一昔前まで、犬の飼育と聞くと「屋外の犬小屋で飼う」というイメージがあったかと思いますが、最近では室内飼育が推奨されています。では、お家の中で愛犬と一緒に幸せに暮らすには、どのようなことに気を付ければ良いのでしょうか?建築家で家庭動物住環境研究家の金巻とも子さんに、室内飼育の考え方や共に暮らすための住まいの工夫について、お話を伺いました。
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犬・猫と幸せに暮らすお家とは?しつけトレーニングと隠れ家の大切さを家庭動物住環境研究家が解説
家庭動物住環境研究家・一級建築士・博士(工学)・一級愛玩動物飼養管理士
大手建築会社の設計部勤務を経て、1998年に(旧)金巻・こくぼ空間工房設立。設計業務のほか、家庭動物(ペット)との暮らしをテーマに住環境コーディネーターとしても活動。住宅設計では、人と動物の住行動を踏まえた「隠れ家」空間と空気環境を重視した設計を得意としている。「犬猫には、必要なものを過不足なく」がモットー。
学術研究では、建築学では2010年より日本建築学会材料施工専門員会で活動し、2013年に日本建築仕上学会において、「業績名:ペット共生住空間用建材に関する研究と技術開発」で学会賞(技術賞)を受賞。伴侶動物学では、ヒトと動物の関係学会の2000年の月例会においての「集合住宅における動物飼育の諸問題」の発表を始めに、日本ペットドックトレーナーズ協会のカンファレンス等にて、住環境からの報告を続けています。
家庭動物住環境研究家の金巻とも子です。現代社会における犬の室内飼育は、飼うスペースの限られている都心だけではなく、郊外の庭付き一戸建てでも珍しいことではありません。室内で犬を飼うのは不自然でかわいそうと思われるかもしれませんが、心の健全性を保つために、家族というひとつの群れが同じ空間で暮らすことは大切なことです。今回は、室内飼育の基本と愛犬の気持ちをくんだ住まいの工夫を解説しますので、ぜひ実践してみてくださいね。
室内飼育の基本と住まいの工夫
同じ住空間で言語の違う動物同士がストレスなく暮らすには、飼い主は犬の性質や気持ちを理解し、そのうえでお家のルールを理解してもらえるよう働きかけるのが大切です。言葉だけでは伝わりにくいルールは、犬にもわかりやすいように住まいを工夫して教えてあげるようにしましょう。入ってはいけない場所ならば、段差やドアで明確に示すなどをして居場所を「制限」し、同時に犬が自由に過ごせる空間を「確保」することが基本になります。
犬と暮らす住まいの工夫①サークルで居場所を制限して管理責任スペースを減らす
犬は室内で自由に歩き回れる場所をテリトリーだと考えています。テリトリーは犬にとっての「管理責任スペース」なので、その場所に入ろうとする来客は侵入者と認識して吠えますし、得体の知れないものが置いてあれば触ったり、噛んだりして確認するなどの行動をとります。警戒する範囲が多い状態は犬にとってもストレスです。家の中の「触ってもいいものといけないもの」などの基本的ルールを覚えるまでは、サークルを使って犬のテリトリーを制限し「管理責任スペース」を減らしてあげると良いでしょう。
さらに、サークルの中には動揺したり怖がったりしているときに逃げ込める場所、安全で安心できる「隠れ家」を確保してあげます。犬にとっての隠れ家は寝床を兼ねたハウスになるので、かたちや大きさ、素材には気を使いましょう。オススメは移動時にも使えるコンテナ状のクレートです。クレートの素材にはソフトとハードがありますが、上からものが落下してきたときに身を守れるハードクレートは、防災の面でも優れています。
犬と暮らす住まいの工夫②収納スペースを確保
犬にとって、室内に置いてあるものはすべておもちゃに見えてしまいます。壊されたくないものや触らせたくないものを片付けられるよう、収納スペースはしっかりと確保しましょう。部屋が片付いていれば、愛犬が自由に過ごせる空間の確保にもつながります。
また、テーブルの上にものを置くと、犬が尻尾を振って叩き落としてしまうことがあるので注意しましょう。とくにゴールデンレトリバーなどは、「オッターテイル」という太くて力強い尻尾を持つので、テーブルの上にものを出しっぱなしにするのはNGです。犬が尻尾を振る行為は、意思を伝えたり感情表現したりするのに必要な行動ですので、責めてはいけません。そして、犬の気持ち的にも、大好きな飼い主が困る行動はしたくないと思っているので、ミスを誘発してしまう可能性があるものは、できるかぎり対処してあげるようにしてくださいね。
愛犬と共に暮らす住まいに適した建材や床材
床材は目地の少ないものを選ぶ
犬は平面で生活するので、抜け毛や食べこぼしなどが床に溜まりやすくなります。とくにハウスダストやにおいの元は、フローリングならば板と板の間の“目地”に残りやすく、健康を損なったり、その場所を掘るなどのトラブルが起こりやすくなったりするので、床材選びは重要です。目地が少なく、水分が奥に染み込まない撥水性の高い素材を選ぶようにしましょう。
また、犬は自分のトイレで排泄した後、足の裏にオシッコがついたまま室内を駆け回ってしまうことがあります。その結果、においが床に残りそこをトイレだと勘違いしてしまうこともあるので、拭き掃除のしやすい環境を整えることは、しつけのしやすさにもつながりますよ。
吠え声によるトラブルを減らすには?
吠え声で近隣に迷惑をかけないように、お家の壁や窓には防音対策をしておくと良いでしょう。外の騒音を「不審者がいる!」と勘違いさせてしまうのは、犬にとってもストレスなので対策が必要です。とくに道路や隣のお家との距離が近い窓からは、犬の居場所を離すように心がけましょう。防音対策としては、サッシを遮音等級の高い製品にする、もしくは既存のサッシに室内から取り付けられる「インナーサッシ」というアイテムを使う方法があります。そのほか、窓に遮音性の高い素材のカーテンを付けるのも良いですね。
愛犬の気持ちをくんだ「トイレ」の工夫
トイレの設置場所は空気の流れの最終地点、排気口などの近くで、飼い主の注意も行き渡る場所がベストです。窓のそばや空気を取り入れるための給気口の近くだと部屋全体ににおいを広めてしまいますし、排泄物を放置すると食べてしまう場合もあるので、気を付けてくださいね。畳の香りは犬の尿意を誘うので、和室にトイレを置くのもオススメできません。一方で、サークル内にトイレを置く場合は、寝床となる隠れ家とトイレの距離を少し開けられるよう、ある程度の広さがあるサークルを用意してあげましょう。
また、犬は土や芝生など“やわらかい触感の場所”で排泄する習性があるため、やわらかいカーペットの上にトイレ用のペットシーツを設置すると、区別できずにカーペットをトイレだと勘違いしてしまうことがあります。ペットシーツを設置するときは、カーペットをさけて設置してあげてください。ペットシーツの大きさは、犬の体長の1.5倍ほどのものを用意すると良いですね。まっすぐ入って、用を足したらそのまま出られるように置くと、気に入って使ってくれるようになりますよ。
愛犬の気持ちをくんだ「食事場所」の工夫
食事場所は、基本的にどこでもOKです。トレーニング中はサークル内を食事場所とすると、しつけがしやすくなるのでオススメですね。犬がうつむいて食べたり飲んだりすると食べ辛いので、フードやお水のみの容器は少し高さのある場所に置くか、ハイスタンドのペットボウルを用意してあげましょう。また、犬は舌の裏に水を入れて飲むので周りに飛び散ることが多く、後片付けが大変なので、ランチョンマットやトレーを敷いておくと楽ですよ。
愛犬の気持ちをくんだ「遊び場」の工夫
お家に庭があれば、愛犬専用の運動スペースをつくると良いですね。たとえば、犬は掘る事が大好き。穴掘りする場所をつくってあげると、好きなだけ掘ることができるのでストレス解消になり、お家の中で床を掘ることも控えてくれるでしょう。庭のないお家でも、室内で穴掘りを楽しめるように工夫できます。
子ども用のビニールプールやプラスチックの衣装ケースを用意し、その中に新聞紙をクシャクシャにしたものや使わないタオル、そして、愛犬のお気に入りのおもちゃなどを隠して「宝探しゲーム」をさせてあげると、室内でも穴掘りが楽しめます。中綿やパウダービーズの入ったクッションなどは、破いて中身を飲み込んでしまうことがあるので使わないようにしましょう。
また、雪の降る日や真夏日など、散歩に行きづらいときもあるかと思いますので、室内には犬と一緒に遊べるプレイスペースがあると喜ばれますよ。“人と一緒に遊ぶ”ということが犬には重要です。人と一緒に行うトレーニングは、人が楽しんでいれば、犬にも楽しい時間なのです。プレイスペースでは怪我をしないように、飛んだり跳ねたりしても大丈夫なくらいの広さは確保しましょう。緩衝性のあるラグやカーペットなどを遊ぶときだけ敷くスタイルにすると、汚れても洗濯しやすいのでオススメです。
犬と一緒に暮らす住まいの工夫 まとめ
お家の中で犬と暮らす場合、トラブル対策に意識が向かいがちですが、なにより大切なのは、共に楽しく快適に暮らすという視点です。人のルールを一方的に押し付けるのではなく、愛犬の気持ちをくんだ工夫をするようにしてより良い信頼関係を築いてくださいね。
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