国土交通省「河川事業概要2021」によると、2008年~2017年までの10年間に、約97%以上の市町村で洪水や土砂災害などの水害が発生しています。97%以上ということは、水害は日本のどこに住んでいても起きうるリスクがある身近な災害のひとつですね。とはいえせっかく建てたマイホームが浸水するなどの被害はできれば避けたいものです。では、できるだけ水害の被害を最小限に抑え、住宅や私たち自身を守るにはどうしたら良いのでしょうか。
水害とは?
「水害」とは、大雨や台風といった多量の降雨が原因となり発生する災害の総称で、「外水氾濫」と「内水氾濫」に分類できます。
河川の増水や氾濫、堤防の決壊などにより家屋などに浸水が発生するケースは「外水氾濫」です。対して、下水道の排水能力超過などを原因とした「内水氾濫」は、マンホールや雨水枡から水が溢れるケースなどが該当します。こちらは河川の近くではなくても発生リスクがあります。
かつては水害と言えば、洪水による「外水氾濫」を想像する人が多かったと思います。しかし、近年は局所的な豪雨の発生が多くなっており、コンクリートやアスファルトの地面に覆われ雨水の浸透能力が低い都市部を中心に「内水氾濫」もしばしば発生しています。
水害が起こりやすい場所
家を建てるエリアを検討中の人は、水害リスクが起こりやすい場所を把握しリスクが低い場所を検討する、もしくはリスクに備えた家づくりをしたいですね。では、水害を防ぐにはどのような立地に注意をしたら良いのでしょうか。
海や川の近く
川の近くや沿岸部にある家は、恵まれたロケーションや風通しの良さなどが魅力。河川敷に近ければ、自然を間近に感じながらスポーツに打ち込むにも最適です。しかし、大雨などの際に河川の増水や海の高潮などの影響を受けやすい立地でもあるため、注意が必要です。地盤が弱い可能性もあるため、土地を購入する前に状態を確認しておくと良いでしょう。
海や川に近い立地すべての水害リスクが高い訳ではなく、堤防の位置や土地の高さなどの条件によってはリスクが低いエリアもあります。事前にハザードマップなどで確認しましょう。
埋立地
埋立地は地盤が緩く、水害のリスクが高い傾向があります。特に、田んぼを埋め立てた土地は、周囲より低い場所に作られている傾向があり注意が必要です。「元々がどんな土地だったのか分からない」という人は、「今昔マップon the web」などで地図をチェックしましょう。
地盤の強さは目で見ても分からないので、家を建てる前に地盤調査を行いましょう。一戸建ての場合、スウェーデン式サウンディング試験を実施するケースが多く、おおむね5~8万円程度の費用がかかります。地盤が軟弱だと判断された場合は、地盤補強工事を検討します。
周辺よりも低い場所
周囲よりも土地が低い場所にあると、水が流れ込んでくる可能性があります。地図情報で標高や海抜などを確認しておきましょう。 例えば、丘の上など高いところにある土地は水害リスクが低い傾向にあります。ただし、丘の中腹の住宅は切土の上に盛土を行って建てられているケースがあります。大雨で盛り土が流され、土砂災害が発生するリスクあるので、事前の確認が必要です。
水害のリスクを知るために「ハザードマップ」を確認しよう
土地やマイホームの購入前に、検討している地域の水害リスクを知りたいのであれば、ハザードマップを利用しましょう。ハザードマップは、国土交通省による「ハザードマップポータルサイト」で閲覧することができます。これから住もうとしているエリアの危険度を事前にハザードマップで確認しておくことで、水害リスクに応じた家づくりができますし、いざというときに即時対応ができるよう、対策を立てることもできます。
浸水深をチェックしよう
水害に関連するハザードマップは、「洪水ハザードマップ」や主に沿岸部で重要となる「高潮ハザードマップ」の他、内水氾濫を対象とした「内水ハザードマップ」を作成している自治体もあります。
それらを見る際、チェックしておきたいのが「浸水深の目安」です。浸水深とは、河川の氾濫などにより住宅が浸水した際に想定される深さを指し、ハザードマップに記載された浸水深を超える状況に陥った場合は避難を考える必要があります。
避難といえば安全性が高い別の建物へ移動する「水平避難」が一般的ですが、建物が浸水しているものの倒壊の恐れがない場合などは、同じ建物の上の階へ移動する「垂直避難」が推奨されるケースもあります。
例えば、木造一戸建ての場合、想定浸水深が概ね1メートル以下の場合は1階から2階へ、3階建ての場合は想定浸水深が概ね3メートル以下であれば1・2階から3階へ、「垂直避難」することも選択肢のひとつとなるでしょう。
ハザードマップをチェックするだけで満足せず、該当エリアで過去にどのような水害の被害があったのか調べることも大切です。また、実際の土地を歩いてみることで、どこが低地なのか、坂が多いエリアか否かといった情報を体感することができ、その土地の理解がより深まります。
水害リスクを意識した家づくり
水害リスクを軽減するためには、より被害が大きい床上浸水を防ぐことが大切です。
盛り土でかさ上げする
盛り土をして、敷地全体を高くします。高低差がある土地の斜面が崩れないよう、鉄筋コンクリートの擁壁を設け、土砂崩れを防ぎます。
高床式にする
家の基礎を高くします。例えば、1階部分を柱などで高くして駐車場にしている「ピロティ構造」の家をよく見かけますが、生活空間となる2階の床面が高くなるので浸水のリスクを軽減できます。基礎部分を高くし、1階の床面を高くする方法もあります。
防水性の塀で家を囲む
防水性の塀で家を囲むことで、敷地外からの浸水を防ぎやすくなります。開口部には、防水性の門扉を設置しましょう。
防水性の外壁を設ける
防水塗料を塗布して外壁の防水性を高める、1階の外壁をRC造にするなど、外壁を防水性とすることで建物へ水の浸水を防ぎます。玄関や駐車場の開口部には、止水板を設置できるようにしておきましょう。
屋根の形状を工夫する
ちなみに、屋根の形状によっても水害リスクが変わります。フラットな形状の「陸屋根」は四角い箱のようなフォルムがシンプルでスタイリッシュですが、勾配がないので通常の屋根よりも水はけが悪く、防水層のメンテナンスを怠ると浸水リスクが上がります。屋根が一方向に傾斜している「片流れ屋根」は、傾いている側にしか雨樋を設置できず、こちらも通常以上にしっかりとメンテナンスをしないと劣化による浸水リスクが増大します。
水害リスクを優先するのであれば、4方向に傾斜が広がる「寄棟屋根」がおすすめです。
今からできる、非常時のための準備や対策
既に家を建てた後でも、心がけひとつで水害から家や自身を守ることができます。
水の侵入口を土嚢で塞ぐ
最も一般的な水害対策としては、土嚢で浸水を防ぐ方法があります。ホームセンターなどで土嚢袋を購入し、土を詰めて使用します。平たく・隙間なく敷き詰めること、積み重ねる場合は互い違いになるようにずらしながら並べることがコツです。ブルーシートを併用することで止水効果を高めると、なお良いでしょう。玄関やガレージ、排水溝などの前に並べて浸水を防ぎます。
保管場所の確保や土の用意が難しい場合は、水で膨らむ吸水式の土嚢袋などを購入しましょう。非常時には、ごみ袋に水を入れて簡易的な「水嚢」にする方法もあります。
下水道の側溝や雨水枡を掃除する
下水道の側溝や雨水枡は、掃除をしておかないと詰まりの原因になってしまいます。定期的にチェックをして、ビニール袋や落ち葉などのごみで水の流れを止めないようにします。また、道路上にカーステップやプランターなどを置くことで、雨水の流入を妨げてしまっている家もありますので、合わせて注意しましょう。
屋根や外壁は定期的にメンテナンスをする
屋根や外壁、バルコニーなどが劣化することで、雨水が内部に染み込み、雨漏りが発生するケースが少なくありません。屋根の破損や雨樋の詰まりを原因とする浸水や、外壁のクラック(ひび割れ)やエアコンの配管穴などから雨漏りするケースが多いので、定期的にメンテナンスをすることでリスクを軽減しましょう。また、天窓がある家の場合は、合わせて劣化がないかチェックするようにしましょう。
火災保険の「水災補償」をチェック
どんなに気を付けていても、水害リスクをゼロにすることはできません。いざというとき、早期に復旧するために、火災保険の「水災補償」で建物や家財の損害補償を受けることを考えましょう。まずは「建物」と「家財」の双方の補償を受けることができるかどうか、補償内容を確認します。
また、一般的な火災保険に加入している場合、水災時の支払い要件として、
1.建物または家財それぞれの時価もしくは再調達価額の30%以上となる損害
2.床上浸水または地盤面から45cmを超える浸水を被る損害
上記のいずれかの基準を満たした場合に保険金が支払われることになっています。つまり、支払い基準に満たないと保険金の支払いを受けることができません。特約の付加や火災保険の見直しにより、こうしたリスクを回避することができますので、加入している火災保険の内容を確認しておきましょう。
まとめ
マイホームを購入する際は、検討しているエリアが水害リスクの高い土地なのかどうか、ハザードマップをチェックし、安全性を確認しましょう。水害リスクを意識した家づくりや、非常時のための準備や対策、いざというときにどのような行動を取るべきか把握しておくことが、水害から自身や住まいを守ることに繋がるのではないでしょうか。