かつては「味気がなくて、日持ちするもの」というイメージが強かった非常食ですが、現在では多様化し、さまざまなタイプのものが販売されています。ですが、そのなかでどのようなものをどのくらい用意すればいいのか? どのように保管すればいいのか?といった疑問をかかえている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、“備え”のプロである防災アドバイザーの高荷智也さんに、非常食についてのお話を伺いました。
ソナエルワークス代表|備え・防災アドバイザー
「自分と家族が死なないための防災対策」のポイントをロジックで解説するフリーの専門家。大地震や感染症パンデミックなどの防災から、銃火器を使わないゾンビ対策まで、堅い防災を分かりやすく実践的に伝えるアドバイスに定評があり、講演・執筆・コンサルティング・メディア出演など実績多数。
公式サイト
「備える.jp」
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こんにちは、防災アドバイザーの高荷です。災害に備える場合、まずは命を守る準備を徹底してやるというのが大前提。それが終わった後に、非常食をどうするか考えます。しかし、漠然と備えるだけでは、いざというときに役に立たない可能性があるので、しっかりとポイントをおさえていきましょう。
非常食とカセットコンロで災害に備える
代表的な非常食と言えば、「乾パン」をイメージされる方が多いかと思います。たしかに乾パンは、賞味期限やそのまま食べられる使い勝手の良さという点では優れているのですが、水なしでは食べづらく、堅いため、お子様やお年寄りには向きません。そこでオススメしたいのが、「パンの缶詰」。いわゆる「普通のパン」がそのまま缶詰になっており、3~5年程度保管ができる優れ物です。温めなくても美味しいので、お年寄りやお子様でも苦なく食べることができるでしょう。ご飯が食べたいという場合にはお湯か水で戻せるお米「アルファ米」の非常食が適しています。カセットコンロとガスボンベを一緒に備えておけば、非常時でも温かいご飯を食べることができます。
カセットコンロとガスボンベは、私が特にオススメしているものです。これがあるだけでカップラーメンや味噌汁などのインスタント食品やカレーや牛丼などのレトルト食品を温めることができるので、大変重宝します。「サトウのごはん」も湯せんで食べることができるので、これらを備えておくと、普段の食事に近いものを用意することができるでしょう。非常時に温かいものが食べられるというのは、実は重要で、ストレスを緩和する意味でも、ぜひ用意していただきたいです。
それと、甘いお菓子を非常食とするのもオススメです。子どもだけでなく、大人にとっても甘いものは非常時に重宝するので、普段から買っているお菓子があれば、ちょっと多めに買って備蓄するのもいいと思います。ちなみに、防災用のお菓子として「長期保存用ビスコ」というのも販売されています。
これらの非常食を保管する際は、家のどこにしまっておくと使いやすいか、という考えで保管場所を決めれば問題ありません。避けるべきポイントは、直射日光があたる場所、温度や湿度が高い場所くらいでしょうか。
また、非常食の量についてですが、最近では1週間分用意するべきとお伝えしています。たとえば、東京、大阪、名古屋などの大都市が壊滅的な被害を受けた場合、南海トラフなどの大地震が起こった場合だと、3日間では救援・支援がはじまらない可能性があります。そのため、1週間分の非常食があると安心ですね。
25年間保存可能? 携帯おにぎり!? 進化を遂げた非常食
意外性のある非常食として「サバイバルフーズ」というものがあります。これは中身がフリーズドライになっていて、缶詰の中にシチューを乾燥させたものなどが入っているわけです。一般的には水かお湯で戻して食べるのですが、実はそのままでも食べられます。味の濃いおつまみのようなイメージですかね。
このシリーズはラインナップがいろいろあって、非常食と感じさせないくらい味のクオリティが高いです。お値段は、大缶6個入りセット(60食)で4万円くらいですが、25年間以上の長期保存が可能です。賞味期限切れを気にして買い換える必要がほとんどないので、非常食としては割安かもしれません。
ユニークな非常食としてオススメしたいのが「携帯おにぎり」です。尾西食品のアルファ米シリーズのひとつで、日本人といえば“おにぎり”というイメージから、三角形のパッケージで売られています。お湯を入れて、パッケージの外からギュッと握るだけで、熱々のおにぎりができあがるというものです。ちなみに、水でも戻せます。通販サイトだと1個200円くらいで売られていますね。水で戻したご飯は冷たく食欲が湧かないかもしれませんが、おにぎりであれば冷たくても抵抗なく食べられる、というメリットがあります。
似たものとしてご紹介したいのが、「飲むおにぎり」。これは、市販されているゼリー飲料と同じような感覚で持ち運びができる“おかゆ”です。ほかにも「レスキューフーズ」というものがありまして、小さい箱の中にご飯とレトルト食品と発熱セットが入っています。火を使わなくても熱々の食事がつくれるので、非常用としてだけでなく、アウトドア用品としてもオススメしています。
普段の生活が備えになる!?「日常備蓄」のやり方
災害に備えるためには、非常食を用意すること以外に「日常備蓄」をすることもオススメしています。
日常備蓄とは、普段ご自宅で食べているもののなかで、賞味期限の長いものやご家族が好きなものを多めに買って、日頃から家の中に食べ物がある状態にすることを言います。お菓子やレトルト食品などを多めに蓄え、なくなる前に補充するだけでOKです。そうすることで、必要以上にお金をかけず、生活のなかで“備蓄”が完了しますし、めんどうな賞味期限管理も楽になります。また、自分たちが好きでないものは、非常時にも食べたくならない、という意味でも日常備蓄は重要ですね。
家で保管する非常食とは別に「非常用持ち出し袋」を用意する
非常食や日常備蓄のほかに災害時の備えとして、「非常用持ち出し袋」を用意する必要があります。これは水害や地震、火災など、突発的な災害から急いで避難する際に持ち出すもので、いわゆる防災リュックですね。非常用持ち出し袋は、できるかぎり軽くしなければならないので、なかに入れるべき非常食も工夫する必要があります。
オススメはそのまま食べられて栄養価が高いもの。ゼリー飲料全般やカロリーメイトなどの栄養補助食品が挙げられます。
ほかにも、おいしく・喉が渇きづらく・溶けず・衝撃にも強い「えいようかん」という羊羹を個人的に勧めています。「えいようかん」はチョコ味とアンコ味があって、賞味期限は5年間と非常に長いです。チョコレートやアメとちがって夏場でもとけませんし、栄養補助食品とちがって長期間持ち歩いても粉々にならないというメリットがあるため、普段から持ち歩くのにも適しています。
最後にとても大事なことですが、非常用持ち出し袋は廊下や玄関など、屋外に出るときにすぐつかんで走れる場所に置いておいてください。いざというときに見つからないと大変なので、必ず目に入る場所で保管しましょう。
非常食についてのまとめ
みなさまがイメージされる“THE非常食”以外のものも、普段から備えていれば立派な非常食になります。長期保存が可能なものだけでなく、インスタント食品やレトルト食品もぜひご活用ください。日常備蓄であれば、あまり気構えることなく災害対策ができるので、次のお買い物から実践されてみてはいかがでしょうか?