2018年8月、「非常に強い」勢力の台風が25年ぶりに発生。近畿地方に甚大な被害をもたらしたことは記憶に新しく、2019年にも立て続けに大きな台風が発生し、関東地方や東北地方を中心に被害が拡大しました。そのほかにも、近年の風水害は日本全土に大きな影響を与えている状況です。 では、わたしたちは台風に対して、どのような備えをするべきなのでしょうか? 防災アドバイザーの高荷智也さんにお話を伺いました。
ソナエルワークス代表|備え・防災アドバイザー
「自分と家族が死なないための防災対策」のポイントをロジックで解説するフリーの専門家。大地震や感染症パンデミックなどの防災から、銃火器を使わないゾンビ対策まで、堅い防災を分かりやすく実践的に伝えるアドバイスに定評があり、講演・執筆・コンサルティング・メディア出演など実績多数。
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こんにちは、防災アドバイザーの高荷です。台風による風水害は、事前に来る場所やタイミングが予測できる災害です。自分の住んでいる場所の地形や特長を知り、発生時に的確な行動をとることで命を守ることができると言えるでしょう。そこで今回は、台風に関する防災対策についてお話させていただきます。
台風に備えて浸水と土砂災害の「ハザードマップ」をチェック
災害に備えるにはまず、ハザードマップの確認からはじめましょう。ハザードマップとは、災害の種類別にどこで、どのような影響が生じるかを地図上に示したものです。日本の各自治体が作成しているので、自分が住んでいる地域のものを確認しておくといいでしょう。台風にともなって生じる災害としては、浸水と土砂災害のものをチェックするといいですね。
ハザードマップは各地域で災害別につくられていますが、国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト(https://disaportal.gsi.go.jp/)」では「重ねるハザードマップ」という、それぞれのマップを重ねて表示できるコンテンツがあります。自治体のハザードマップは原則として市町村単位で表示が切られていますが、重ねるハザードマップは市町村の境界をまたいで表示することができるため、町外れに住んでいる場合や隣町へ通勤通学している場合は有効です。日本中どこでも生じる大地震と異なり、浸水や土砂災害は発生する地域が地形によりほぼ決まっています。ぜひ家を建てる前の土地選びにハザードマップの確認という作業を追加してください。
【一戸建て住宅の台風対策】注意点と備えるべきポイントは?
強風で住宅がバラバラに倒壊するという事例は少数ですが、窓ガラスなどが割れて強風が住宅内に吹き込んだ場合、圧力差が生じて屋根が吹き飛ばされるというケースはあり得ます。雨戸やシャッターがあれば窓ガラスを守ることができますが、それらがない場合、どうしても窓ガラスが割れやすくなってします。割れない対策としては、ガラスの外側に板を貼るということになりますが、作業が難しいうえに、台風が来るたびにおこなうことを考えると現実的ではないため、やはり雨戸やシャッターが必須ですね。
雨戸やシャッターは後付けも可能なので、現在、住んでいる家にそれらがない場合は工務店などに問い合わせてみましょう。また、ガラスの内側に飛散防止フィルムを貼っておくことで、もし窓ガラスが割れてしまうことがあっても被害は最小限に抑えられます。
一戸建て住宅やマンションの低層階では、浸水への対策も必要です。河川の洪水で自宅が床上浸水する恐れのある地域にお住まいならば、命を守るための避難が最優先となります。しかし、河川がない地域の場合も「内水氾濫」の恐れがあるので注意しましょう。川の水が増えることで町に降った雨水を下水から流せなくなり、マンホールから水が噴き出したりする現象です。大規模な内水氾濫は街を水没させるほどの被害をもたらしますし、そこまでいかずともトイレが流せなくなるといった影響がありますので、排水溝は事前に封鎖しておくといいですね。ポリ袋に水をいっぱいに入れて水嚢を作成し、その水嚢を排水溝の上や便器の中に置くことで封鎖することができます。
【マンションの台風対策】注意点と備えるべきポイントは?
台風だけでなく津波にも言えることですが、浸水害においては高い場所に逃げることが唯一命を守る方法となります。よって、自宅のフロアが「沈まない高さ」である場合、浸水対策はあまり必要がないと言えるでしょう。しかし、マンションは受水槽・電気設備・エレベーター設備といった重要設備が地上1階や地下にあるケースが多く、その場合はライフラインが長期間停止してしまう恐れがあります。そのため、非常食などの備蓄は重要となりますし、とくに非常用トイレは地震災害などの際にも有効なので、1~2週間分は用意しておくといいですね。
なかでも優秀なのはクリロン化成のBOSシリーズ。通常の非常用トイレは凝固剤と袋のセットですが、このBOSシリーズはそこにもうひとつ防臭用の袋が入っていて、臭い対策がしっかりとされているのでオススメです。トイレットペーパーと合わせて、こちらも備えておきましょう。
また、タワーマンションなどの高層階に住んでいる場合は、構造上、強風によって室内に大きな揺れが生じる可能性があります。地震対策も兼ねて、背の高い家具や倒れやすそうな家具はL字金具や耐震ジェルマットで固定し、キャスターつきのものは車輪をロックしておくとより安心です。
台風の被害拡大を防ぐために備えたいこととは?
台風の被害拡大防止対策として、第一におこなっていただきたいのは、家の外にある植木鉢やインテリア類、自転車などを室内にしまっておくことです。不可抗力で植木鉢が飛んでしまい、近隣の住宅を傷つけた場合は法律上では免責となりますが、ご近所関係などを考慮すると片づけておくべきですね。どうしても家やガレージに入りきらないようなものは、ロープで柱などにしっかりと固定しておきましょう。
急な停電のための備えとしては、自動点灯型のライトも便利です。部屋のコンセントに差しておけるもので、停電すると自動的に点灯する仕組みになっています。寝室や脱衣所など、停電したときに身動きが取れなくなる場所ではとくに効果的で、通販サイトで1,000円~2,000円くらいで売っています。
避難時には火災にも気をつけましょう。台風に火災は関係ないように感じるかもしれませんが、避難して家から離れているあいだに停電し、復旧したあとに通電火災が起きる可能性はあります。停電で止まっていたヒーターが電気の復旧により過熱して火災につながる恐れや、浸水によって内部の基盤や配線が故障した電化製品が、通電後に発火してしまうケースがあるので、避難時にはブレーカーを落とし、可能な限りの電化製品のコンセントを抜いて逃げるようにしましょう。
台風時にどうしても外出しなければならないときは?
基本的に台風の上陸中や浸水した場合には外を出歩かないことが一番です。特に浸水して足下が見えなくなっている状況での屋外避難は、その場に留まると命が危ないという状況以外ではおこなうべきでありません。どうしても出なければならないときは、しっかりと対策をしたうえで出かけましょう。 道路が浸水している場合、フタの開いたマンホールや用水路などに落ちてしまうと生死に関わります。レジャー用のライフジャケットや浮き輪・ゴーグルがあれば装着し、さらに長い棒などで足元を確認しながら移動するといいでしょう。
それほど水位が高くないのであれば長靴を履くのが有効ですが、もし、なかに水が入ってくるレベルの水位なら、固定できない長靴だとすぐ脱げてしまうため、できればくるぶしまでを覆うハイネックの紐靴を履いて、がっちり紐を結んで脱げないようにしてください。
暴風雨のなか移動する場合、もちろん公共交通機関を使う方が安全ですが、徒歩で移動しなければならないときは、飛来物から頭部を守るためにヘルメットや頭を保護できるような帽子をかぶることが必須です。暴風雨に煽られないよう、雨具はセパレートタイプのものを着用するのがオススメです。自転車やバイクは転倒しやすくなるため、使用は控えましょう。
台風対策のまとめ
台風や水害は、日本全国どの地方に住んでいても被害に遭う可能性はありますが、地域や環境によって必要な対策が異なります。ハザードマップを調べずに避難が遅れることはもちろん危険ですが、避難が不要な地域に住んでいる場合は、慌てずに備えることが重要です。災害時には、何よりも命を大切に考えた行動をとるよう心掛けましょう。