽の節句
五節句の日付を見ると、すべて奇数ですね。奇数は、陰陽五行説などの思想から縁起が良い数字とされていますが、奇数が重なることで“陽が極まり、陰に転じる”とも言われています。つまり、陽の力が重なり陰に転じる恐れがあるため、五節句は厄を払って“神の御力をいただく日”となった……そのような説が残されているわけです。神の御力をいただくというのは、神様にお供えした食べ物を一緒にいただくことを指します。
上巳の節句は「桃の節句」とも呼ばれている
上巳の節句はひな祭りのほかにも、「桃の節句」「草餅の節句」とも呼ばれていますね。とくに桃は古代中国では重要視されていて、香りの強さから「百鬼を制する邪気払い」、たくさんの実を付けるので「強い生命力と子孫繁栄」、仙人が住む楽園の名が“桃源郷”であることから「長寿」、というように多くの意味をもっています。また、桃という漢字のつくりである“兆”は「未来を予知する力」と考えられたため、桃の種は占いに使われていました。このように、桃が縁起物であり3月は桃の花の季節であることから、上巳の節句は「桃の節句」とも呼ばれるようになったのです。
上巳の節句(ひな祭り)の由来と意味
上巳の節句には「厄払い」「遊び」「春を迎える喜び」などの意味があると考えられています。由来とされる説を歴史の古い順にお話していきますね。
●上巳の節句(ひな祭り)の由来①上巳節
紀元前300年ごろの古代中国では、3月の最初の巳の日(旧暦3月3日)である「上巳節」に踏青(とうせい)をする習慣がありました。踏青とは、家族で野山に出かけ、水辺で体を清めて桃の酒を飲み邪気を払った後に、食事をしたり遊んだりして過ごすもので、上巳の節句の由来としては最も古いとされています。
●上巳の節句(ひな祭り)の由来②曲水の宴(きょくすいのえん)
奈良・平安時代、貴族の遊びのひとつに「曲水の宴(きょくすいのえん)」というものがありました。これは宮廷庭園の曲がりくねった流水のほとりに座り、水に浮かべた盃が自分の前を通り過ぎるまでに和歌を一首詠み、盃を取って飲むという雅な遊びです。平安時代以降は徐々に廃れていきましたが、3月3日におこなわれていたことから上巳の節句の由来のひとつだと考えられています。
●上巳の節句(ひな祭り)の由来③流し雛
「流し雛」は、3月3日に雛人形を川に流す行事です。この時期は水が冷たく体を清めるには寒いので、代わりに木片や紙、草花などでつくった「人形(ひとがた)」を人に見立て、ひとがたを撫でることで穢れや厄病、災いを移し、川や海に流すようになりました。ひとがたの形状がどんどん凝ったものに変化し、やがてお人形遊びに用いられるようになったものが次の「ひいな遊び」につながります。
●上巳の節句(ひな祭り)の由来④ひいな遊び
室町時代には、「ひいな遊び」が貴族の子女の間で流行りました。ひいなとは、「小さくてかわいい」という意味です。最初はおままごとのような遊びでしたが、徐々に手が込んでいき、人形には美しい細工がなされ、宮中の婚姻を模すようになっていきました。それが江戸時代には庶民にも広がり、ひな祭りとして発展したと言われています。
●上巳の節句(ひな祭り)の由来⑤野遊び・磯遊び
江戸時代や明治時代には、旧暦3月3日に人々が誘い合って野山や浜でピクニックをするのが流行しました。これは古代中国の踏青にならったもので、お弁当を食べたり、春のうららかな景色を楽しんだりして過ごしていたようです。また、「雛の国見せ」と言って、野遊びに雛人形を持って行き、飾る風習もありました。雛人形に春の美しい景色を見せてあげていたことから、雛の国見せと呼ばれたそうです。
上巳の節句を子どもに教えるときのポイント
お子様に上巳の節句について伝えるときは、なるべく簡潔に話しましょう。上巳の節句は女の子の健やかな成長と幸せを祈り、感謝する日であること。そして、「厄払いである流し雛と、お人形遊びであるひいな遊びが合わさって現在のひな祭りになったんだよ」程度が良いと思います。由来や意味はいくつもあるので、最初から多くを伝えると混乱してしまうかもしれません。お子様の成長や興味に合わせて教えてあげるのが良いでしょう。
節句の由来や意味を知ってお祝いするのは、子どもにとっても大切なことだと考えています。忙しくてもお雛様や桃の花を飾るだけで、心が豊かになり、気持ちに余裕が生まれるでしょう。私たちの家庭でも、年中行事を意識することで子どもたちとゆっくり話す時間が増え、家族の楽しい思い出が増えることを実感しています。始められることからで良いので、ぜひ日本の行事の歴史を知って、家族でお祝いしてみてください。きっと幸せな時間が生まれますよ。
上巳の節句(ひな祭り)をさらに楽しむための飾り付け・アイテムとアドバイス
上巳の節句の由来を知ったら、いにしえの時代に思いを馳せながら家族で出かけるのも面白いと思います。3月はまだ肌寒い時期ではありますが、天気が良く暖かい日を選んで、野遊びを再現するのも一興ですよ。
上巳の節句(ひな祭り)の飾り付け・アイテムの豆知識
上巳の節句では、お家に雛人形や桃の花、菜の花などを飾って、甘酒をつくってみるのも良いでしょう。家族で上巳の節句を楽しむうえで、知っておきたい飾り付け・アイテムと豆知識をご紹介します。
●雛人形
これまでお話したさまざまな由来から、上巳の節句では雛人形を飾るようになったのですが、飾り方にも決まりがあります。もともとは陰陽五行説の「左上位」の考え方から、お内裏様を左(向かって右)に飾っていましたが、明治時代に開国して以降、国際プロトコールにならって、お内裏様を右、お雛様を左に飾るのが一般的となりました。しかし、京都の「京雛」などは現在もお内裏様を左に飾ることもあります。お雛様の飾り方ひとつにも、時代や地域が影響しているのは面白いですね。
●雛道具(雛飾り)
「菱餅」や「桜橘(さくらたちばな)」などの雛飾りも、それぞれに意味があります。たとえば菱餅の色は、緑が健康、白は子孫繁栄、赤は魔除けとされていて、下から緑 ⇒ 白 ⇒ 赤の順で重ねられているのも、雪の下に新芽が芽吹き、雪の上には桃の花が咲いている様子を表現しています。
雛人形と一緒に飾られる花木のなかで最もポピュラーな桜と橘は、平安京の内裏に植えられていた「左近の桜・右近の橘」を模しています。どちらも魔除けや邪気を払ってくれるとされるほか、常緑樹の橘には不老長寿を願う意味もあるそうです。
●犬筥(いぬばこ)
雛道具のなかには、犬をかたどった小箱「犬筥(いぬばこ)」というものがあります。犬は昔から厄除けや安産・多産の象徴とされており、子どもを守るという役割が定着するにつれて、顔が人間の子どものように変わっていったようです。雌雄一対の犬筥は、雄の中にお守りを、雌の中に化粧道具を入れました。犬筥は「御伽犬(おとぎいぬ)」とも呼ばれますね。
●手毬
「手毬」は女の子の遊び道具として、かわいらしいものの象徴とされています。かつて日本では、女の子の赤ちゃんに「丸々と健やかに育ちますように」「何事も丸く収まりますように」という願いを込めて手毬柄の着物を着せ、結婚する際にはお守りとして持たせるという風習があったようです。
●蛤(はまぐり)の貝合わせ
「貝合わせ」は平安時代末期からおこなわれた、はまぐりの貝殻を合わせる遊びです。はまぐりは対の貝殻以外と合わせても閉じないことから、夫婦円満の願いが込められているんですよ。さらに、はまぐりは汚れた海に住まないことから純潔の意味も持ち合わせているため、上巳の節句では「はまぐりのお吸い物」を食すようになりました。
●行事食
上巳の節句の代表的な行事食は、ちらし寿司、はまぐりのお吸い物、草餅や菱餅、ひなあられ、白酒(甘酒)などがあります。行事食にも意味があり、たとえばおめでたい日によく食べられるちらし寿司には、「えび = 長生き」、「錦糸卵 = 財宝が貯まる」といった縁起の良い食材が多く使われているんですよ。草餅は、薬草である「よもぎ」が邪気を払う力があることから縁起物とされ、上巳の節句は「草餅の節句」とも言われています。
また、ひなあられは菱餅の代用品として生まれたほか、魔除けの力をもつ「桃花酒(とうかしゅ)」を飲む習慣が江戸時代ごろから白酒になったという変化もあります。それぞれの行事食には意味や歴史があるので、お子様と会話をしながら食を楽しみ、神の御力をいただきましょう。
ひな祭りの飾り付けにぴったりな手づくり雛人形! 「三角雛」「和紙雛」「人形(ひとがた)」のつくり方
ひな祭りと言えば、雛人形。初節句には飾って親族などを招き、お祝いをしますよね。赤ちゃんのころは親御さんが飾り付けをすると思いますが、お子様がある程度大きくなったら、ぜひ一緒に雛人形を飾りましょう。飾っているうちに「これは誰?」「手に持っているのは何?」などなど、お子様から自然に疑問が湧き出てくるはずですから、ぜひ教えてあげてください。楽しいひな祭りの思い出は、きっとお子様の心に残り続けるはずです。
雛人形を出す時期は、立春(節分の翌日、2月4日)ごろから2月中旬にかけて、片付けるのは3月4日以降の晴れた湿度の低い日を選びましょう。3月3日が終わったらすばやく片付けることも厄払いになるそうです。
また、雛人形をお持ちでない方やお子様と手づくりしてみたいという方に向けて、「三角雛」「和紙雛」「人形(ひとがた)」のつくり方動画もご紹介したいと思います。お子様の年齢や好みに合わせて一緒につくってみてくださいね。
未就学児や小学校低学年のお子様にオススメ! 「三角雛」のつくり方
【用意するもの】
・千代紙(15×15センチ、片面千代紙)
・15×1センチの紙(1体につき同色2枚)
・のり
・マジック
・ハサミ
「三角雛」は並べるだけでもかわいらしい、三角すいの立体的なお雛様です。動画ではお雛様の体は千代紙でつくり、襟には単色の折り紙を幅1センチに切ったものを貼り付けています。のりは、使いやすいテープのりがオススメ。顔や髪はマジックで自由に、好きな表情を書けるので楽しいですよ。親御さんがときどき手を貸してあげれば、小さいお子様でもつくることができると思います。
小学校高学年以上にオススメ! インテリアとして飾れる格調高い「和紙雛」のつくり方
【用意するもの】
・和紙(25×25センチ)
・ハサミ
・竹串(なければ必要なし)
紙は正方形であればサイズは問いませんが、動画では25×25センチの和紙を使っています。和紙でつくると格調高くなりますし、くすみカラーを使うことで大人っぽく仕上がりますよ。色によって印象が変わるので、部屋の雰囲気に合わせて選ぶと良いでしょう。また、赤い折り紙などで台座をつくると、より格調高い雰囲気に仕上がりますよ。
つくるときのポイントは、お内裏様は肩を張るように、お雛様は手を前で組ませて丸くなるようにすること。私の娘は小学校4年生のときに、動画を見ながらひとりでつくることができましたね。お雛様の手に桜の造花をもたせて飾り付けをしたところ、さらにかわいくなりましたので、お子様と一緒に飾り付けも工夫しながら楽しんでくださいね。
つくって飾り、穢れを払う〜伝統的な上巳の節句「人形(ひとがた)」のつくり方
【用意するもの】
・和紙など厚い紙(25×12.5センチ)
・ハサミ
最後にご紹介するのは「人形(ひとがた)」のつくり方です。風格が感じられるデザインなのに、折って切るだけなのでとても簡単につくることができます。厚めの和紙やしっかりした包装紙などを使えば、ちゃんと自立しますよ。本来ひとがたは自分の穢れを移して払うものなので、飾った後は神社に奉納するのも良いですね。
親子で楽しむ上巳の節句(ひな祭り)の飾り付け・テーブルコーディネートをプロが伝授
上巳の節句のお祝いは、食卓を華やかに彩り、家族で行事食をいただきましょう。お子様が小さいうちは「せっかくキレイに飾り付けても汚れてしまう」という声も聞きますし、実際に私たちもそうした体験をしています。小さなお子様がこぼしてしまうのは仕方ありませんので、クロスなどは汚れても良いものを選びましょう。また、お子様の年齢に合わせて、高級で繊細な食器類や倒して怪我をしそうな脚の高いグラスなどは使わないほうが無難だと思います。
最近は100円ショップやニトリ、IKEAなどのお手頃な商品でも十分に素敵なコーディネートが可能です。緑・白・赤(ピンク)の菱餅カラーのアイテムも豊富に用意されていますよ。テーブルクロスやテーブルランナーも紙製のものを使えば、終わったらそのまま処分できるので後片付けも簡単。それでは、自宅でできる上巳の節句コーディネートをご紹介しましょう。
上巳の節句(ひな祭り)をかわいらしく演出! お子様と楽しむテーブルコーディネートと飾り付け
【使用したもの】
●100円ショップ
・カップずしの白皿
・赤い菊柄皿
・箸置きに使った小皿
・金平糖の入ったミニグラス
・和紙雛の台座
●300円ショップ
・赤いお椀
・お箸
テーブルクロスは、シーツや包装紙などで代用してもOKです。テーブルランナーは、菱餅カラーの和紙と千代紙を重ねて並べ、その上に長方形のお皿をひっくり返してピンクの和紙を敷いた台座に和紙雛を飾っています。和紙雛は、15×15センチでつくると食卓にちょうど良いサイズになりますよ。食器類は100円ショップや300円ショップを中心に使いました。とくにパステルカラーのアイテムが豊富なセリアや、シンプルなStandard Productsがオススメです。上記の【使用したもの】にないものは私物を使っていますが、ニトリやIKEAなどで似た雰囲気のものが手に入るので、探してみてくださいね。
雛人形は、お子様とつくった手づくり雛人形を飾ると喜ばれると思います。あわせて桃や梅、桜、菜の花、スイトピーなど春の花も飾りましょう。花は生花でも造花でもOKですよ。
シックに上巳の節句(ひな祭り)を演出! 大人っぽいテーブルコーディネートと飾り付け
くすみカラーでトータルコーディネートすると、食卓が一気に大人っぽい雰囲気へと変わります。お重箱にばらちらしを盛り付けるのも素敵ですね。貝合わせのはまぐりや手毬など、上巳の節句に由来するアイテムを飾れば華やかさが増すでしょう。ちょっと背伸びした大人っぽいテーブルコーディネートを喜ぶお子様もいると思いますので、ぜひ参考にしてください。
和紙雛も色を変えるだけで印象が随分変わります。全体のカラーを合わせれば、統一感が出ると思いますよ。また、お子様とつくる行事食のレシピについては別途ご紹介しますので、そちらをご参照ください。
上巳の節句(ひな祭り)のお祝い まとめ
五節句のひとつである「上巳の節句(ひな祭り)」について解説しました。古代中国から伝わり、さまざまな由来から生まれた上巳の節句。まずは親御さんがその意味を知り、お子様へ伝えることでひな祭りが何倍も楽しく、有意義なものとなるでしょう。上巳の節句に合わせたテーブルコーディネートや飾り付けをするだけで特別な空間へと変わりますから、さらにお子様の心に残るものとなるはず。手づくり雛人形を一緒につくるのもオススメです。楽しく華やかに、お子様の健やかな成長を家族でお祝いする参考にしてみてくださいね。
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