メンタルヘルスカウンセラーがストレスを抱えている人へ贈る「こころのセルフケア術」

テクノロジーの進化や環境の変化で生活や仕事のやり方が目まぐるしく変化する現代社会。ストレスを感じない人はいないでしょう。また、さまざまな悩みや不安を抱えながら日々を送っている、という方も多いと思います。そこで、陸上自衛隊のメンタル教官として現場のメンタルヘルスに携わる経験を持ち、現在も広くカウンセリングを行なっているメンタル・レスキュー協会理事長の下園壮太さんに、ストレスを抱えた現代人に向けた自分でできるメンタルケア「こころのセルフケア術」について、伺いました。

下園壮太プロフィール
下園壮太 プロフィール

NPOメンタル・レスキュー協会理事長

陸上自衛隊で指揮官・幕僚を経験後、初の心理幹部として多数のカウンセリングを経験。その後、各級指揮官に対するコーチングをしつつ、衛生科隊員やレンジャー隊員等に、メンタルヘルス、カウンセリング、コンバットストレス対策等を教育。現在は、個人でメンタルコーチを提供しながら、NPOを通じてクライシスカウンセリングを広めつつ、産業カウンセラー協会、県や市、企業、大学院などで、リーダーシップ、メンタルヘルス、カウンセリング、ストレスコントロールなどについての講演・講義・トレーニングを提供。

「自衛隊メンタル教官が教える心の疲れを取る技術」(朝日新聞出版社)「折れないリーダーの仕事」(日本能率協会マネジメントセンター)等著書40冊以上。「ホンマでっか!TV」等の出演、雑誌の連載等。
公式HP: http://www.yayoinokokoro.net/

メンタル・レスキュー協会の下園壮太です。体が病気になるように、こころもまた、負荷をかけ続ければ弱っていってしまいます。とくに現代人は、さまざまな“こころの疲れ”によって“うつ”状態になる方も少なくありません。悩みやストレスの多い生活のなかで、自分のこころをケアするにはどうしたら良いのか。その考え方やストレス解消法との付き合い方について、お話いたします。

こころの疲労度を認識して“疲労の借金”を返す

こころの疲労度を認識して“疲労の借金”を返す

ストレスを抱えたこころのケアには、まず自分自身が“疲れている”と自覚することが大切です。私はこころの疲労状態には1から3の段階があると考えています。「1段階疲労」の場合、しっかり眠れば体力を回復できますし、楽しいことをすればストレス解消もできます。しかし、疲労の段階が進むと、ストレスを受けたときのこころへの負担が2倍、3倍となってしまうため、どんどん元気な状態まで回復することが難しくなってくるのです。しかも、「2段階疲労」のときは“無理をすれば頑張れる”ため、「いつも通りにできない自分が悪い」「怠けてはいけない」と自分を責めて無理をして、まともに回復できないまま“うつ”的な状態である「3段階疲労」へと進んでしまいます。

自分の疲労段階に気付くためには、自分自身を日々観察して、自分なりのチェックポイントを見つけることが重要です。たとえば、タバコやお酒の量が増えた、以前までは楽しかった趣味に没頭できなくなったなど、人によって変化はさまざまなので、こうなったら危険信号だということは一概には言えません。むしろ、世間で言われている危険信号が固定観念になってしまい、自分の目を曇らせることすらあるのです。

なので、まずは自分のことを労わる気持ちで、自分自身をよく観察してみましょう。また、不眠や食欲不振といった体調の変化や「イライラする」「やる気が起きない」といった心境の変化があったら、不摂生や怠けと思うのではなく、「自分は疲れているのかもしれない」と考えてみるのも大切です。

では、自分がいつもより疲れている「2段階疲労」の状態であると気付けたら、どうしたら良いのか? 疲労度の高い状態では、ストレスの原因を解決しようとするのではなく、休息をとり、楽しいことでストレス解消をはかり、心身を回復させることで“疲労の借金”を返していきましょう。とくに睡眠をとるのは心身ともに休めることができるので良いのですが、「休むために8時間寝なきゃ」などと考えると逆に疲れてしまうので、目標設定などはせずに自分が楽だと感じるように睡眠をとってください。

“疲労の借金”の返し方

疲労の借金を返すためのストレス解消法は、基本的に好きなことをするのが良いですが、テーマパークなどで1日中遊ぶような“ハシャギ系”は避けましょう。この方法ではストレスを解消することはできますが、肉体の疲労は溜まってしまうので、疲労の借金を返したことにはならないんですね。

私は「2段階疲労」の方には、“おうち入院”することを薦めています。おうち入院とは、一般的な入院時のように活動範囲を絞り、心身を休めることに重きを置いた生活のことです。きっちり睡眠をとったうえで、体に負担のかからない楽しみ方、たとえば音楽鑑賞や映画鑑賞、読書やゲームといったものでストレスを解消します。なので、普段から体力を使わないで楽しめる趣味を探しておくのも有りでしょう。

ストレス解消法との上手な付き合い方と注意点

アクティブ系ストレス解消法との付き合い方

元気な状態のときはアクティブ系のストレス解消法を実践

昨今のコロナ禍において、世界各国がかなり厳しい外出規制をしましたが、その際にイギリスやフランスなど複数の国で“犬の散歩”に許可が出ていたのはご存知でしょうか。厳しい外出規制のなかでも許可が出るほど、動物には運動が必要ということです。人間も同じ動物なので、やはり健康を保つためには運動がとても重要なんですね。平常時よりも疲れているときは、心身ともにとにかく休ませることが大切ですが、元気な状態ならば体を動かすストレス解消法は良いことだと言えます。

では、どんな運動をしたら良いのか? これは“自分に合うもの”を見つけてみてください。さまざまなスポーツから、ストレッチ、ヨガ、ピラティス、筋トレ……あるいはゲームで体を動かすのも良いでしょう。大切なのは自分が“楽しく続けられる”ということ。「みんなが良いと言っているから」という感覚で選ぶのではなく、自分に合うものを探してみてくださいね。

SNSとの付き合い方

SNSとの付き合い方

SNSが趣味になっているという方は、自分が“SNS依存”ではないかと感じてしまっていませんか? 依存という言葉からは、ネガティブな印象を受けますが、もし依存しているとしても、それによってストレスが解消できているなら良いと私は考えています。

ただし、SNSの人間関係を重視しすぎて睡眠不足になったり日中の集中力が欠けたりと、現実の生活に支障が出る場合は、あまり良い状態とは言えません。日常生活とのバランスが取れているのならば問題ありませんが、自己嫌悪してしまうほどだったら控えることを検討してみてください。その場合、まずはしっかりと睡眠を取ります。そのうえで、SNSがトータルでプラスになっているか、マイナスになっているかを冷静に考えてみましょう。

“しがみつき行為”をやめたいときには

アルコールやギャンブルに依存してしまう“しがみつき行為”

ストレス解消法がギャンブルやアルコールだという方もいらっしゃるかと思います。依存度が高く、経済的、あるいは健康的な負担が大きくなることもありますが、これらも日常生活とのバランスや精神的な面において、トータルでマイナスになっていないのであれば問題ないと考えます。

しかし、健康状態に問題が出ているので本当はやめたい、でもやめられないという場合はどうしたら良いのか。精神的にギリギリの状態の人が何かに依存していることを、私は“しがみつき行為”と呼んでいますが、この行為でなんとかバランスを取って生きている方も少なくありません。自分でもデメリットに気付いているけれど、やめることがなかなかできない。泥沼に入って茨の枝にしがみついているようなもので、血が出て痛いから離したいけれど離すと沈んでしまう、というような状態です。

そのような方に何が必要なのかというと、やはり“休むこと”なんですね。アルコールやギャンブルに依存してしまう方は、自分が通常よりもこころが疲れている状態だと気付いて、できるだけこころと体を回復させてあげましょう。もしもアルコール無しでは眠れないような状態であれば、睡眠導入剤を服用するというのもひとつの手段です。精神科だけでなく内科でも処方してもらえますし、病院通いに抵抗がある方は市販薬やサプリを試してみても良いと思います。

ネガティブな気持ちは“人間の必要感情”として捉える

ネガティブな気持ちは“人間の必要感情”として捉える

不安や怒り、妬みや猜疑心などのネガティブな感情が強いとき、「そんな気持ちになってはいけない」と自分を責めてしまう方がいます。しかし、ネガティブな感情を持つことはけっして悪いことではなく、それらの感情は人間にとって、“必要感情”だということを忘れないでください。

人間は、原始時代には猛獣から襲われたり、仲間内のクーデターで縄張りを追われたりと、生死にかかわるような危険が多くありました。そのなかで、不安や怒り、猜疑心といった感情は、人間が生きていくために必要であったからこそ育ったのだと言えます。悪いものではなく、必要な感情と捉えることができれば、ネガティブな感情が生まれたときでも自分を責めずに楽になれますよ。

また、通常の状態であれば、そのような感情もある程度は理性でコントロールできますが、ネガティブな気持ちが抑えられないときは、“疲労の段階”が進んでいる可能性があります。ネガティブな感情が次から次へと湧いてしまう、大いに結構です。取り返しのつかない状態になる前に、自分が疲労していることに気付かせてくれた、と前向きに捉えてみましょう。

「こころのセルフケア術」 まとめ

“こころの疲れ”というのは、どうしても自分では気づきにくいもの。しかし、いろいろなストレスが重なって蓄積した疲れをケアしないまま生き続けると、“うつ”になってしまう可能性もあります。自分を責めて頑張りすぎず、疲労の状態を理解することが「こころのセルフケア」の第一歩。そこから、自分に合った休み方やストレス解消法で、こころをケアしてあげてくださいね。

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