大事に育てている「苔テラリウム」を眺めていると、心が癒されるものです。しかし、突然カビが生えてしまったり、虫が出てきたりなど思わぬトラブルに見舞われることも……。ほかにも、うまく苔を育てるにはどうすれば良いか、迷うこともあるかと思います。そこで、「苔むすび」の代表で苔の研究家である園田純寛さんに、苔テラリウムに関するさまざまな質問に答えていただきました。
苔むすび合同会社 代表
北海道大学大学院卒業(農学修士)。大学では苔を含む植物の生理生態、微生物との関係を研究。メーカーで研究開発に従事した後、独立。「苔むすび」として活動を始める。著書「はじめての苔テラリウム」(成美堂出版)
苔むすびの園田純寛です。大切に育てている苔テラリウムは愛おしく感じますよね。そんな苔から虫やカビが出てきてしまったら、大きなショックを受けてしまうかと思います。しかも、そのまま放置すると大切な苔が枯れてしまうので、早めの対処や事前予防が大切です。今回は、苔を元気に、健康的に育てるための知識を交えながら、よくある質問に回答していきます。
Q.苔テラリウムにカビは生える?
A.生えます。苔に元気がなくなったと感じたら要注意です。
苔が病気になる要因として多いのがカビ。苔テラリウム内にホコリとは違う白いフワフワとしたものが発生している場合や、斑点のようにポツポツと茶色くなっている部分が出ていると、カビが発生している可能性があります。このカビ菌を放置すると、苔がどんどん枯れていってしまいますので注意しましょう。カビの早期発見のためには、毎日様子を観察することが大切です。いつもと違う色見になっていたり、元気がなかったりなどの異変があれば早めに対処してあげてください。
一般的な植物は、湿度の高い密閉空間に置くとカビが生えやすいのですが、苔の場合は種類にもよりますがそれほど生えやすいものではありません。ただし、屋外の土には菌がたくさん含まれているので、採ってきた苔を使うときは土をしっかりと洗い落とすなど、対策が必要です。
Q.苔テラリウムにカビが生えたときの対処法は?
A.ベンレートという薬がオススメです。
カビが生えた部分に1000倍に薄めたベンレートを霧吹きで5〜6回程ほど吹きかけましょう。通常の霧吹きだと苔テラリウムの容器全体に液が広がってしまうので、細いノズル付きのものを使って患部やその周辺に当てるのが効果的です。大抵の場合、1日で効果が出ますが、それでも広がる場合は、再度かけてあげましょう。また、ベンレートは使い切りタイプで、水に溶いた状態では基本的に保管できないので、余ったら思い切って処分します。
薬を使えばカビの進行は抑えられますが、枯れて茶色になってしまった部分はもとには戻りません。しかし、しばらく経てば下から新しい苔が生えてくる場合もあります。カビ菌は自然界のどこにでもいるので完全に防ぐのは難しいですが、すぐに対処できるよう、苔テラリウムを始めるときにはベンレートも一緒に準備しておくと良いですね。
Q.苔テラリウムに虫は発生する?
A.発生します。土の中や枯れた部分に虫の幼虫や小さな卵がまぎれていることが多いです。
密閉容器を使用している場合、虫が容器の外から侵入してくることはほとんどなく、もともと土や苔に付いている幼虫や卵が原因です。とくに外から採ってきた土が付着している苔を使うと発生しやすいのでご注意ください。
苔テラリウムで発生する主な虫は、コバエと蚊の中間のような姿をした「キノコバエ」の幼虫や、大きな蚊のような「ガガンボ」の幼虫、「蛾」の幼虫などがいます。これらの幼虫たちは苔も食べますし、糞もしますね。幼虫自体は隠れているため観察していても気付きにくいのですが、苔が食べられてブチブチと切れていたり、テラリウムの中に粉のような糞があったりすれば虫がいる可能性が高いです。すぐに対処しましょう。
Q.虫の予防法や発生したときの対処法は?
A.殺虫殺菌剤を使います。
まずは、できる限り外から虫を持ち込まないことが大切です。苔も外から採ってきたものより専門店で売られているものの方が良いですね。しかし、幼虫や卵は見落とすくらい小さいものなので、これだけでは万全とは言えません。
なので、苔の植え付けが終わった後は殺虫殺菌剤の「ベニカ×ファインスプレー」を吹きかけ、予防しておきましょう。ボトルタイプなので保管も簡単。予防だけでなく、発生時の対処にも使えるすぐれものなので、用意しておくと便利ですよ。
Q.苔は1日何時間くらい光を当てれば良い?
A.1日8時間は光を当ててあげましょう。ただし、直射日光は避けてください。
苔は暗くてジメジメとした場所に生えているイメージがあります。しかし、生きものなので元気に育てるためには光が必要なのです。「屋外の日陰には光が当たらないのに、なぜ元気に育っているの?」と疑問に思われるかもしれませんが、実際に照度計で日陰の明るさを測ると、屋内と比べてかなり明るいことがわかります。屋内の暗い場所に置いたとしてもすぐにダメになってしまうことはありませんが、ヒョロヒョロと細長く伸びるばかりで元気良く育たないことが多いので、きちんと光を当ててください。
自然界と同じように、1日8時間以上は光が当たっているのが望ましいですね。照明がしっかり当たる場所か、外の光が入ってくる窓際に置くのが良いでしょう。ただし、苔テラリウムの容器は熱を保ちやすいので、強い直射日光が当たらない北の窓際がオススメです。それ以外の窓際に置く場合は、周りにインテリアなどを置いて直射日光が当たらないよう工夫してくださいね。
Q.苔が良く育つ光はある?
A.専用の照明がオススメです。
オフィスのように一定の明るさが保たれている環境なら、デスクに置いておくだけでも良く育つのですが、お家で電気をつけっぱなしにするのは難しいですよね。そこでオススメなのが、デスクライトやLEDテープライト。テラリウム向きの苔の成長にベストな光量は1000〜5000ルクスとなるため、照明を購入する際には光量をチェックしておきましょう。5000ルクス以上の光を当て続けると、苔の色が薄くなってくる場合があります。
照明は市販のものでも大丈夫ですが、苔テラリウム専用の照明も使いやすいですよ。苔むすびで扱っている「育つライト」はより自然界に近い光の当たり方になっていますし、「ちょい乗せライト」は価格もリーズナブルでインテリアとしてもオシャレなので、検討してみてください。
Q.苔が良く育つ水はある?
A.ミネラル成分を含まない「純水」がベストです。雨水でもOK。
過去に「ミネラル(Na、Ca、K)を含んだ水」と「純水」を用意して実験したのですが、「純水」で水やりをした苔は生き生きと育ち、「ミネラルを含んだ水」で育てた苔は徐々に元気がなくなっていきました。この結果、苔の成長を妨げているのはミネラル成分であり、苔の成長にもっとも良い水はミネラルを含まない「純水」ということが分かったわけです。さらに純水は水垢も発生させないため、容器内が汚れにくいというメリットもありますね。
しかし、クローズド型やセミオープン型の苔テラリウムの場合、水やりの回数がそれほど多くないのでミネラルが蓄積されにくく、苔の成長への影響は少ないです。オープン型や屋外で苔を育てる場合は、水やりの回数が多くなるので、できるだけミネラル成分が少ない水を使うのが良いでしょう。
Q.苔テラリウムに適した室温・湿度はどれくらい?
A.室温は35℃以上だとNG。湿度はあまり気にしなくても大丈夫です。
苔は暑さに弱いので、容器の中の温度が高くならないように気を付けてください。とくに気温が35℃を超えると育成に支障が出てしまうため、夏場はエアコンが付いた部屋に移動させるなどして、暑い環境に放置しないようにします。逆に寒さには強いので、エアコンでの室温管理が難しいなら、冷蔵庫に入れてしまっても問題ありません。その場合、出し入れを繰り返すと気温差がストレスになるので、夏の間はずっと冷蔵庫に入れっぱなしの状態にします。
Q.苔は余ったら保存できる?
A.保存はあまりオススメできません。
余った苔は、基本的に保存できないと思ってください。販売されている苔はパックに入っていますが、そもそもパックで育てることは考えられていないので、そのままの状態で放置すると傷んでしまいます。できる限り余らせないほうが良いですが、どうしても保存しなければならない場合は冷蔵庫に入れましょう。
Q.苔テラリウムの容器が汚れることはある?
A.汚れます。容器の内側の汚れはほぼ水垢が原因です。
容器に付着した水垢は、クエン酸を染み込ませた温かいタオルなどで拭くと取れますが、クエン酸は苔にとって刺激が強い物質です。「汚れを取る」よりも「汚さない」ことを意識し、水やりをした後は、容器についた水滴をティッシュで拭き取ってあげて、水垢の発生を防ぎましょう。
Q.苔テラリウムにキノコは生える?
A.苔テラリウムにもキノコは生えます。
苔テラリウムの中にキノコが生えている様子は見ていてかわいいですが、成長してカサが開くと胞子を撒き散らすので、取り除いたほうが良いですね。さらに放置すると、どんどん腐ってしまうので気を付けましょう。理由はわかりませんが、私の経験上はタマゴケによく生えるイメージですね。
プロが教える苔テラリウムの上手な育て方 まとめ
苔テラリウムは室内で手軽に育てられるのが魅力ですが、生き物である以上、どうしてもトラブルは発生してしまいます。しかし、早めの対処を心がけ、水や光に気を遣えば、元気に育ってくれるはず。苔の育成に悩んだら、今回ご紹介したことをぜひ参考にしてくださいね。
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